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伝統酒蔵を変えた“シンプルな組織論”、千葉酒々井・飯沼本家が語る地域発の成長モデル

コメント

■100年企業の組織の〝構造〟を変える ― 老舗酒蔵・飯沼本家 × 識学

飯沼本家 代表取締役社長・飯沼一喜氏に聞く

千葉県酒々井町で300年以上の歴史を持ち、法人化から100年を迎えた老舗酒蔵・飯沼本家。酒造業だけでなく、飲食、売店、キャンプ場、観光農園など「場づくり」を軸に事業を広げる同社が、近年組織マネジメントメソッドである「識学」を導入した。「識学」とは、感情論やあいまいな根性論に頼らず、役割とルール、指示系統を明確にすることで組織のパフォーマンス最大化をめざすマネジメント理論だ。

「伝統と革新」「職人文化とロジック」「家業と企業」。その狭間にある100年企業の組織のリアルに、識学はどのような光を当てたのか。

今回は16代目社長・飯沼一喜氏に、識学導入の背景と成果、そして組織運営がどのように改善し、経営にどんな変化をもたらしたのかを聞いた。

法人化から100年を迎えた飯沼本家

■「おいしい酒づくりと楽しい場づくり」——老舗酒蔵の経営哲学

――まず飯沼本家の歩みと、経営の理念をお聞かせください。

飯沼社長 飯沼本家の創業は江戸期と古く、会社組織となってからも2025年11月に100年を迎えました。現在は酒造業を中心にしつつも、飲食店、売店、キャンプ場、ブルーベリー農園など、酒蔵を中心とした楽しい場づくりに力を入れています。

理念は、実にシンプルです。「おいしいお酒づくりと、楽しい場づくり」。酒類消費が右肩下がりの中、ただ酒をつくって売るだけでは生き残れません。だからこそ、「場」を育てることが、地域にとっても会社にとっても新しい価値になっています。

■家業から企業へ、組織が抱えていたリアルな課題

――伝統産業として、どのような組織的な課題を感じていましたか。

飯沼社長 どの企業も同じだと思いますが、課題は2つ。「売上」と「コミュニケーション」です。以前は、社内の指揮系統があいまいで、「誰が上司で、誰が部下なのか」が不明瞭になっていました。社員は50人ほどで若手も多く、家族的でフラットではあるのですが、それゆえに線引きが甘くなり、意思決定が属人的になってしまう。そこにずっと危機感がありました。

■ 識学との出会い、「理念はいらない」に救われた

――識学を知ったきっかけを教えてください。

飯沼社長 最初のきっかけは広告です(笑)。「理念はいらない」「余計なコミュニケーションをするな」というメッセージが、まさに自分が抱えていた違和感に刺さりました。中小企業はよく理念づくりを頑張っていますが、識学はそこを見事に壊してくれました。とても痛快でした。加えて、副社長が高校の先輩だったこともあり、導入の後押しになりました。

――数あるマネジメント手法の中で、なぜ識学が「刺さった」のでしょう?

飯沼社長 とにかく「シンプル」だからです。ルールを決め、リクエストし、それができたかどうかだけを見る。余計なことはしない。必要のないコミュニケーションは取らない。中小企業こそ、これが刺さるはずだと感じました。

マネジメントの「シンプル」さの重要性を話す飯沼社長

■導入の現場、まず「線を引く」ところから始まった

――導入初期、どんなところから手を付けましたか。

飯沼社長 一番は「線引き」です。誰が上司で、誰が部下か。その上で、部下は上司の指示に従う。朝礼でも「皆さんの仕事は上司の言うことを聞くことです」と繰り返しました。最初は社員も違和感がありましたが、組織を「階層」で理解させるのはとても重要でした。

――社長自身の行動も変わりましたか。

飯沼社長 大きく変わりましたね。以前は「良い社長像」を演じて、社員に気を使っていました。でも識学を学んでからは、飲み会・周年行事はすべてやめました。必要以上に近づかないことで、むしろ会社はスッキリと。幹部以外とは必要以上に話さない。それだけで雑音が消えます。

■伝統と識学は「矛盾しない」

――酒蔵の「職人気質」と識学のロジックは相反しないのでしょうか。

飯沼社長 全く相反しません。むしろ酒造りは“ルールと手順”に従う世界です。また、醸造部ではジョブローテーションを導入し、特定の人に依存しない体制も整えつつあります。若手が育ちやすい環境になり、文化としても健全化しました。

飯沼本家では歴史ある建物などが見学できる

■週次ミーティングが利益を押し上げた

――識学導入後、具体的な成果はありましたか。

飯沼社長 一番分かりやすいのは、観光部門の利益が500〜600万円改善したことです。週次ミーティングを導入し、①声かけ人数②クロスセル商品の販売数③週次の売上進捗―といった行動数値を明確にしたところ、現場の動きがガラッと変わりました。「日次は細かすぎ、月次は遠すぎる。週次が最適」。識学の考え方がそのまま成果につながった好例です。

■経営者としての変化、「やらないこと」を決める勇気

――識学を通じて、ご自身のリーダーシップにも変化はありましたか。

飯沼社長 意思決定が速くなりましたね。社員が迷わないように「やるか、やらないか」を即決するようになりました。そして何より、「やらないことを決める」という発想が身につきました。突然の依頼をしない、必要以上に関与しない、ルールは公平に。これだけで社長業としても負担は減ると同時に、他事業に使う時間も生まれました。

2022年3月には、代々飯沼家当主家族が住み継いてきた築約300年の「母屋」を和食店「きのえねomoya」としてオープン

■識学は中堅企業の「伸びしろ」を最大化する

――伝統を守りつつ、変革を続ける上で識学はどんな役割を果たしていますか。

飯沼社長 識学は、成長企業の「骨格」をつくってくれる存在だと思います。正直に言えば、今の飯沼本家はまだ「家業感」が残っています。しかしながら、けれど、売り上げが15億、従業員100人規模になれば、識学はもっと効いてくる。私はそう確信しています。だからこそ、これから規模を広げていく企業には特におすすめしたいですね。

■未来へ、酒蔵を核に“地域の経済圏”をつくる

――最後に、地域企業や識学導入を検討する企業へメッセージをお願いします。

飯沼社長 識学は組織をシンプルにします。組織がシンプルになると、社長も社員も迷わなくなる。その分、やるべき仕事に集中できる。そして、100年企業であっても「変わるためのチャンス」をくれるのが識学だと思っています。飯沼本家としては、引き続き「酒造」「観光」「農業」「キャンプ」などを核に、この地(千葉・酒々井)に来る理由を増やし、地域丸ごとを盛り上げていきたい。識学はその基盤づくりにこれからも役立つと感じています。

今後も千葉・酒々井を舞台に地域を盛り上げることを誓う飯沼社長

取材 ツーリズムメディアサービス編集部 長木利通

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