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二度三度来たくなる観光地作り~「継続は力なり」~

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 大分県の湯布院町湯平温泉にある小さな旅館「山城屋」が、コロナ禍を経験して見つけた大切な宝物。そして、これからますますグローバル化する観光業界の取り組むべき課題について回を分けてご紹介します。

継続は力なり

 2018年4月より私が提案して設立した民間団体「インバウンド推進協議会OITA」は、コロナ禍を経て2023年7月に一般社団法人「インバウンド全国推進協議会」へと改組・改称して現在に至ります。

 この間、大分県が公募した委託事業「観光産業リバイバル推進事業」に応募したところ、これまでの地道な取り組みと、今後の具体的な課題解決策の提案が功を奏し、見事に受託することができました。

 私たちの事業名はずばり、「インバウンド復活を見据えた観光産業の課題解決支援事業」です。

 これまで、2カ月に一度の定例会での会員間ディスカッションを通じて、さまざまな解決策のアイデアが生まれましたが、いずれも広範囲かつ先立つものが必要な事ばかりで実現までの道のりは遥か遠くに感じられていました。

 しかしながら、コロナ禍の間も諦めずに活動を続けた結果、県の委託事業という形で実現できることになったのです。

 まさに「継続は力なり」といいますが、あらためてこの言葉の意味を実感したところです。

「インバウンド復活を見据えた観光産業の課題解決支援事業」

 県の委託事業として採択された私たちの事業は、大きく分けて次の4つの項目で構成されています。

(1) 観光人材の育成

(2) 観光素材の発掘、情報収集

(3) 情報発信、プロモーション

(4) 受入環境の整備

事業実施体制
事業実施体制

 これらは過去のディスカッションで浮き彫りとなった6つの課題である、①言葉の問題 ②意識の問題 ③インフラの問題 ④ニーズ・情報発信の問題 ⑤地域資源の活用 ⑥地域連携の問題-を、より実現可能な形で再分類したものです。

 それでは、各項目の内容について、実際の事業計画書より抜粋してご紹介します。

その1.【観光人材の育成】

 現在日本では、少子高齢化などで労働力の減少が懸念される状況にあり、生産性を上げてゆかなければならない局面にあります。

 日本に比べてモバイルやネット環境が進んでいる諸外国にアプローチするためにはWEBやITに関する知識や技術を習得することが必須です。

 しかしながら、多くの県内インバウンド受け入れ事業者のデジタルリテラシーは決して高いとはいえず、このままではポストコロナのインバウンド集客に後れを取ってしまう可能性がありました。

 そこで、各事業者にデジタルマーケティングやITに関する知識や技術を習得の機会を提供し、デジタル技術を活用した効果的な情報発信リピーター獲得のための施策立案等に役立てていただく事を目的とし、県内の観光関連事業者や地域の観光を担う人材に対して、講演会・セミナーの実施、および、デジタルを活用した効果的な情報発信技術を習得するための学習プログラムSURGE(※)の導入を実施することにしました。

 また、本事業において学習した事をベースに、いままでシステムベンダーに任せがちであったIT 技術活用施策やシステム構築を受講者それぞれが主導で行えることを目指したものです。

※学習プログラムSURGE(サージ)とは、デイアライブが提供するWeb・デジタルマーケティング支援サービスで、Webサイトの制作・SNS活用・広告配信・データ分析などに活かせる知識を基礎から体系的に学べるツールです。

その2.【観光素材の発掘、情報収集】

 一般的に、地方に行けば行くほど「二次交通」「三次交通」が不足しており、そのことが地方の観光振興の足かせになっていると言われてきました(あるいは、そう思い込んでいました)。

 しかしながら、よくよく調べてみると、山間部のデマンドバスや都市部のシェアサイクルなど、各地域の事情に対応した交通手段が存在しているものの、県内外の観光客に十分に知られていないのではないか? という結論に至りました。

 「無いものを嘆くな、あるものを生かせ」という発想は、これまでも何度かご紹介してきましたが、この交通機関の問題も同じ発想で改善できるのではないかと考えたのです。

 そこで、かねてより課題とされていた「地域資源の活用」や「地域連携の問題」および「インフラの問題」の3点を同時に改善することを目的に、既存の交通機関の調査と活用を主な取り組みとして、将来的に県内の観光地域間の連携へと繋がる次の2種類の動画を制作することにしました。

 (1)別府駅や由布院駅等知名度の高い主要交通拠点から観光施設(観光地、宿泊や飲食施設)までアクセスできるルート(公共交通機関、タクシーでの利用代金を含め)を検証してビデオ撮影し、多言語でインバウンド観光客に案内する。

由布院駅からのアクセス
由布院駅からのアクセス

 (2)複数の観光施設(観光地、宿泊や飲食施設)間を周遊するモデルコースおよびアクセスできるルート(公共交通機関、タクシーでの利用代金を含め)を検証してビデオ撮影し、多言語でインバウンド観光客に案内する。

