2月6日、地域創生の最前線を探るべく、全国各地から探求者達が静岡県・伊豆半島へ集結。IZU POINTの仕掛け人、近藤ナオ氏の案内で松崎町から下田市を巡る視察を行った。前編の焦点は、未利用の「自然資産」の価値化である。
捨てられるはずの木材をエネルギーに変え、空き地を創造の場に変える――。
現地で肌に触れたのは、ルールよりも個人のセンスを信じることで生まれる圧倒的な熱量と、経済と美学を両立させる循環の仕組みだった。
3省庁認定の美学。ルールを手放し「信じる」から始まる場づくり
地域創生の最前線は、どこにあるのか。
2月6日、その答えを求め、全国から志を持ったメンバーが静岡県・伊豆半島に集結した。
東京山側DMCが主催する地域創生プロデューサー養成講座の視察として、西伊豆、松崎から下田へと巡る風土再生をテーマにした旅路。
そこにあったのは、単なる観光地巡りではない。この土地に真摯に生きる人々と出会い、その知恵を学ぼうとする探究者たちの熱気だ。その出会いの連なりこそが、一行を風土再生の核心へと誘っていった。
デジタル全盛の現代、情報は指先一つで手に入る。
しかし、現地に足を運び、その土地を肌で感じる価値は何物にも代えがたい。 「実際に足を運ばなければ得られないものがある」参加者から漏れたその言葉の通り、わずか8時間の滞在は、データでは測れない「人と人が関わり生まれる価値」を力強く再確認する時間となった。
本視察の案内役を務めたのは、IZU POINTの仕掛け人の近藤ナオ氏である。かつて渋谷の街全体をキャンパスに見立てたシブヤ大学の設立に携わり、長年「まちと人の関係性」を問い続けてきたコミュニティ・ビルダーである。現在は南伊豆で里山暮らしとエネルギー交換を実践しながら、新しいローカルの形を模索する彼が、この地に点在する熱源のようなプレイヤーたちを繋いだ。
本連載では、近藤氏のアテンドのもと巡った伊豆の新たな萌芽を、前後編でレポートする。この地で起きているのは、二つの対照的な、しかし根底で繋がっている物語である。前編のテーマは、木やエネルギー、そして空間という目に見える資源の活用である。
経済と環境、美意識のトリプルクラウン
旅の始まりは、西伊豆町の宿泊施設「LODGE MONDO(ロッジモンド)」からである。出迎えてくれたのは、BASE TRES代表の松本潤一郎氏。かつて世界中を旅してきた松本氏がたどり着いたのは、森から人を繋ぐ循環の仕組みだった。
彼らが運営する薪火レストラン「Quebico(クエビコ)」は、単なる飲食店ではない。ガスを一切引かず、自ら森に入り整備した際に出る未利用材を熱源としている。かつてはコストとして処理されていた木材が、ここでは極上の料理を生み出すエネルギーへと変わる。さらに、燃焼後の灰は土壌改良材として農家へ還元されるという徹底ぶりである。
驚くべきはその経済効果である。かつて月額15万円ほどかかっていた光熱費は、この薪ボイラーによるシステムによって10分の1にまで圧縮されたという。単なる環境活動ではなく、強靭なビジネスモデルがそこにはある。

この経済性と環境再生を両立させた美学は、観光庁・農林水産省・環境省という国の主要3省庁からアワードを受賞するトリプルクラウンを達成した。松本氏の洗練されたセンスと、森を整備し生態系を取り戻す実直な活動は、持続可能なゼロカーボンの一つの完成形を見せつけられたような鮮烈な体験であった。

センスを信じ、偶然性を面白がる
続いて訪れたのは、かつての資材置き場を再生させたクリエイティブ拠点「WITH A TREE(ウィズアツリー)」である。

「ルールで縛るのではなく、その人の感性を信じる」
その思想は、空間づくりそのものにも表れている。
見渡せば、置かれている家具や什器のほとんどがもらい物か、ここを訪れる人々の手によるDIYである。捨てられるはずだったモノを受け継ぎ、集う人々が自らの手でリサイクルし再構築したこの場所。その精神性は、後に触れる地域通貨「IZU POINT」の思想とも共鳴しており、彼ら自身もその輪を回すプレイヤーの一人である。
この思想が浸透しているからこそ、ここには余白があった。デジタルノマドがキーボードを叩く傍らで、親子は絵本を開き、若者はDIYに没頭する。多様な人々が互いを尊重しながら混ざり合う、心地よいカオスが生まれていく風景が目に浮かぶようであった。

象徴的なのは、この開放的な空間の裏手には法務局が位置し、近隣にも行政の建物があるエリアだという事実である。もっともルールに厳格なはずの行政の隣で、もっとも自由な空間が地域住民に受け入れられている。
そのしなやかな関係性こそが、地域のレジリエンス(回復力)を高める土台となっていた。
「カオスを生み出したい。予期せぬ方向へ進む偶然こそが面白い」
とオーナーの梅田氏は笑った。彼が幼少期から培ってきた近隣住民との信頼関係があるからこそ、この場所は有事の際に、人々が支え合う共助の拠点として立ち上がるのだろう。
巨大な避難所という現実的な側面を持つこの場所は、自由を尊重するWITH A TREEの場づくりと結びつくことで、その力をいっそう発揮する。
人が自由に出入りできる開かれた空間だからこそ、「ここに来ればきっと何とかなる」と自然に思える。
平時は人が混ざり合う遊び場であり、学び場であり、ときには職場にもなる。しかし、いざ有事となれば、真っ先に思い出される避難場所として機能するだろう。
ここは誰も拒むことなく受け入れ、人々をいつでもおおらかに支え続けている。
次回の後編では、いよいよ案内人・近藤氏が仕掛けた地域通貨「IZU POINT」に焦点を当てる。
「ありがとう」を可視化し循環させるこの仕組みとDAOが、どのように人々の日常に溶け込み始めているのか探っていく。
(後編へ続く)
寄稿者:熊谷綾(くまがい あや)・小谷沙智(おだに さち)東京山側DMC_AI*地域創生プロデューサー資格養成講座
