「観光を学ぶ女子大生から見た日本の観光」
こんにちは。跡見学園女子大学の畠山妃菜です。前回の記事ではJTBガイアレック様主催の『中山道ウォーキング』についてお届けしました。今回は、ANA Xの神田真也社長にインタビューし、事業への思いや今後の展望についてお話を伺いました。
ANA Xは、航空会社のマイレージプログラムと旅行サービスを一体的に運営するANAグループの中でもユニークな存在です。約4,400万人のANAマイレージクラブ会員と、年間約5,000万人の航空利用者という圧倒的な顧客基盤を強みに、従来の旅行サービスの枠を超えて事業を展開。一方で、あらゆる日常の移動でマイルが貯まるアプリ「ANA Pocket」や、ECモール「ANA Mall」など、日常生活に寄り添うサービスを通じて、マイルを「貯める・使う」体験をより身近なものへと広げています。
インタビューでは、スピード感ある事業運営やマイルビジネスの背景に加え、デジタル化が進む社会において、改めて価値を高める「リアルな旅行体験」への思いに迫りながら、ANA Xが描くこれからの旅の姿をひも解いていきます。

【ANA Xの役割、価値提供】
畠山 ANA Xの企業概要と、ANAグループ内で担っている役割について教えてください。また、「航空会社系の旅行・デジタル事業会社」として、どのような価値提供を目指しているのでしょうか。
神田 現在のANA Xは、ANAグループで顧客マーケティングを担ってきた部署が独立し、そこに旧ANAセールス社の旅行事業が加わって、2021年に誕生した会社です。ANAマイレージクラブという大規模な顧客基盤の運営を担い、そこに旅行サービスとデジタルを掛け合わせたプラットフォームを提供しています。
また、航空会社のマイレージプログラムと旅行サービスを一社で併せ持つ点が大きな特長です。私たちの役割は、旅と日常生活をつなぐこと。約4,400万人のANAマイレージクラブ会員と延べ5,000万人の航空利用者を基盤に、航空機利用をきっかけとしてマイルの魅力に触れていただき、日常サービスの提供を通じてANAグループとの接点を広げていくことを目指しています。
畠山 航空会社系デジタル事業会社として、どのような考え方で事業を展開されていますか。
神田 航空会社のマイレージサービスの魅力は、まず特典航空券に交換いただいた場合などにおける還元率の高さなのですが、旅に加え、ANA PocketやANA Mall、提携先様等含めた様々なサービスを充実させることで、日常生活の中でもマイルを貯めやすく、使いやすいプログラムとなるように留意しています。また旅行については、近年、航空券とホテル等の素材を別々に手配されるお客様も増えてきており、そうしたニーズに沿った形で、旅行関連サービスをスマートフォン1つでシームレスに検索・予約・管理できるTaaS(Travel as a Service)の仕組みも構築しています。さらに、ANA Xには、ANAグループが持つ多様なデータがあります。具体的には、次の3点などがあります。
・ANAマイレージクラブの「会員属性データ」
・ANA Pocketによる「人流データ」
・ANAカード・ ANA Pay、マイレージ積算などによる「決済系データ」
これらのデータを活用することで、精度の高いマーケティング活動につなげています。
畠山 ANA Xならではの、経営戦略の特徴を教えてください。
神田 まず、当社の事業の幅という視点でお伝えすると、ANAの顧客戦略であるマイレージサービスやカード、旅⾏などの事業を1社でオペレーションできるのが特徴となっています。このメリットを生かし、例えば旅行事業やマイレージの各機能・サービスのシナジーを探るなど、さまざまなチャレンジが可能となっています。また、今のANA Xになった時に、新たにミッション、ビジョン、バリューを作り、その中のバリューで「常にスピードを意識する」ことを掲げています。新しい事業を始める際には、⼀から勉強したり、詳しい事業者と協⼒したり、ゼロから学んでいくこともあります。また、中途採⽤も積極的に⾏い、専⾨知識を持つ⼈材を活⽤してスピード感を持って事業を進めています。
畠山 ビジネスモデル変革における最大の課題は何でしょうか。
神田 現在の課題は、マイルを貯めやすくする⼀⽅で、特典航空券をどれだけ提供できるかというトレードオフをどう取り扱うかという点にあります。限られた特典航空券枠をどう配分していくかは大きなテーマです。また、1997年から続くマイレージプログラムは拡大を重ねた結果、仕組みが複雑になり、お客様にとって分かりにくくなっている面もあります。マイルの貯め方や、あまり飛行機に乗らない方が特典航空券に近づく方法などを整理し、どなたにでも分かりやすく伝えていくことが重要です。新しいサービスを展開しながらも、幅広い層が楽しめるプログラム運営を目指していきます。
畠山 アルバイト先でクレジットカード決済をするお客様の中にANAカードを目にする機会が多く、日常の中でマイルが自然に使われている「マイルで生活できる世界」を実感しています。一方、近年「ポイ活」が広がる中でも、高齢者の方には「ポイント」そのものが必ずしも馴染み深いものではないと感じる場面もあります。取材を通じて、こうした日常の実感と重ねながら、誰にとっても分かりやすく、使いやすい仕組みづくりの重要性を改めて考えさせられました。

