日本の未来を担う中学生たちの自己肯定感が、諸外国に比べて著しく低いという現実をご存知でしょうか。 先進国(G7)の中で唯一、若者の死因第1位が「自殺」である日本。2025年には小中高生の自殺者数が過去最多を記録するという深刻な事態に直面しています。
「将来に希望が持てない」と語る子供たちに対し、教育や地域、そして私たち大人は何ができるのでしょうか。
未来への期待を失いつつある若者たち
◉日本は先進国(G7)で唯一、若者の死因第1位が「自殺」
2025年1年間に全国で自殺した人は2万人余りで減少した一方、小中高生の自殺者は532人で、過去最多となりました。15~34歳の死因第1位が自殺なのは、先進国で日本のみ。
日本の若者の自殺死亡率は、他国の約2〜3倍の水準とも言われています。
◉日本の若者は、未来に対して期待が持てない
「自国の将来は明るいと思うか?」という質問に対して、日本のこども・若者に聞いたところ、『明るい』と答えた割合は 23.1%でした。5か国比較でみると、ドイツ(61.8%)が最も高い。次いで、スウェーデン(61.1%)、フランス(55.3%)、アメリカ(49.2%)となっています。※
※こども家庭庁「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(令和5年度)」
◉日本の若者は、自己肯定感が低い
また、「自分自身に満足しているか」という問いに対し、「そう思う」「どちらかというとそう思う」と答えた割合は、日本では57.4%。他国はいずれも7割以上でした。
「自分には長所がある」と感じている割合も、日本は65.6%で最も低く、最もポイントが高いドイツ(85.2%)とは約20ポイントの差があります。
体験活動を通して、生き抜く力を育む

このような状況下で注目をされているのが、非認知能力です。非認知能力とは、「学力テストなどでは数値化されない、子どもの将来や人生を豊かにする力」のことを指します。そしてこの能力は、自然体験、ごっこ遊び、スポーツ、アートなど、五感を使い主体的に取り組む「体験活動」で大きく育まれます。
実際に下記のような調査結果がでています。
・自然体験や生活体験といった体験が豊富な子供やお手伝いを多くしている子供、生活習慣が身に付いている子供ほど、自己肯定感や道徳観・正義感が高い傾向が見られる。(文部科学省「子供たちの未来を育む豊かな体験活動の充実」)
・子供の頃に自然体験やお手伝い、友達との遊び、地域での活動などの体験が豊富な人ほど、大人になってからの人間関係能力や自尊感情、意欲・関心といった資質・能力が高い傾向が見られる。(文部科学省「子供たちの未来を育む豊かな体験活動の充実」)
・年間複数回行われるシリーズキャンプは、不登校児童・生徒に対して一定の教育的効果がある(兄井 彰(2004)「キャンプ経験が不登校児童・生徒のコンピタンスと抑うつ傾向に及ぼす効果」『日本生活体験学習学会誌 第4号』)
7日間の共同生活がもたらす変化

私が代表を務めるGrass Family.では、中学生が全国各地の地域で7日間暮らし、地域で本気で働く大人たちと出会う教育型ツーリズム「Blue Family Project.」を企画・開発しています。
このプロジェクトを運営する中で意識していることは2つです。
①共同生活で異なる価値観に触れることで、自分自身を見つめ直す
全国から集まった様々なバックグラウンドを持つ中学生と初対面で7日間を過ごします。初対面の人たちと過ごす中、参加者達は緊張や遠慮からいわゆる「よそゆきの仮面」をつけています。しかしある程度の共同生活を続ける中で、次第にその仮面は外れて本音で向き合うようになることが多いです。見知らぬ者同士でも、寝食を共にし活動に協力しあう中で徐々にお互いを理解し「自分はここにいて大丈夫だ」という安心感が芽生え、ありのままの感情や悩みを打ち明けやすくなり、自分の本心と向き合うようになります。また、「人と違っていい、違うからおもしろい」 と実感できる「ナナメの関係」の大人との出会いは、人生の解像度を劇的に変えます 。
②ただ楽しい7日間ではなく、精神的ストレッチをかける
Blue Family Project.では、ただ遊ぶだけでなく自分自身の内面と向き合う場面を意図的に盛り込んでいます。7日間の中であえて地元の有識者(社長や自治体職員)の前でプレゼンテーションをしたり、最終日に「10年後の自分」を思い描きみんなの前で発表したりと、あえて負荷をかけて、自分で考え抜く力を育てることに重きを置いています。精神的ストレッチを経て得られた成功体験の記憶は、「やればできる」という自己信頼感を育てます。
中学時代の原体験が、未来の自信に変わる

実際に参加した中学3年生の男子は、不登校で進路が見えない日々から一転、地域の魅力を伝えたいと「島留学」を決意しました 。また、元トー横キッズだった中学2年生の女子は、地域の熱い大人に触発され、都市部と地域を繋ぐ場所を作るために起業準備を始めています。
Blue Family Project.の7日間は、ただ楽しかった思い出では終わらせません。その後の人生に併走し、迷った時に「あの7日間があったから大丈夫」と思える場所でありたいと思っています。
「よそゆき」の殻を脱ぎ捨てて本当の自分を見つめ直し、仲間と支え合って困難を乗り越えた経験は、一生の財産となるでしょう。子どもの人生を変えるのは、知識ではなく「誰と出会うか」。それは学校の成績や知識以上に、これからの時代を生き抜く上で重要な生きる力を育むはずです。
寄稿者 荻野孝史(おぎの・たかし)㈱Grass Family. 代表取締役兼CEO