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大きな構えで

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広域観光ルート

 「ドイツで最も古く、最も人気のある休暇ルートでの自然、文化、芸術、料理、そしておもてなし」(ロマンチック街道協会公式サイトの冒頭文)。

 世界で最も有名な観光ルートの一つであるドイツ・ロマンチック街道は、ヴュルツブルクからフュッセンまでのマイン川沿いの歴史ある街々を巡る約400kmの観光ルート。このルートは歴史的に存在したのか? 否。1950年1月10日、ヴュルツブルク、ローテンブルク、アウクスブルク、フュッセン等の街の関係者が集まり「ロマンチック街道協働団体」を設立したことが始まりである。私も40年ほど前、美しい街々をバスで巡った。終点はノイシュバンシュタイン城。全ての街が素晴らしかったが、ルートが整備されていなければ、いずれの街も個別には訪れることはなかったと思う。

 駐在していたカナダにも広域観光ルートがあった。「メープル街道」。トロントからケベックまでの約800キロのルート。紅葉シーズンは深い黄色のペンキを山々に撒いたかのよう。この街道も、歴史的には存在していない。誘客促進のために構築されたものである。

地域の光をつなぐ

 日本の個性ある地域の光は、日本人には届く。ただ、海外から旅行者を惹きつけるには、光度を高めることが必要だ。そのためには、「地域を磨く」こととともに光地域の光を「つなぐ」ことが大切。ここまでは理解されるが、関係者間で意識を共有し、協働していくには別の努力が不可欠だ。

 われわれも、自治体、DMO や地域の企業等の皆様とともに、地域の価値やコンテンツを洗い出し、共通のテーマやストーリーでつなぐ広域観光ルートの形成に取り組んでいる。大阪・京都・奈良・神戸を拠点とする8つの広域観光ルートである(https://www.the-kansai-guide.com/en/exciting/)。幸い、熱意にあふれる関係者の皆様と協働する形ができつつあり、着手から2年で全てのルートが概成するところまで来ている。

大きな構えで

 関西は、国際拠点空港である関空、国内線の基幹空港である伊丹、国際化の道筋が示された神戸という3つの空港を中心部に擁している。海外からのゲートウェイとしてはわが国屈指である。「ニューヨークのようだ」と評される方もいらっしゃる。関空の勢力圏は、四国・瀬戸内・山陰エリアまでをカバーしている。そして、新幹線や高速道路が整備されており、瀬戸内海も交通ルートである。また、このエリアの地方空港にも国際線が就航しており、新たな誘致にも熱心。これらのエリアが連携すれば、さらなる魅力が提案できる。関空イン・関空アウト、羽田・成田からの空路での誘客、オープンジョーなら必ず広域観光につながる。

 スペインアンダルシアは、毎年2500万人を超える観光客でにぎわい、世界のデスティネーションとして認知されている。その面積約8万7千㎢。関西・四国・瀬戸内・山陰エリアの合計面積もほぼ同じ。決して広すぎることはない。

 この大連携を具体化するため、去る5月9日、関西・四国・せとうち・山陰の4つの広域連携DMOは、包括連携協定を締結した。パイを大きくしてそれぞれのエリアが裨益することを目指している。これから具体的な事業の形成を進めていくが、西日本は、大団結していく方向にある。

大きな構えの中身づくり

 さて、関西のルートについては、各地の体験型商品などを散りばめ、その中身が深化しつつある。また、「ルートとルートを横につなぐ」などの進化も始まっている。コロナ禍で、インバウンドが蒸発した期間、地域の方々とじっくりと取り組んできたが、これからその効果が試される。特に、万博にお越しになる方は、目的が万博の見学・体験なので、大阪からの日帰り、短期宿泊のラインアップをそろえていく必要がある。あるいは、神戸・京都・奈良などに宿泊して、万博会場に行かれることも考えなければならない。ルートを念頭に着地型商品などを揃えていく。

 今年3月、関西の14府県市と交通・観光を中心とする民間の皆様により「EXPO2025関西観光推進協議会」が設立された。現在、オール関西で万博にお越しになった方々に関西一円を楽しんでいただくための「万博プラス関西観光事業」に取り組んでいる。事業活動の全てを万博のレガシーとするべく、事業を完遂し、結果を総括して、将来につなげていかなければならない。大阪IRも控えている。「関西一円に海外旅行者が訪れ、地域が賑わい潤う姿」の実現を目指して、大きな構えと中身づくりに明け暮れる夏である。

関西8つの広域観光ルート
8つの広域観光ルート

8つの広域観光ルートの概要

①紀伊半島エリア

 和歌山県・奈良県・三重県…「心の原点への巡礼の旅」のエリア。巡礼の道、熊野古道は千年以上の時を経て日本の精神の原点を現代に残す。自分に向き合い高めるスピリチュアルな道。

②播磨エリア

 兵庫県…「名城と侍文化、海の道」のエリア。都と西国を結ぶ要衝にあって、世界遺産姫路城を中心に今でも残る戦国・侍文化。現代に至るまで多様な文化を受け入れながら発展している。

③琵琶湖西岸~北陸エリア

 滋賀県・福井県…「水がはぐくむ文化と信仰」のエリア。日本最大の湖・琵琶湖。後背地の山々の豊かな雪解け水は田畑を潤し、水郷を形成しながら暮らしや信仰に息づいている。

④福井~琵琶湖東岸エリア

 滋賀県・福井県・三重県…「戦国文化とクラフト」のエリア。多くの武士が往来し武家文化・忍者文化が栄えたこのエリアは、千年以上続く伝統工芸から現代的なものまで「クラフト」のエリアでもあり、多くの匠を育ててきた。

⑤神戸~淡路島~徳島エリア

 兵庫県・徳島県・和歌山県…「パノラミックな国生みの海」のエリア。内海ゆえの島影や渦巻く潮流など穏やかで広大で変化に富んだ海。ゆっくり滞在すると海に日が昇り、沈み、そこに生まれた国生みの神話や生活者の文化も見えてくる。

⑥山陰海岸エリア

 京都府・兵庫県・鳥取県…「海岸美と恵み」のエリア。奇岩や断崖の岬と漁村が交互に続く独特の地形は、息をのむ景色と豊かな漁場、穏やかな人々の営みを形成している。

⑦奈良~伊勢エリア

 奈良県・三重県…「神話から古代へ、日本の原点」のエリア。神話時代までさかのぼる日本の原点。政治・文化のオリジンはここにあり、いくつもの時代の足跡が多重に折り重なる。

⑧丹波エリア

 京都府・兵庫県…「実りの里山」のエリア。京都と兵庫にまたがる「丹波国」は独自の作物が実る、豊穣の里山。そこに街道の要衝となる城下町や、都の食材を支えた町など個性が光る暮らしがある。

寄稿者 東井 芳隆(とうい・よしたか)(一財)関西観光本部 / 代表理事・専務理事

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