風土を掘り起こし、未来をひらく
北海道厚真町のDMCが描く「日本一の二地域居住地」への挑戦
北海道厚真町では、民間主導で設立された厚真DMCを中心に、行政と連携しながら二地域居住を推進する取組が本格的に動き始めています。目指すのは、「日本一の二地域居住推進地」という明確なビジョンです。
日本全体では2008年をピークに人口減少局面に入り、この約15年間で人口は約3〜4%減少しました。一方、北海道厚真町では同期間で人口が約30%減少し、現在の人口は約3,700人と、より厳しい現実に直面しています。
こうした状況のなかで、全国的な地方創生の議論は、「どう人を増やすか」から、「地域創生2.0」と呼ばれる「どう地域が稼ぎ、関わる人とともに未来をつくるか」へと、大きく舵を切り始めています。人口減少を前提に、地域が自立的に収益を生み出し、都市と地域を行き来しながら関わり続ける人を増やしていく。そのための仕組みづくりが、各地で模索されています。
厚真DMCが取り組んでいるのも、こうした時代の流れと呼応する挑戦です。民間主導のDMCとして、補助金に依存することなく、二地域居住を事業として実装し、検証と改善を重ねながら持続させていく。この実装志向こそが、本取組の大きな特徴となっています。
本記事では、厚真DMCが民間主導で二地域居住に取り組む背景と、その考え方、実装を支える仕組みを整理します。あわせて、この挑戦が他地域にとってどのような示唆を持つのか、ポイントを分かりやすくお伝えします。

厚真町が目指すのは「人が行き交い、関わり続ける地域」
厚真DMCが掲げるゴールは、観光客数を単純に増やすことではありません。
目指しているのは、都市と地域を行き来しながら、継続的に関わる人が増えていく状態、二地域居住や関係人口が自然に育っていく地域の姿です。
都市に拠点を持ちながら、厚真町を「第二のふるさと」として関わる。
仕事や学び、子育て、企業活動、余暇など、さまざまな関わり方が重なり合い、結果として地域経済やコミュニティが豊かになっていく。
こうした循環を生み出すために、厚真町では「風土」をあらためて見つめ直しています。
・全国有数の規模を誇る森林と海に囲まれた自然
・縄文・アイヌ文化に連なる歴史と暮らしの積み重ね
・ハスカップや米、ホタテ・ホッキなどの一次産業
DMCの役割は、これらを単なる観光資源として切り取るのではなく、地域の文脈ごと丁寧にすくい上げ、今の時代に合った価値として再編集していくことにあります。

理想を「続く仕組み」にするために
なぜ稼げる構造が欠かせないのか
どれほど理念がすばらしくても、補助金頼みで終わってしまえば、取組は長く続きません。
人口減少時代においては、地域が自立的に収益を生み出し、人と経験が循環する仕組みを同時につくっていくことが欠かせないと考えられています。
厚真DMCが事業としての設計を重視しているのはそのためです。
理想を語るだけでなく、実装し、検証し、改善しながら続けていく。
その土台として、DMCでは次の3つの柱を据えています。
厚真DMCの3つの柱
1 . 観光と探究学習を掛け合わせた高付加価値体験
一つ目の柱は、観光と探究学習を組み合わせた体験プログラムです。
自然を「見る」だけでなく、「考え、感じ、学ぶ」フィールドとして捉え直します。
・札幌圏を中心とした親子向けの探究型自然体験
・自然環境を活用した企業研修プログラム
五感を使った体験のなかで、子どもや大人がそれぞれの問いを持ち帰る。
教育的価値と体験価値を両立させることで、1年以内に持続可能な収益基盤をつくるという明確な目標を掲げています。
探究型自然体験では、取組から半年ですでに約200万円の収益をあげており、東京から厚真町へのリピート参加も生まれているところです。

2 . コミュニティづくりという「見えない基盤」への投資
二つ目の柱は、地域内外の人をつなぐコミュニティ形成です。
事業を動かすうえで、信頼関係は何よりの基盤になります。
この哲学を体現しているのが、厚真DMCのパートナーである東京山側DMCです。
同社の原点は、華やかなビジネスプランではなく、東京都あきる野市で数人から始まった「秋川リバークリーンナップ」という活動にあります。
川に入り、地域の人と一緒に汗をかく。
利害関係を超えて対話し、まずは信頼関係を築く。
こうした泥臭い関わりの積み重ねが、後の事業展開を支える土台となってきました。
東京山側DMCは、自らを「描いた戦略を、稼ぐ現実に変える実装部隊」と位置づけ、あきる野市での地道なリバークリーンナップを続けながら、探究型自然体験やアドベンチャートラベル、ガイド育成などを全国各地で展開してきました。
探究型自然体験事業では、年間参加者数を約6,000人規模から約30,000人規模へと拡大させた実績を持ち、負の遺産を「稼ぐ資産」へと転換してきました。
厚真町においても、こうした実装力を背景に、事業開始から半年で約200万円の売上を生み出しています。
この「まず一緒に汗をかく」という姿勢は、厚真町においてDMCが事業を進めていくうえでも、何より強力な羅針盤となっています。


