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【レポート】「行きたい」を諦めない東京へ、アクセシブル・ツーリズムが示す次の基準

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東京都は1月26日、障害の有無や年齢に関わらず、誰もが安心して観光を楽しめる都市の実現を目指す「アクセシブル・ツーリズム 推進シンポジウム」を東京商工会議所で開催した。東京・パリ五輪にも出場し、現在は16種目の日本記録を保持する池江璃花子さんを迎えた基調講演を行うなど、障害者や高齢者など誰もが快適に観光できる東京について現在地と今後を発信した。冒頭、東京都産業労働局観光部受入環境課の西島裕樹課長は、アクセシブル・ツーリズムを「福祉やコンプライアンスの話ではなく、極めて重要な観光マーケット」と位置づけ、その意義を明確にした。

2025年の訪日外国人旅行者数が初めて4,000万人を超えたことに触れ、西島課長は「この流れを一過性で終わらせず、誰もが快適に東京観光を楽しめる環境を整えることが、世界から選ばれ続ける都市の条件になる」と強調。観光庁調査によるアクセシブル・ツーリズムの国内潜在市場が年間約4,200万人規模に上ることを示し、「インバウンドと同等の市場規模を持つ分野」と述べた。

東京2020大会やデフリンピックを契機に進んだ交通・宿泊施設のバリアフリー化についても、「大会のレガシーを継承し、ハードとソフトの両面でさらに前進させる必要がある」と指摘。補助制度や情報発信、人材育成を通じて、アクセシブル・ツーリズムを都市の基盤として定着させていく考えを示した。

東京都産業労働局観光部受入環境課の西島裕樹課長
東京都産業労働局観光部受入環境課の西島裕樹課長

「当たり前は、当たり前ではない」

池江璃花子さんが語る、アクセシブル・ツーリズムの本質

基調講演では、競泳選手の池江璃花子さんが登壇。「行きたいを諦めない ~誰もが楽しめる東京の未来~」をテーマに、対談形式で自身の経験を語った。白血病による闘病生活を振り返り、「自分の力で動けない、トイレや入浴ができないという経験を通じて、“当たり前”は決して当たり前ではないと強く感じた」と語った。

池江さんは、アクセシブル・ツーリズムについて「障害のある人や高齢者だけでなく、病気の治療中や妊娠中、一時的に体力が落ちている人も含め、誰もが当事者になり得るもの」と説明。「特別な人のための観光ではなく、すべての人の未来のための観光」だと強調した。1

旅について問われると、「温泉にゆっくり浸かれることや、食事を楽しめることは譲れないポイント」と語り、心身を回復させる時間としての旅の価値にも言及。制約があるからこそ、環境や配慮の有無が旅の満足度を大きく左右することを、自身の言葉で伝えた。

競泳選手の池江璃花子さん
競泳選手の池江璃花子さん

当事者らが語る東京発アクセシブル・イノベーションのヒント

続いて開かれたパネルディスカッション「世界に選ばれる観光都市“TOKYO”へ~ 「行きたい」を諦めない、東京発アクセシブル・イノベーション ~」では、当事者、事業者、研究者の立場から、アクセシブル・ツーリズムの本質と東京が目指す方向性について意見が交わされた。

車椅子トラベラーの三代達也氏は、世界各地を旅した経験を踏まえ、「重要なのは設備の多さではなく、街に自然に溶け込める“居心地の良さ”」と指摘。スペインなどの事例を挙げながら、障害のある人が特別視されず、日常の一部として存在している都市こそが、結果的にアクセシブルな観光地になっていると語った。

車椅子トラベラーの三代達也氏
車椅子トラベラーの三代達也氏

近距離モビリティを手がけるWHILL法人モビリティソリューション事業本部 本部長の杉浦圭祐氏は、「旅行における最大の不安は“歩行距離”と“移動の予測不能性”」と述べ、次世代モビリティの活用によって、移動そのものを観光の障壁にしない仕組みづくりが必要だと強調。インバウンドを含め、誰もが安心して移動できる環境整備が、観光地の評価を左右すると話した。

WHILL法人モビリティソリューション事業本部 本部長の杉浦圭祐氏
WHILL法人モビリティソリューション事業本部 本部長の杉浦圭祐氏

地域で長年バリアフリー観光に取り組む伊勢志摩バリアフリーツアーセンター事務局長の野口あゆみ氏は、「行けるかどうかを判断するための情報が不足していること自体が、旅行を諦める理由になっている」と指摘。正確で分かりやすい情報提供が、アクセシブル・ツーリズムの出発点になると述べた。

伊勢志摩バリアフリーツアーセンター事務局長の野口あゆみ氏
伊勢志摩バリアフリーツアーセンター事務局長の野口あゆみ氏

また、観光心理学の観点から登壇した立教大学現代心理学部教授の小口孝司氏は、「アクセシブル対応は“特別な配慮”ではなく、誰にとっても使いやすい環境を整えること」とし、心のバリアを取り除くことが、都市全体の観光価値を高めるとまとめた。

立教大学現代心理学部教授の小口孝司氏
立教大学現代心理学部教授の小口孝司氏

ファシリテーターを務めたユニバーサルツーリズム総合研究所理事長・代表研究員の長橋正巳氏は、「アクセシブル・ツーリズムは特別な施策ではなく、誰もが自然に共存できる社会をつくるための“都市デザイン”そのもの」と総括。当事者の視点を起点に、制度や設備、意識の在り方を更新していくことが、世界に選ばれる観光都市・東京への道筋になると締めくくった。

ユニバーサルツーリズム総合研究所理事長・代表研究員の長橋正巳氏
ユニバーサルツーリズム総合研究所理事長・代表研究員の長橋正巳氏

議論を通じて共有されたのは、アクセシブル・ツーリズムは一部の人のための施策ではなく、都市の日常をアップデートする取り組みだという認識だった。東京が世界に選ばれる観光都市であり続けるための鍵として、「自然に共存できる環境づくり」の重要性が浮き彫りになった。

このほか、会場ではアクセシブル・ツーリズムをさまざまな観点から紐解いたミニセミナーが行われたり、展示コーナーでアクセシブル・ツーリズムに取り組む企業の商品やサービスの紹介がなされた。

取材 ツーリズムメディアサービス代表 長木利通

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