【ANA Xが注目しているニーズ】
畠山 近年の旅行者の価値観の変化をどのように捉え、ANA Xの事業に反映されていますか。
神田 近年は、ダイナミックパッケージを選択されず、航空券を早期に購入し、ホテルやアクティビティは後から個別に手配するお客様が増えてきています。しかし、パッケージ旅行商品には、価格面のお得さや旅程保証といったメリットもあります。また、デジタル化が進む中でも、添乗員付きツアーの紙のパンフレットがご好評を得ていることなど、お客様や商材に応じた情報提供が大切となっています。デジタルとリアルを双子のように同期させ、双方の良さを活かす「デジタルツイン」的なアプローチもさらに強化していきます。
畠山:ANA Xが特に力を入れている国内旅行商品・体験コンテンツは何でしょうか。企画の背景や狙いと共に教えてください。
神田:まず、われわれにしか出来ない旅行商品・体験を提供しよう。その中でお客様の期待に応えることを第一に考えようと、社内でハッパをかけています。
具体的には、旅行の楽しみと、マイルを使う・貯める楽しみを同時に味わっていただきたい。そしてお客様の一回の旅行をもっと特別なものにしたいと考えています。そのための取り組みの一つが、マイルと旅⾏の融合です。通常よりお安いマイル数で特典航空券を提供する「トクたびマイル」に加え、例えば、国内旅行商品ですと「全額マイルプラン」というのがあります。これは、ホテル等に全額マイルでお支払いいただくと、お得に泊まれるというものです。普段は、なかなか泊まらないジュニアスイートのお部屋など、マイルであればお得に泊まれるプランを用意しています。
これらをさらに進化させて、特典の中に、もっとプライスレスなもの、われわれにしかご提供できないもの、ご旅行等をもっと提案していきたいと考えています。
畠山 ユニバーサルツーリズムの重要性が高まる中で、誰もが安心して旅行を楽しめる環境づくりをどのような姿勢で進めていますか。
神田 ユニバーサルツーリズムについては、ANA Xとして今後さらに強化していきたい分野だと考えています。ANAでは手厚いサポート体制が整っている一方、空港まで/からの移動には課題が残っています。そこで、ANAグループとしてはUniversal MaaSの取り組みや「旅CUBE」(https://www.ana.co.jp/ja/jp/guide/prepare/tabicube/)というサービスを通じ、ユニバーサルマップやバリアフリーなどの情報共有を進めています。さらに、各交通事業者への介護依頼をシステム上で一元化する「一括サポート依頼」の導入も検討しています。ANAで行っている実証実験と旅行会社としての取り組みをより連携させ、ANA Xとしてもユニバーサルツーリズムの強化を目指していきます。
畠山 ペーパーレス化が進むなかで、すべてをデジタルに集約するのではなく、パンフレット商品も含めて利用者に応じた手法を残す姿勢が印象的です。デジタルとリアルの双方の良さを活かす「デジタルツイン」という考え方は、これからの観光サービスを考えるうえで重要な視点だといえます。また、日常生活で身近なポイントが持つ「お得感」は、旅という非日常においてさらに価値を高め、旅先での消費行動へとつながっていく点も、とても興味深く新たな気付きとなりました。

