熊(クマ)の出没が全国各地で相次ぐなか、企業活動への影響が深刻化している。東京商工リサーチ(TSR)が12月1日~8日に実施した「クマ出没と企業活動への影響」調査で、回答企業の6.5%(414社)が業務に影響が出ていると答えた。
山間部だけでなく住宅地周辺での目撃例も増えており、従業員が襲われるケースが確認されるなど、地域産業の事業継続にも影を落としている。調査はインターネット方式で行い、有効回答は6,309社。TSRによる同テーマの調査は今回が初めてとなる。
影響を受けている割合が最も高かったのは宿泊業で39.1%(23社中9社)。観光地での屋外作業や宿泊施設周辺での警戒強化など対応が求められ、負担が増している実態が示された。
続いて、電気・ガス・熱供給・水道業が21.7%、飲食料品小売業が21.2%、農林漁鉱業が21.0%と続き、計4業種が20%を超えた。通信・放送業や生活関連サービス業など幅広い分野でも影響が確認され、クマ出没が特定業種に限らない問題であることが浮き彫りになった。
地区別では、東北が28.9%(553社中160社)と突出した。北海道も15.4%(362社中56社)と高く、北陸8.6%、中部4.7%が続いた。
環境省が12月5日に発表した「クマ類による人身被害(速報値)」でも、11月末時点の全国230人の被害者のうち東北が154人(66.9%)を占めており、企業調査結果と同様に東北地方のリスクが突出している。
一方、クマの絶滅宣言が出ている九州でも0.9%(538社中5社)の企業が「影響が出ている」と回答し、被害や業務への支障が地理的な生息域を超えて全国に波及していることがわかる。
実際の影響内容を見ると、「従業員への周知・啓蒙に迫られた」が47.0%(181社)で最多となった。建設業(64.3%)、金融・保険業(60.0%)、運輸業(52.9%)では半数を超え、安全確保に向けた社内体制の強化が求められている状況がうかがえる。
「被害防止のための投資が必要になった」が27.5%(106社)で続き、監視カメラや防護柵の整備、出没情報の共有システム導入など、企業側のコスト負担が増大している。
自由回答では、深刻な事例も寄せられた。「従業員がクマに襲われた」(群馬県・道路貨物運送業)、「従業員が出勤できなかった」(秋田県・飲食料品小売業)、「農作物の食害」(山形県・飲食料品卸売業)など、事業継続に直結する被害が見られた。
また、「子どもの送り迎えのため勤務中に離席が必要となった」(秋田県)といった生活面の支障や、「複数人体制による巡回・点検が必要になった」(静岡県)など、追加的人員の確保を迫られるケースもあった。
クマの出没増加の背景には、温暖化やエサ不足による行動範囲の拡大、ツキノワグマとヒグマの個体数増加が挙げられる。自治体は有害捕獲に必要な人員確保やわな設置費用、農作物被害対策などに追われており、地方財政の負担は重い。
国はクマ対策として総額34億円の補正予算案を提出。このうち28億円を狩猟団体への委託費や研修費などに充てる方針で、捕獲や駆除など「現場の担い手」の確保が大きな課題となっている。
山林地域の高齢化が進むなか、対策に従事する人材の不足も深刻だ。このため、AIによるクマ検知システムや危険エリア通知アプリの導入、自治体職員で構成される「ガバメントハンター」の増員など、デジタル技術や新たな制度を活用した対策が広がりつつある。
企業にとっては、従業員の安全確保と事業継続を両立するリスク管理が求められている。クマ被害はもはや特定の地域や産業だけの問題ではなく、全国的な企業活動の新たなリスクとして立ち上がりつつある。
今後は国・自治体・企業が連携し、科学的データに基づく個体管理や農地と森林の境界管理の徹底など、地域の生活圏にクマを近づけない仕組みづくりが急務となっている。