欧州連合(EU)日本政府代表部の二宮悦郎参事官はこのほど、岡山県岡山市の杜の街グレースで開かれた「第4回地域連携研究所大会 in OKAYAMA」で、「地域の課題解決」をテーマに講演。欧州でニーズが高い日本の伝統工芸品にフォーカスし、販路拡大に成功するための条件として、やる気のある広域の推進母体によるノウハウの蓄積、やる気のある地域の機能、小粒なニーズをつなぎ合わせる取り組みとして地域横断的な人的ネットワーク構築の必要性を説いた。
EUは27カ国で組織されており、日本政府代表部はベルギー・ブリュッセルを起点に活動が行われている。二宮参事官は、2022年10月にフランス・パリで開かれた北前船寄港地フォーラムをきっかけに伝統工芸品や文化が欧州で売れる、売っていくべきではないかという課題感を持ちながら、欧州市場での展開の支援をしている。
日本文化の海外市場への展開を
講演では、二宮参事官は、日本の伝統工芸品の生産額と従業員数の減少を指摘。1998年度は生産額が2784億円、従業員数が11万5千人だったが、2020年度には生産額が870億円、従業員数が5万4千人となっている(出典:伝統的工芸品産業振興協会)。「国内の内需に支えられていたが、これからは外需を取り込んでいかなければならない」と述べ、問題意識として、ニーズがある日本文化の海外市場への展開を挙げた。
政府が決定したものとして、2022年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」を紹介。日本企業の海外ビジネス促進が進まない理由として、海外ビジネス特有のリスクやハードルを前に判断が保守的になる傾向があることを挙げた。二宮参事官は、課題が想定される関所として、①各省庁や自治体の縦割り構造②国と地方の壁③地方自治体と組合によるバラバラの取り組み④組織(協同組合など)での意欲阻害⑤主張の意欲次第⑥地元金融機関の意欲・ノウハウ不足―を挙げた。
二宮参事官は、伝統工芸品は各省庁・各自治体の縦割りの中で「やった感」に終始しており、必要な連携や戦略立案(選択と集中)が行われず、本来実現すべき地方創生が実現できていないことを指摘。政策の必要性は共有されるが、成果やコマーシャルベースの意識に欠けている現状に疑問を呈した。
各省庁の縦割り構造例
農産品輸出:農水省、日本酒輸出促進:国税庁、文化財保護(国内):文化庁、インバウンド:観光庁・JNTO、地方創生交付金:内閣官房地方創生推進事務局(デジタル田園都市国家構想)、イベント開催:JETRO・CLAIR・文化会館・大使館広報文化班
販路拡大で効果的な「国際展示会」
二宮参事官は、陶芸など日本の伝統工芸品の欧州における立ち位置が、ニーズが強く、競争力のある領域であることを強調。伝統工芸品の販路拡大に成功するための条件として、日本側ではやる気のある広域の推進母体によるノウハウの蓄積、各地域ではやるきのある首長や市役所職員、地元経済界、若手作家・職人らによる営業チームの機能、海外市場に向けては地域横断的な人的ネットワークなど、小粒なニーズをつなぎ合わせる取り組みの必要性を訴えた。
伝統工芸品の販路拡大の手法としては、国際展示会への出展を紹介。バイヤーと直接対話や、出品料は要するがプロモーションに集中できたり、JETROが確保するジャパンブースで各種支援が得られることなどを利点として紹介した。一方、独自開催(首長トップセールス)については、膨大な手間や委託先のコンサルタントの力量による成功可否、フォローアップの大変さなどを挙げた。
「クラフト」は安物と勘違いされる
二宮参事官は、欧州への伝統工芸品の展開としての注意事項を紹介した。日本の伝統工芸品は正解的に見ても特殊で特別な存在であることを踏まえる必要性を案内するほか、「海外では『クラフト=安物』と捉えられる。伝統工芸品はクラフトではなく、『アート』『オブジェ』と訳してほしい」とアドバイスした。
予算の使い方については、単発的で打ち上げ花火のようなイベントは壮大な予算の無駄遣いであり、どうやったら売れるかと言う目標から逆算した取り組みの必要性を説いた。また、注力すべきはB to B ⇔ B to Cで、「業務の優先順位を変更できない場合に追加的な事業は控えてほしい」と語った。
文化はビジネスになる
最後に、二宮参事官は今後にやるべき4つの行動を紹介した後、参加者に「文化はビジネスになる」とエールを送った。
今後やるべき4つのこと
①案件組成の目標共有(国際交流に止まっていないか? ビジネスにつなげる必要がある)
②全員野球(他人任せにしない)
③意欲ある者同士のネットワーク化(組織での意思決定には時間が掛かる)
④制度改正に向けた運動(声を上げなければ制度は変わらない
取材 TMS編集部