3. 行政とともにつくり上げてきた、挑戦が育つ土壌
三つ目の柱は、行政と民間が時間をかけて積み重ねてきた「挑戦が育つ土壌」です。
厚真町では、二地域居住や関係人口の創出を一過性の施策としてではなく、町の将来像を支える重要な軸として位置づけ、継続的な取組を行ってきました。
その象徴的な取組のひとつが、地域おこし協力隊の受け入れです。
厚真町ではこれまでに累計100人の地域おこし協力隊を採用し、家族を含めると182人が町に移住しています。
現在の人口約4,200人に対し、移住者・関係人口が約5%を占めており、「人が行き交い、関わり続ける地域」はすでに現実のものとなりつつあります。
さらに、厚真町の特徴的な取組として挙げられるのが、ローカルベンチャースクールを軸とした起業支援です。
2016年の開始当初、新規事業者による年間売上は約1,600万円でしたが、現在では年間約9億6,000万円規模にまで成長し、約60倍の経済効果を生み出しています。
単に人を受け入れるだけでなく、挑戦が事業として根づき、経済として循環していく。
こうした実績を積み重ねてきたからこそ、厚真町には新たな取組を歓迎し、後押しする文化が育まれてきました。
町では、2025年3月に二地域居住を推進する「厚真町特定居住促進計画」を策定し、公民連携による取組を進めています。
それに呼応するかたちで、民間側でも、都市部の学生と地域企業をつなぐインターン事業や、企業研修の受け入れなどがすでに実施されています。
行政が描いてきたビジョンと、現場で積み上げられてきた実践。
その両輪があったからこそ、厚真DMCは単独で走るのではなく、町とともにスピード感をもって動き出すことができているのです。

成功への確信。東京山側DMCとのパートナーシップ
厚真DMCの取組を特徴づけているのが、東京山側DMCという実装のプロ集団との連携です。
東京山側DMCは、地域に深く入り込み、構想を現場で回し続けてきた地方創生のプロフェッショナルチームであり、拠点とするあきる野市では、探究型自然体験学習スクールを通じて、参加者数を年間約6,000人からわずか数年で3万人規模へと拡大させた実績を持っています。
その中核にあるのが、「地域創生プロデューサー」という考え方です。
地域の風土や文脈を読み解き、人や体験をつなぎ、資源を事業として展開しながら循環する仕組みをつくる。
とりわけ、現場での運営という最も泥臭い部分を引き受ける存在です。
東京山側DMCは、こうした運営ノウハウを「地域創生プロデューサー資格養成講座」として全国で展開してきました。
厚真DMCでは、この考え方を共通言語として、事業を本気で実装し、継続的に回していくことを前提に取組みを進めています。
そして、その取組みに伴走しているのが、東京山側DMCのAT事業部リーダーであり、地域活性化企業人として厚真DMCに参画している師岡龍也さんです。
師岡さんは現場に入り込み、厚真町のプレイヤーたちとともに事業の立ち上げから運営までを共に担います。
現在、師岡さんとともに動く厚真町のプレイヤーたちも、企画から実施、改善までを担いながら、地域創生プロデューサーとして厚真DMCの事業を前に進めています。
補助金頼みの一過性の取組に終わらせず、地域の内側に運営ノウハウを残し、事業として回し続ける。
その覚悟のもと、厚真DMCは実装に向けた挑戦を続けています。


のろしは、もう上がっている
厚真DMCが描く、その先の未来へ
厚真DMCの設立は、人口減少という大きな時代のうねりのなかで、未来を自らの手で切り拓こうとする意志の表れです。
・日本一の二地域居住推進地という明確なビジョン
・風土、自然、産業という唯一無二の地域資源
・行政と民間がともに育ててきた挑戦の土壌
・実装を知るパートナーとの伴走
これらが重なり合い、いま厚真町では、確かなワクワク感とともに、のろしが上がっています。
あとは、この火を絶やさず、着実に前へ進んでいくだけです。
日本一を目指す挑戦は、もう始まっています。
厚真町から生まれるこの動きが、これからの地域づくりにどんな可能性を示していくのか。
その歩みは、すでに多くの地域から注目を集め始めています。
投稿者:今廣 佐和子(いまひろ・さわこ)厚真DMC