【これからの旅と経営戦略】
畠山 デジタル技術が進化する中で、10年後の「旅の体験」はどう変わるとお考えですか。
神田 今後はAIが旅⾏の⼿配や情報提供、⾔語の壁を取り払うなど、AIが旅⾏をサポートする時代が到来するはずですが、まずは、AIが人に代わりにいろいろな仕事をやってくれるようになると、余暇が増えるとも言われています。その中で、ANA Xでは学びや趣味を活かした旅など、より深い体験価値を提供していきたいと考えています。既にONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構様とのコラボレーションなどを進めていますが、このほかにも、「ツーリズム推進」という視点でのコンテンツをさらに充実させていきます。
畠山 ANA X様では、これからの観光業界を担う若手人材にどのような資質や姿勢を期待されていますか。また、学生のうちに身につけておくと良い経験や視点があればぜひ教えてください。
神田 わが社の行動指針(バリュー)にあるとおり、「変化を恐れず、変化を楽しむ」「どうすればできるかを考える」という姿勢を持ってほしいです。観光は平和産業であり、⼈が動くことで平和への貢献や⼈と⼈のつながりを⽣み出します。魚が水槽のサイズ以上に大きくならないように、人も自分で小さな枠を作ってしまうと成長が止まってしまいます。必要以上に自分に制約を設けず、自分自身と向き合いながらも、その枠を越えて挑戦してください。
畠山 神田社長ご自身が「観光・航空の仕事に魅力を感じたきっかけ」や、「若い頃の経験で今の仕事に活きていること」があれば伺えますでしょうか。
神田 ⼦供のころに父親と一緒に「兼⾼かおる世界の旅」という紀⾏番組を見ていたことや、実家が京都で外国⼈観光客に道を聞かれて英語が話せず答えられなかった悔しさ等を原点に、世界に関心を持ちました。⼤学を休学してパリに留学(遊学?)し、人種や国籍の坩堝の中で色々な方と交流したことなどから、世界で戦いたいと思い、ANAを志しました。
入社後はとにかく要領が悪いので、何をやるにも時間がかかり、沢山残業もしました。好奇心旺盛で、何でも首を突っ込みたがるところがあり、逆にオーバーフローして周りの方にご迷惑をかけたこともありました。そうした経験を通じて、自分の能力の限界を理解した上で、その枠を広げるべく、チャレンジすることが大事なのだと理解しました。
畠山 神田社長の「人は自ら枠を作ってしまうと成長が止まる」という、水槽の魚のたとえは印象に残りました。変化を恐れず、制約を設けずに挑戦し続ける姿勢こそが、観光という人と人をつなぐ産業において重要なのだと改めて感じました。自身もこの学生記者の経験などを通して視野を広げながら、挑戦を続けていきます。

【今後の展望と若者に向けたメッセージ】
畠山 観光・航空業界はコロナ禍での需要変動など、⼤きな転換期を迎えていると感じています。そのため、業界の将来性に不安を感じる学⽣も少なくありません。こうした不安にどのように向き合い、乗り越えていけば良いとお考えでしょうか。そして、観光業界を⽬指す若者に向けてメッセージをいただけますでしょうか。
神田 旅の形は変わっても、「実際に現地を訪れ、体験する」という旅の価値は変わりません。観光業界はコロナ禍で大きな打撃を受けましたが、現在は訪日外国人が約4,000万人となるなど、着実に回復しています。AIが進化しても、この業界がなくなることはないと確信しています。世界は技術の進歩によって急速に近づいています。ネットで情報が得られる時代だからこそ、自分の目で見て、肌で感じた体験は大きな強みになります。ぜひ積極的に旅に出て、可能性を広げてほしいですね。お得に旅をする手段として、マイルもぜひ活用してください。
終わりに
ANA X様の取り組みの根底には、「人が動き、体験すること」への強い信念があることが印象的でした。旅の形は時代とともに変わっても、実際に足を運び、感じる価値は決して色あせない。変化を恐れず、リアルとデジタルの両立を模索し続けるANA Xの姿勢から、これからの観光の可能性と、業界の明るい未来を感じる取材となりました。次回の記事はJTBパブリッシングの盛崎宏行社長のインタビュー記事です。お楽しみに!

寄稿者 畠山妃菜(はたけやま・ひな)跡見学園女子大学 観光コミュニティ学部 篠原ゼミ 3年