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平成芭蕉の「令和の旅指南」③ 三徳山・三朝温泉(鳥取県)への健康”五浴”の旅

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Withコロナ時代の5つの“浴”を満たす「健康五浴」の旅

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、長らく旅行も自粛が続きましたが、ようやく旅に出る人が戻ってきたようです。旅に出る目的のひとつに気分転換や療養があり、旅は元気回復だけでなく、心身の健康にも効果的で、私はかねてより「健康五浴」の旅を提唱してきました。それは「観たい」「食べたい」などの欲望の“欲”ではなく、次の5つの“浴”です。

1.日光浴:新陳代謝を促進する太陽光線を浴びる

2.森林浴:新鮮な酸素と森のフィトンを吸収してリラクゼーションを得る

3.温泉浴:地球のエネルギーを体内に吸収する日本人好みの温泉療養

4.海水浴(潮風浴):人の体液に近い海水や潮風から塩分を吸収する

5.イオン浴: 滝やせせらぎの水しぶきから出るマイナスイオンを浴びる

 以上、5つの“浴”は昔の旅では意識せずとも行われていました。しかし、近年の旅行では日帰りバス旅行が主流となり、のんびりゆったりの旅が少なくなってきています。

 そこで、たまには「一夜(ひとよ)泊まりが二朝・三朝(ふたあさ、みあさ)」と唄われる、鳥取県の三朝温泉「六根清浄・六感治癒の地」で、温泉浴と森林浴を中心とした「日本遺産を巡る健康五浴の旅」はいかがでしょうか。

 鳥取県東伯郡三朝町の「三徳山・三朝温泉」は、平成27年に「六根清浄と六感治癒の地~日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉~」として、文化庁の日本遺産第一号に選ばれました。

鳥取県三朝町の日本遺産「日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉」

 三徳山は標高900mほどの険しい山で、美徳山とも書かれ、「大山、船上山、美徳山」を伯耆三嶺と呼び、霊山として認識されてきました。また、「三徳」とは3つの徳目(智・仁・勇あるいは天徳・地徳・人徳)も意味しており、これは仏教における仏に備わる3徳(恩・断・智又は法身・般若・解脱)を根本の美徳として修養する考えに基づいています。

 有名な日本一危ない国宝の「投入堂」で知られる三徳山三佛寺は平安時代の創建とされ、山中の断崖絶壁に蔵王権現を本尊に祀られた奥院として建立されました。神秘の術を自在に操った役小角(えんのおづぬ)が、山の麓にあったお堂を小さくして、崖に投げ入れて造ったという言い伝えから、「投入堂」と命名されました。

 投入堂は国宝に指定されていますが、ここにたどり着くのは大変で、鎖につかまって登る岩の道などもあり、訪れるのは命がけです。そのため、投入堂の鑑賞は「日本一危ない国宝鑑賞」と呼ばれています。

六根清浄(6つの器官を清める)と六感治癒(6つの感覚を喜ばせる)

 この三徳山での修業には作法があり、三朝温泉で心と体を清めてから、「六根清浄」(ろっこんしょうじょう)の修行を行います。「六根」とは仏教の言葉で、6種類の情報をキャッチする6つの器官のことです。物を見る「目」、音を聴く「耳」、においをかぐ「鼻」、物を味わう「舌」、温度や痛みを感じる「身(体)」そして感動する「意(心)」の6つで、修行によってこれらの器官を清めることを六根清浄と呼びます。

 山で厳しい修行を積む「修験道」では、この六根清浄の達成が重視されてきました。神聖な三徳山では、山の景色、寺院の鐘の音、お香や花の香り、精進料理、山を歩く行為、お堂でのお参りなどによって悪い心が清められ、神仏の境地に近づくと考えられたのです。

 そして、三朝温泉では、湯治により「六感(観・聴・香・味・触・心)」を癒しますが、「六感」は「六根」と対になっており、三朝温泉の湯煙の立つ温泉街の景色、水の音、湯の香り、山菜など地元の名物、温泉がもたらす心の安らぎ、こうした喜びは、人生を豊かにしてくれます。

清めと癒しの湯、世界屈指のラドン泉「三朝温泉」

世界屈指のラドン泉「三朝温泉」
世界屈指のラドン泉「三朝温泉」

 そして三朝温泉で注目したいのは、高濃度のラドンを大量に含む含放射能泉でありながら加温していない温泉である点です。ラドンとはラジウムが崩壊して生じる放射線で、身体はこの放射線を受けると毛細血管が拡張し、新陳代謝が促進されて、免疫力や自然治癒力が高まると言われています。

 通常の含放射能泉は、鉱泉といわれる冷泉が多く、加熱することによって放射能は空気中に拡散してしまうので、加熱していない三朝温泉の源泉は実に貴重な含放射能泉です。

精進と浄化の時間を過ごすオススメの旅

 三徳山参拝で「六根」を清め、三朝温泉に浸かって「六巻」をいやすという一連の作法は、人と自然の融合を重視する日本人独自の自然観を示しています。

 三徳山とラドン温泉のダブルパワーで心静かにゆっくりできるだけでなく、宿において庭の緑を眺めながら、三徳山の水と地元の素材を使った精進料理と三徳豆腐料理は絶品です。現代の忙しい日常から、少しずつ心が解放されていくような気分を味わうことができ、拙著『平成芭蕉の旅指南 人生が変わるオススメの旅』でも紹介していますが、この日本遺産の旅は、私たちにとって精進であり浄化の時間でもあります。

三徳山投入堂での平成芭蕉
三徳山投入堂での平成芭蕉

寄稿者 平成芭蕉こと黒田尚嗣(くろだ・なおつぐ)クラブツーリズム㈱テーマ旅行部顧問/(一社)日本遺産普及協会代表監事

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