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ゆたかなる旅路 Act.4「手を振り振られて豊かになる」

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Act.4「手を振り振られて豊かになる」

 あなたが最後に笑顔で人に手を振ったのはいつのことだろうか。

 旅をしていると、時々「おもてなし」と称して、地域の方々のお出迎えやお見送りに出会うことがある。メジャーなのは旅館を出発する際、バスに向かって玄関に勢ぞろいで手を振るスタッフの列だろうか。

 空港のスポットから離れた飛行機が自走で滑走路へと向かう瞬間、左側に目をやると必ずヘルメット姿のグランドスタッフ2人の姿が見える。プッシュバック(スポットから車で飛行機を押し出すこと)を終え、接続部分の車止めを外し、コックピットへと運行を引き継いだ彼らは、いつも笑顔で大きく手を振っている。機内はそんなことは気にしない乗客がほとんどだ。しかし、私は必ず大きく手を振りかえす。

 するとなぜだろう、心が豊かになったような気がする。

まず、手を振ってみよう・・・

 地域全体で観光客をおもてなしする、まず何から始めたら良いかという問いに対して、私はずっとこう呼びかけてきた。観光客を無視しない、できればようこそ、と声をかけて。あるいは観光バスや列車を見かけたら畑仕事の手を止めて、あるいは自転車を止めて手を振ってみてください、と。

こまち115おかえりなさいプロジェクト

 東日本大震災で50日にわたり運休した「新幹線の一本目に手を振ろう」。と地元の方がツイッター(当時)で呼びかけた「こまち115おかえりなさいプロジェクト」。人格のないはずの「鉄の塊」新幹線に多くの方が沿線に集い、手を振ってくれた。めいめいがそれぞれの想いをを手書きの旗にこめて。その時の動画は今でも見ることができる。今では地域に生きる、を体感する鉄道マンや新幹線をこれから迎える地域にとっての教材にまでなった。

こまち115おかえりなさいプロジェクト「あしたのうた」

洋野エモーション

「洋野エモーション」客席もみんな総立ちで全力で振り返す!
ココロが豊かになる瞬間

 同じく東日本大震災をきっかけに走り始めた「東北エモーション」。今では珍しくないレストラン列車の先駆け。こちらでもこの沿線の洋野(ひろの)町の職員の呼びかけでこの列車の運行日には多くの人が集まり手を振ることが慣わしとなった。名付けて「洋野エモーション」。無数の大漁旗、速度を落として走る列車と並走しながら手を振る子供たち。「これが生きがい」とまで言ってくれるお母さんまでいて、今も運行日には誰かが手を振る。雨の日も雪の日も。

こちらも、あちらも、「みんなで」・・・

 今ではこうした取り組みはあちこちで見ることができる。大人だけでなく子供たちが参加する光景も増えた。地域の未来を担う子供たちにとって、そこを訪れる観光客に接する機会は、地域を思う気持ちを育むまたとないチャンスだ。だが、長続きするところとそうでないところがある。秘訣は、誰かに言われてやるのではなく「みんなで」やること。「生きがい」とまで言ってくれる人が現れたのは、決して手を振っているのは自分だけではなく、速度を落として走る列車の窓の向こうに、全力で手を振りかえすお客さまの笑顔が見えるからだ。

 旅をして、こうした光景に出くわしたら、恥ずかしがらずに笑顔で手を振りかえしてほしい。それが地域が観光で持続する糧となるはずだから。そして間違いなく、あなたの旅もココロも豊かになるはずだ。

(つづく)

(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=19

寄稿者 高橋敦司(たかはし・あつし) ㈱ジェイアール東日本企画 常務取締役CDO

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