AirbnbとJTBは10月1日、地域の遊休資産を観光や交流の拠点に変える新たな取り組み「地域未来にぎわい工房」の創設を発表した。両社は観光需要の拡大に伴う宿泊施設不足や地域資源未活用といった課題に対応し、2028年までに全国125地域への展開を目指す。第一弾は北海道上ノ国町での空き家活用事業で、地方創生における持続的なモデルづくりが本格的に動き出した。
発表会の冒頭で登壇したAirbnb共同創業者兼最高戦略責任者ネイサン・ブレチャージク氏は、日本の文化やおもてなしに敬意を示した上で、「旅行者は今、本物で現地ならではの体験を求めており、日本でもその傾向は顕著である」と強調した。同氏はAirbnbが委託した調査に触れ、日本人旅行者の85%が大都市以外の"知られざる地域"への関心を示していること、2024年には地方での宿泊予約が前年比25%増となったことを紹介した。こうしたトレンドは、観光を地域社会の活力へとつなぐ好機であると訴えた。
AirbnbとJTBは今年1月に包括連携協定を締結し、主に東日本で空き家活用や受け入れ環境整備を進めてきた。JTB大塚雅樹専務は「宿泊施設が少ない地域ではビジネスが成立しにくい。しかし私たちは交流創造事業へとシフトしており、Airbnbと連携することで、地域のアイデンティティを引き出し価値へ転換できる」と語った。
新たに創設された「地域未来にぎわい工房」は、両社が核となり多様な企業や団体と共に展開する共創型の仕組み。単なる観光振興ではなく、地域の暮らしに根ざした持続的なにぎわいを生み出すことを目標に掲げている。JTBが全国のネットワークを生かしてプロジェクトの組成や運営を担い、Airbnbは空き家の宿泊施設化やマーケティング支援を進める。また、賛同企業は自社の強みを地域課題に活かす形で参画することが想定されている。
対象地域は、需要と供給の不均衡が見られるエリアで、重点テーマとして①再エネ地域、②産業集積地域、③防災対応地域、④離島・周辺地域が設定された。例えば再生可能エネルギー開発が進む地域では工事関係者の宿泊需要に対応しつつ、将来的な観光や移住促進につなげる。また、防災対応地域では平時は観光拠点、災害時は避難所として空き家を活用するなど、多用途での利活用を目指す。
第一弾の取り組みは北海道上ノ国町で行われ、2025年4月からDIYやワークショップを通じて2軒の空き家が宿泊施設へ転換された。工藤昇町長は「遊休資産が資源として再活用されることで町に活気が戻る。今後30~40軒まで拡大し、地域ぐるみの受け入れ体制を整えたい」と意欲を示した。人口減少に直面する町にとって、空き家の活用はまちづくりの基盤になると期待感を示した。
また、Airbnbは海外でも地域活性化に資する取り組みを進めてきた実績を持つ。ブレチャージク氏によると、フランスやイタリア、スペインといった欧州でも同様のプログラムを展開。欧州でも8%~13%が空き家となっているとして、歴史的な建造物なども含め利活用するプログラムを進めているという。
なお、今回開始する「地域未来にぎわい工房」には、大日本印刷や良品計画、CCC、オリエントコーポレーション、損害保険ジャパンなどが既に参画を表明しており、今後さらに幅広い業種からの参加が見込まれる。AirbnbとJTBはこうした共創モデルを全国に広げることで、地方のにぎわいを未来につなぐ持続可能な観光の形を築いていく考えだ。
情報提供:トラベルビジョン(https://www.travelvision.jp/news/detail/news-118876)