高付加価値海外旅行とホテル事業が回復をけん引
エイチ・アイ・エス(HIS)は12月12日、2025年10月期(連結)の決算を発表した。連結売上高は3731億円(前期比8.7%増)、営業利益は116億円(同7.1%増)、経常利益は113億円(同8.9%増)と、高付加価値海外旅行とホテル事業が回復をけん引するなど、全セグメントで増収増益を確保。一方、トルコ法人の事業整理およびホテル事業の減損損失など特別損失を計上した影響で、親会社株主に帰属する当期純利益は47億円(同45.9%減)となった。今後は、日本人海外旅行の回復を見据えた送客数の底上げと、グローバル事業の収益力強化を両輪に、次期中期経営計画の策定を通じて持続的成長を目指す。

欧州・中近東を軸に海外旅行が伸長
主力の旅行事業は、売上高3,091億円(同8.9%増)、営業利益96億円(同3.6%増)。日本発海外旅行では、ヨーロッパ・中近東方面を中心に添乗員付きツアーや航空券+ホテルのダイナミックパッケージが好調だった。特にシニア層・富裕層を中心とした高単価商品の構成比が高まり、送客数の回復が緩やかな中でも収益性を押し上げた。
一方、海外現地法人では地域差が鮮明となった。欧州はインバウンド・アウトバウンドともに堅調だったが、カナダ法人では大口法人契約の終了、景気減速、国際情勢の影響による対米渡航需要の減少が重なり、業績が前年を下回った。また、トルコ法人ではアウトバウンド事業の再編を進めたことが一時的な減収要因となった。
ホテル事業、国内は高稼働・高単価で過去最高
ホテル事業は売上高252億円(同9.8%増)、営業利益36億円(同18.7%増)と大幅な増益に。訪日外国人旅行者の増加に加え、大阪・関西万博をはじめとする大型イベントの開催が国内需要を押し上げ、高稼働・高単価で推移した。
HISは「変なホテル」を軸にマルチブランド戦略を本格化。「変なホテルプレミア」へのリブランドや、リゾート・ウォーターマークブランドの展開を進め、体験価値の向上を図った。大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」とのコラボルーム展開などが話題を呼び、ギネス世界記録にも認定された。
海外ホテルではソウル、ニューヨークが過去最高の売上・営業利益を更新。2024年11月開業のトルコ・カッパドキアは下半期から黒字化した一方、グアムはレジャー需要低迷により引き続き苦戦している。
九州産交グループ、TSMC効果で大幅増益
九州産交グループは、台湾TSMCの熊本進出による経済効果や訪日客増加を背景に、売上高253億円(同5.8%増)、営業利益8億円(同85.5%増)と大幅な増益を記録した。高速・貸切バス、航空代理店、不動産事業がいずれも堅調に推移し、地域経済と観光需要の回復が業績を支えた。
特別損失の内訳と財務改善
同期は、トルコ法人の事業縮小に伴う事業整理損17億円、ホテル事業を中心とした減損損失約27億円などを特別損失として計上した。一方で、転換社債250億円の償還や借入金返済を進めた結果、有利子負債は大幅に減少し、財務基盤は着実に改善している。
日本人海外旅行の回復は「想定より緩やか」
同日に開かれた決算発表会の質疑では、日本人海外渡航需要の回復ペースについて質問が集中した。矢田素史社長は「世界全体の旅行需要はすでにコロナ前の水準に戻っている一方、日本人の海外渡航者数は7割台の回復にとどまっている」と説明。円安の長期化や燃油サーチャージの高止まり、渡航先における物価上昇が旅行代金を押し上げ、需要回復の重しになっているとの認識を示した。その上で、「これまでの高付加価値・高単価商品の伸長に加え、今後は送客数そのものの底上げが重要になる」と述べ、日本発海外旅行の裾野拡大に本格的に取り組む考えを明らかにした。
営業利益が増益である一方、業績予想を下回った理由については、「下半期における日本発海外旅行、ならびにグローバル領域のアウトバウンド事業の伸びが想定よりも鈍化したことが主因」と話した。コロナ前の2019年と比較すると、取扱高は8割強、営業利益は7割近くまで回復しており、「当時展開していたハウステンボスやエネルギー事業を除いた既存事業ベースでは、すでにコロナ前を上回る水準に回復している」と強調。足元の業績は着実な回復軌道にあると述べた。
グローバルDMC構想「営業利益100億円」への道筋
今後の成長ドライバーとして、投資家の関心が集中したのが「グローバルDMC(デスティネーション・マネジメント・カンパニー)」構想だ。HISは、単なるツアーオペレーターから「体験価値創造業」へと進化する方針を明確にし、海外拠点を横断的に束ねるグローバルセールス本部を新設。各地域で造成した旅行商品を、国や地域の垣根を越えて流通させる体制を構築している。
質疑の中で織田正幸常務は、「これまで海外拠点は地域ごとに最適化されてきたが、今後はグローバルで束ねて売るフェーズに入る」と述べ、インバウンド、MICE、独自コンテンツを横断的に展開することで、将来的にグローバル事業単体で営業利益100億円規模を目指す考えを示した。また、「価格競争に陥りがちなOTAとは異なり、HISは現地に根ざした造成力とネットワークを持つ。体験そのものを商品として磨き上げることで、持続的な収益基盤を構築したい」と語った。

これに対し、山野邉淳取締役(HISジャパン プレジデント)は、現場視点からグローバル戦略を説明。「日本発海外旅行、訪日旅行の双方で、HISならではの企画力が改めて評価されている」としたうえで、「添乗員付きツアーやテーマ性のある商品、現地体験を重視したコンテンツは、グローバルに展開しても競争力がある」と述べた。さらに、「海外現地法人と日本側の商品企画がより密に連携することで、単なる送客・受客にとどまらない循環型のグローバル事業モデルが見えてきた」と、グローバルDMC構想が日本事業の強化にもつながると強調した。

HISは今後、インバウンド需要の拡大に加え、グローバルMICEや富裕層向け商品、独自コンテンツの横断展開を加速させることで、世界のOTAとの差別化を一段と明確にしていく考えだ。
AIと人を軸にした人材戦略
人材戦略については、矢田社長が創業者・澤田秀雄会長の知見にも触れながら、新体制のもとで「AI・テクノロジーと人の力を掛け合わせる経営」を進めていく方針を強調。「企画力、ホスピタリティ、リアルな体験コンテンツを生み出す力はHIS最大の強みであり、これはOTAには真似できない」と述べた。
実現に向けては、AIによる業務効率化と同時に、多様な人材が挑戦・成長できる環境づくりを重視。「全員活躍」を掲げ、次世代経営人材の育成や、変革を担う人材への投資を進める。次期中期経営計画については、「2026年10月期中に発表し、HISの次の成長像を明確に示したい」とした。
株主還元と今後の見通し
株主還元については、2025年10月期の期末配当を20円、2026年10月期は25円を予定している。業績回復と財務体質の改善を両立させながら、安定的かつ継続的な株主還元を行う姿勢を改めて示した。
取材 ツーリズムメディアサービス編集部