学び・つながる観光産業メディア

歴史の鳴動×バーチャルツアー「奈良観光振興」の将来に求められるものは・・・

コメント

何が足りないのか、奈良と京都の魅力を比べてみると・・・

 日本の古都として、修学旅行の定番目的地である奈良観光と聞いて思い浮かべるものは、東大寺の大仏、法隆寺、薬師寺など、奈良時代の寺社が主なもの。外国人観光客には奈良公園の鹿が人気だ。

 京都と比べた場合の奈良の魅力は、奈良時代以前の古建築や仏像がたくさん残っていること。一方、京都は西陣織などの伝統工芸、京料理や和菓子などの食文化、舞妓や祇園祭など現在まで受け継がれている優雅な生活文化と、買い物、レストランなどの都市機能が魅力である。奈良にはこうしたものが乏しく、夜の飲食店や娯楽施設が足りない。

 こうした奈良の欠点から、奈良は2回も訪れれば十分という方が多いのではないか。リピーターを増やすには何が必要か。

歴史を紐解き、埋もれている史跡を鳴動させると・・・

 奈良では奈良時代よりも以前のものは多くが林や土に埋もれているか、小さな遺構が残っているに過ぎないものも多い。しかし、歴史の知識を持ってこれらを見てみると、見え方が変わってくる。

(初期ヤマト王権の発祥の地:纏向遺跡)

 現在の飛鳥板蓋宮跡は野原と畑だが、蘇我入鹿が斬られた乙巳の変(大化の改新)の舞台である。中国に隋という統一国家ができたことが日本の国家体制の整備を促し、明日香を中心とする中央集権国家建設の集大成として蘇我氏が征伐された事件がそこで起きたのである。

 桜井市の纏向遺跡も住宅や田んぼの中だが、弥生後期に1万人が住んでいた当時国内最大の都市である。同じエリアにある箸墓古墳は卑弥呼の墓とも言われ、邪馬台国または初期ヤマト王権がそこに所在したことはほぼ間違いない。

 また、天香具山はただの小さな丘にしか見えないが、万葉集で讃えられ、天香久山の赤土は神武東征の勝利の鍵になるなど神聖視されていた。その理由は藤原宮跡に立つとわかる。東に香具山、北に耳成山、西に畝傍山が見え、東、北、西が山に囲まれ、「天子は南面すべきである」という古代中国の理想の王宮の条件を満たすための重要な借景となっているのである。

バーチャルツアーに活路が見つかるかも・・・

 こうした歴史を知った上で古代の遺物を見ると、まさにここで歴史が大きく動いていたことを感じることができる。このような奈良観光ができれば、リピーターになる人も増えるのではないか。実際、遺跡や遺物を巡りながら知識を得ていく旅行を催行している地元の旅行社もあるが、一方で専門的な歴史を勉強するのは面倒と思う人も多いだろう。

                 (大和三山の一つ:香久山遠望)

 そこで、土に埋もれた歴史をもっと手軽に生き生きと感じる方法として、ARやVRの3D映像が有効だと思う。昔そこにあったものをバーチャルに見ながら、歴史も学ぶようなツアーができる。

 また、古墳や古代条里制、古代の道路や大寺院の遺構などは上空から見るとよくわかるが、ヘリコプターを使ったツアーは高額なうえに乗る前後の時間もかかるのであまり人気はない。しかし、ドローンからの映像をリアルタイムで見ることで擬似飛行体験ができる。VRとドローン映像を取り入れたツアーが地元の貸切バス事業者である奈良交通によって今年1月に実施された。こうした映像が今後もっとリアルさを増して、奈良のおもしろさをより手軽に感じられるようになればよいと思う。

 私自身もドローンの操縦免許を取得して、その可能性を探っているところだ。

(つづく)

寄稿者 増田充康(ますだ・みちやす) 三重交通GHD執行役員

/
/

会員登録をして記事にコメントをしてみましょう

おすすめ記事

/
/
/
/
/