市営デマンドバス
市営デマンドバス
進撃の巨人VR
進撃の巨人VR

 「点から線へ」

 県内の複数の観光地や施設を、さまざまな交通手段とともにモデルコースとして動画でご紹介することで新たな導線が生まれ、これまで単体では集客が厳しいと思われていた施設も、魅力ある周辺地域の観光スポットの紹介と組み合わせることにより、さらなる観光客の流入が期待できるのではないかと考えました。

その3.【情報発信、プロモーション】

 大分県内には、古くから県北の「ツールド国東」や県南の「ツールド佐伯」など、サイクリングに関するイベントが根強くあります。

 また、全国的には、瀬戸内海の「しまなみ海道」など自転車を核としたサイクルツーリズムが国内外を問わず注目されています。

 そこで、大分県内の知られざるサイクルルートをご紹介する動画を制作し、当協議会ホームページや、YouTube等で国内外に発信することにしました。(メイプル耶馬サイクリングロード・サイクルパークおおの・ツールド佐伯のルート等々)

 もちろん、多言語による翻訳字幕も付けてです。

サイクリングコース
サイクリングコース

 次に、県内留学生らによるモニターツアーの実施を行うこととしました。

 具体的には、実体験型ワークショップツアーとして、大分県豊後高田市の「そば打ち体験」や別府市の「共同温泉の体験」などのツアーを企画し、県内留学生へ参加依頼を行いました。

 興味ある外国人の若者と会員が主体となって、単なる体験だけでなく、学習・ディスカッション・ワークショップを行うことで、今後の後継者育成効果にも繋がるツアー造成を目指しました。

そば打ち体験の様子
そば打ち体験の様子

その4.【受入環境の整備】

 最後に、インバウンドの受け入れ環境を語る上で、「言葉の問題」と「意識の問題」の解決は不可欠です。

 「言葉の問題」については、以前からわかってはいるものの、「どこから手を付けたら良いのか分からない」や「そもそも翻訳・通訳を誰に頼めば良いのかわからない」という声をお聞きしました。

 そこで、まずは各事業者の施設内の表示(案内)を多言語化し、そのための翻訳業者を斡旋することから取り掛かることにしました。

 翻訳業者も、我々の会員さんの中から募り、会員間相互にメリットのある形を目指すと共に、確実に「多言語化を現物化」(デザイン、印刷、データ交付)することを第一の目的としました。

多言語案内「山城屋」
多言語案内「山城屋」

 次に最も根本的な問題ともいえる「意識の問題」について、これまでとは全く異なるアプローチが必要ではないかと考えました。

 そもそもインバウンドを受け入れるか否かは、「言葉の問題」以前に「意識の問題」=「心の壁」が大きなウエイトを占めていると思うのです。

 一般的に何事も完璧を求めるあまり、「もしものことがあったらどうしよう?」という漠然とした不安や、「日本人相手のときよりも業務に余分な負荷がかかるのではないか?」という、まだ見ぬものに対する警戒心にも似た懸念が大きいのではないでしょうか?

 しかしながら、少子高齢化と共に今後の国内市場は確実に縮小して行くなか、観光産業のみならず全ての産業は海外市場に参入せざるをえないことは明白な事実です。

 内閣府発表の人口推計予測によると、これから40年を経過しても65歳以上の人口はほぼ横ばい状態ですが、最も消費活動する15歳以上64歳以下の人口は約40%も減少してしまうのです。

高齢化の推移と将来推計
高齢化の推移と将来推計

 いわゆる「持続可能な観光」を考えた場合、好むと好まざるとにかかわらずインバウンド対策は不可欠といえるのではないでしょうか?

 もはや待ったなしの状態の中、「完璧な受入体制が整ってから」と考えている人がいたとしたら、残念ながら既に時代の流れに乗り遅れていると言わざるを得ません。

 私の経営する旅館山城屋は、今からおよそ20年前からインバウンド受け入れに力を入れてきました。

 おかげさまで、現在の外国人割合は90%で、概ね2カ月先まで満室のご予約をいただいています。

 また、世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の日本の旅館部門2017で満足度全国第3位となり、その後も常にランキング上位をキープさせていただいています。

 もちろん、取り組み始めた当初は何のノウハウもありませんでしたので、数えきれない程の失敗もしましたし、災害時や緊急時の対応など、今から思えば貴重な経験もさせていただきました。

 しかしながら、その都度経験したことを次に生かすことによって、確実にスキルアップができたように感じています。

 なので、まずは「やってみる」ことが重要です。

 そこで、われわれ協議会は、そのための意思表示の象徴ともいえる「インバウンドに優しいおもてなし認定証」の認定交付を始めることとしたのです。

インバウンドに優しいおもてなし認定証
インバウンドに優しいおもてなし認定証

 この認定証制度の詳しい内容については後日あらためてご紹介させていただきたいと思いますが、その後、この認定証の交付申請者が県内のみならず全国から現れる展開となったことは予想外の出来事でした。

 次回からは、今回の事業の大きな柱である「交通検証動画」「インバウンドに優しいおもてなし認定証」について、より詳しくご紹介いたします。

寄稿者 二宮謙児(にのみや・けんじ)㈲山城屋代表 / (一社)インバウンド全国推進協議会会長

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