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観光地域づくり法人(DMO)と天王洲アイル #22 ~水辺・アート・DMOが編み直す都市の価値~

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一般社団法人 天王洲・キャナルサイド活性化協会は、観光地域づくり法人(DMO)として、天王洲アイルの観光振興と地域活性化を推進しています。当協会は、行政・企業・大学・地域住民を結びつける「コーディネーター」として、まちの価値向上に取り組んできました。

前回は、アートでまちの風景や来訪行動が変化したことによるKPIの再設計について述べました。今回は、天王洲アイルがどのような観光地を目指しているのか、都市型観光拠点としてのあり方について考えていきます。

天王洲運河からの景観(左)、運河沿いのビル壁面アート作品(OUT OF BOUNDS / 山口歴)

物流の岸壁から人が滞在する場所へ

運河沿いのデッキを歩いていると、水面に反射する光の向こうに、建物の壁に描かれたアートが目に入ります。ジョギングをする人、ベンチでコーヒーを飲む人、足を止めて作品を眺める人。平日の昼下がり、天王洲アイルの水辺には、静かでありながら確かなにぎわいが広がっています。観光地の喧騒とは異なるこの風景は、都市の中に自然に溶け込む新しい観光のかたちを象徴しています。

天王洲アイルは、かつて物流の拠点として発展してきたエリアです。その後、再開発を経てオフィスを中心とした複合型都市となりました。その後は、「水辺」を資源として捉え直し、物流のための岸壁であった場所を、人が歩き、滞在し、交流する空間へと転換してきました。開放感のある水辺の景観は、都市にいながらも日常とは異なる時間を感じさせ、自然と人を引き寄せる力を持っています。

アイルしながわ壁面アート作品(巡り循る / 吉野もも)(左)、天王洲公園 倉庫壁面アート作品(See a Song / Keeenue)

アートがまちに溶け込むということ

天王洲アイルのもう一つの特徴が、アートの存在です。ミュージアムやギャラリーに加え、屋外の壁画や彫刻がまちの各所に点在しています。目的地として「鑑賞する」のではなく、歩く途中で偶然出会うアート。その体験は、来訪者にとって印象深い記憶となり、まち全体を一つの展示空間のように感じさせます。アートは、天王洲アイルの回遊性を高める重要な要素となっています。

天王洲アイルの観光の特徴は、「歩くこと」そのものが体験になる点にあります。水辺を歩き、アートに立ち止まり、飲食やイベントに出会う。こうした一連の行動が、特別な演出を必要とせずに自然につながっていくことで、来訪者は自分のペースで街を楽しむことができます。この回遊型の体験こそが、天王洲アイルの都市観光としての核となっています。

観光DX クラウド型街巡りサービス(左)、CANAL IDによる情報提供サービス

回遊を支える観光DXの役割

こうした回遊体験をサポートしているのが、観光DXの取り組みです。スマートフォン上でアート作品やイベント情報、飲食店、水辺ルートを確認できる仕組みは、来訪者が自分の興味に応じてまちを巡ることを可能にしています。

紙の地図に代わるデジタルな導線は、回遊を促すだけでなく、人の動きをデータとして蓄積する役割も果たしています。どのエリアで人が立ち止まり、どの動線が選ばれているのか。こうした情報は、次の施策を考えるための重要な材料となります。

天王洲アイルでは、これらのデータを横断的に整理し、個々の事業者では把握しにくい「まち全体の動き」として関係者と共有する実証的な取り組みを進めています。これは、まち全体の体験価値を高めることを目的とした施策です。

観光DXは管理や統制のためのツールではありません。人の流れを制御するのではなく、来訪者がより心地よく街を歩ける環境を整えるための手段として位置づけています。デジタルはあくまで裏側にあり、表に立つのは水辺の景観やアート、そして人の営みです。

天王洲アートツアーの様子(Anonymous / 加藤智大)(左)、イベント時の天王洲第三水辺広場の様子

DMOが編み直す、都市観光のかたち

このような取り組みを支えているのが、観光地域づくり法人(DMO)の存在です。行政や地元企業、文化施設、地域住民をつなぎ、観光を「点」ではなく「面」で捉える視点をまちに根付かせてきました。DMOの役割は、単に人を呼び込むことではありません。水辺やアートなど、地域にすでにある資源を磨き上げ、それらが無理なく連なり、持続的に機能する仕組みを整えることにあります。こうして生まれる人の流れや緩やかな連携が、天王洲アイルの観光を支える基盤となっています。

天王洲アイルが目指すのは、完成された観光地ではなく、関わる人が増えるほど体験と価値が更新されていく都市型観光拠点です。「水辺とアート」を起点に、人が集い、滞在し、再び訪れる。その循環をDMOが裏側で支えながら、都市に新しい価値を生み出しています。

※アイキャッチは、「水辺とアートの街」 天王洲運河

寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 会長

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