コロナ禍を経て旅行の価値観が変わり、デジタル化やSNSの浸透が加速した中で、旅行の意思決定において新しいプレイヤーが登場しています。それは、「α世代」です。α世代とは、2010年~2024年に生まれた世代を指します。生まれたときからスマートフォンやタブレットなどが生活の一部として存在している世代です。
旅行先を決めているのは、親ではなくα世代?
α世代は、まだ自分一人で旅行の予約や決済をする立場ではないものの、すでに家庭内の意思決定に影響を与える存在となっています。
従来、旅行先を決めるのは「親」であり、子どもは連れていかれる立場でした。しかし、α世代ラボの家族インタビューから、従来の「親が選ぶ、子どもはついていく」という構造から大きく変化していることが明らかになってきました。実は、α世代はZ世代よりも親との距離が近く、親はα世代との対話を重視しています。
それにより、α世代がTikTokやYouTubeなど動画で見た「行きたい場所」を親に提案し、その提案が旅行先選びに大きな影響を与えています。特に、TikTokやYouTubeで紹介される体験型観光やフォトジェニックな観光スポット、そこにしかないご当地グルメなどは、『ここに行きたい!』というα世代にとって強力な「旅のきっかけ」になっているのです。そのため「α世代がSNSで見つけてきた観光地を親に提案する → 親子で一緒に調べる → 家族の旅行先が決まる」という流れが生まれてきています。

α世代のSNS利用実態から見る「旅行の入口」
α世代が利用しているSNSランキングでは、第1位がYouTube、次いでLINE、TikTokという順番になっています。SNSは旅行先選びにおいて「入口」としての役割を果たしており、検索エンジンで調べるよりも、TikTokやYouTubeのショート動画で「おすすめで流れてきた動画」、観光地の映像や体験コンテンツが、旅行への関心を刺激しています。

たとえば「インフルエンサーが紹介するおすすめ5選」「水上アスレチック体験」「一度は行ってみたい絶景スポット」など、短い動画のインパクトが旅のきっかけとなり、α世代が「行ってみたい」と親に伝えるケースが少なくありません。ここで注目すべきは、SNSが単なる「情報源」ではなく、α世代の好奇心を直接刺激し、旅行需要そのものを生み出す“触媒”になっている点です。
そのため、観光事業者や地域は「SNSで自然に見つかること」を前提にした情報発信設計が不可欠になります。α世代は検索して比較するよりも、TikTokやYouTubeで“たまたま流れてきた動画”や“推しインフルエンサーの紹介”に心を動かされます。その「行ってみたい!」という直感的な反応が親との会話につながり、結果として家族旅行の行き先を決める大きな要因になっているのです。
また、親世代の思い出と重なる“ノスタルジー”も大きく影響します。たとえば、「大学の時にその場所に行ってから30年ぶりに行く」「以前、おじいちゃん・おばあちゃんに連れて行ってもらった場所を思い出した」といった記憶が、自然と親子の会話を生み、旅行先選びの背中を押すケースが少なくありません。
観光地が取るべきSNS戦略の方向性
α世代ラボの家族インタビューを通じて見えてきたのは、観光地のプロモーションはもはや「親」だけを対象にしたものでは不十分であるということです。従来は、安全性・価格・アクセスといった親世代にとっての合理的判断軸を中心に訴求することが一般的でした。しかし、α世代が成長し消費行動に影響を与え始めた現在、その意思決定のプロセスには「α世代自身の声」が強く反映されています。つまり、親とα世代がともに納得できる体験を提供することが、今後の観光戦略の鍵となるのです。
そのため、観光地のSNS戦略は、単なる集客手段ではなく、プロモーション全体を形作る軸として機能させる必要があります。従来の安全性や利便性といった情報に加え、α世代に届けるには、「水上アスレチックで全身びしょ濡れになれる」や「絶景ポイントでジャンプして写真を撮れる」といった、体験が直感的に伝わる具体的なシーンを盛り込むことが重要です。これにより、家族と共有したくなる動機が生まれます。こうした“共有したくなる瞬間”を意図的に設計し、親子の対話を生む仕掛けを組み込むことで、親子双方の意思決定を自然に後押しすることができます。SNSを起点とした戦略こそ、未来の観光を動かす力となるでしょう。
α世代ラボとは
α世代ラボは、「α世代と社会・企業をつなぐ」をコンセプトに活動するマーケティング組織です。「α世代」を”点”ではなく”線”で見ていきます。α世代は今時点で高校生以下と若い層ですが、早い段階から当世代を調査をすることで、どのような価値観が形成されているかを明らかにし、情報発信をしていきます。
寄稿者 喜藤雄介(きとう・ゆうすけ)α世代ラボ 主任研究員