先月は、越境ECを始めるにあたって、販売国選定、物流、決済、税金などの事前に理解しておきたい基礎的な知識をご説明いたしました。
今回は、前回の基礎を理解した上で、具体的にどういう形態で越境ECを始めるかについて解説していきます。「形態」というのは、自社ECサイトを構築して始めるか、海外の主要なECモール(日本で言う、楽天のようなところ)のアカウントを開設して出品するかのことです。他にも越境ECの形態はありますが、自力で行う場合はこの2種類のうちのどちらかを行うか、あるいはこの2種類を両方を同時に行うかになることが大半です。
今回は、そのうちの一つ、自社サイト構築・運営で行う場合を中心にお伝えし、次回は海外ECモールについて概説します。
自社サイトで運営するメリット・デメリットとは
何事にもプラス面とマイナス面があります。そこで自社サイトを運営していくことの両面をまとめておきます。
メリットは、何と言っても自社サイトは完全に御社のコントロール下にありますので、売りたいものが売れる、プロモーションも好きなようにできる、デザインも納得の行くもので作れる、運営ノウハウや顧客情報が完全に手元に残る、販売手数料がない、という点が挙げられます。
例えば、海外のECモールでは酒類の出品ができないケースが多いですが、自社サイトなら関係ありません(ただし、物流で送れるかどうかは確認が必要です)。なお、ASP型のツールを用いる場合は、完全に自由というわけには行きませんが、ECモールより自由度は高いです。
一方デメリットは、サイトの構築から、受注管理、決済などすべて自社で行うため、初期投資が大きく、特に立ち上げまでの間は人的リソースも大きくとられます。そして、御社がトヨタ、ホンダ、ソニー、任天堂レベルの、世界の誰もが聞けば分かるような知名度がない限りは、集客に時間がかかる、御社や商品の認知度が高まるまでの期間は我慢の時期を強いられる、という点でしょう。
この認知度向上に時間がかかるという点ですが、時間が掛かっても自社サイトは持つべきだと言うのが、アメリカで国際ECの支援を行うMotionPoint社のクレイグ・ウィット氏です。彼は「製品が高機能・高品質であったり、高価格である場合、買い手はECモール以外のサイトで価格調査する傾向が強く、『公式サイト』の有無が重要となってくる」ため、自社サイトの存在は必要だと説いています。
(出典:Blending global marketplaces with a seller’s own ecommerce site by Digital Commerce 360 / Aug. 30th, 2019)
自社サイト構築におけるツール選定基準とは
では、以上のメリット・デメリットを踏まえて、具体的に自社サイト構築を始める際に何に気をつけて、どんなツールを選べばいいのかを考えましょう。
まずはドメインです。ドメインは御社サイトを最も代表する看板、表札のようなものですからいい加減に決めてしまうわけには行きません。このドメインが御社そのものとなり、このドメインを元にブランディングは進めていくことになるからです。
私は、.jpや.co.jpで行っていいのは、すでにドメインの歴史が長く、ある程度海外の人でも知っている場合に限って勧めます。というのは、このJPドメインは、建前上、日本人向け情報をメインに掲載するサイトと理解されるので、海外の検索エンジンでは上位に上がりにくくなる傾向があると言われるからです。そこで、これから始める場合は、.com、.netなど、国が特定できないタイプのドメイン取得を勧めます。
次に、どのツールを選ぶかですが、これは国産ツールにするか、海外産ツールにするかがまず挙げられます。これについては、国産ツールでも海外産ツールでも、どちらでも問題ないと考えています。海外産ツールでも管理画面の日本語化はできるので大きな差がないからです。
ただ、国産ツールは、日時指定、再配達など、日本のきめ細やかな物流サービスに対応していますが、越境ECになると、海外の大雑把な物流システムにかえって合わせづらい場面もあり、物流設定で苦労した事がありました。
最後は、レンタルサーバーでも問題ありませんが、御社でサーバーを準備してECツールをインストールするタイプと、必要な機能は予め準備されていて、御社にとって必要な機能だけ借り出して構築するASP型のどちらでやるかを考える必要があります。前者は自由度が高い分、ある程度ITの知識が必要となります。後者は専門的な知識は不要な分、利用料が発生します。
自社サイトで注意が必要な法律
法律というのは、その権力が及ぶ範囲内しか効力を持たないのが一般的です。日本の法律は日本の領土内でしか効力はありません。したがって、海外にいる外国人が日本に来たこともないのに、日本の法で裁かれるということはありません。
しかし、自社サイトで越境ECを行う場合、その法の一般論が通用しないものがあります。つまり、日本にいても、いや、ずっと日本から海外へ行ったことがない人でも、外国の法で裁かれる可能性があるのです。
それが、個人情報に関する法律です。
特に厳しいのがEUのGDPRと、アメリカのカリフォルニア州法のCCPAです。
これらの法は、この法に対応したサイトではない場合、EUやカリフォルニア圏内の個人情報が圏外に移動した事実を以って「情報の窃盗」とみなされ、罪に問われます。
例えば、EUの人がなにかの拍子に御社のサイトを発見して、商品がほしいからここに送ってほしいと住所を記載したメールを送信してきた場合、御社のサイトがこれらの法に対応していないと、勝手に送られてきただけなのに、罪に問われるのは御社になります。
しかし、この法に対応する方法は難しくありません。海外産のツールであれば、これらの法に対応したサイトにすることができるプラグインが無料で配布されていますので、そのプラグインを適用するだけでまず一義的にはクリアとなります。
また、中国にもPIPLという、GDPRに似たような法律があります。内容を見ると、ほとんどEUのGDPRをお手本にしたのではないかというくらい中身は似ていますので、対応すべきことはほぼ同じかと思います。ただし、「差別的な事をした国に対しては断固とした対応措置をとる」ということが明文化されています。
注意が必要なのは、差別的な事をした「国」と言っている点です。御社や、御社社員が差別的なことをしていなくても、「国」が差別的なことをすれば全員アウトなので、日本政府の対中政策の行方によって影響を受けることになります。そのため、しっかり新聞の国際欄を読んで、リスク管理を行いましょう。
寄稿者 横川広幸(よこかわ・ひろゆき)ジェイグラブ㈱取締役