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ボーダーツーリズム(国境観光) 第1章 国境の島・対馬

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 私は2017年よりボーダーツーリズム推進協議会を組織して活動しています。国境・境界地域の観光をテーマとした組織です。当該地域にある自治体、大学・研究機関、観光関連会社などが正会員として活動をしています。また多くの個人会員も会の運営を支えてくれています。協議会の活動は公式ホームページがありますのでぜひご覧いただきたいと思います。

https://www.border-tourism.com/

第1章 国境の島・対馬

 さて2004年、ANAから対馬市へ社員を送り込むことになりました。今は盛んになっている地方創生人材支援制度の先駆け的な取組で、市役所には私の先輩社員が派遣されることとなりました。当時、ANAグループの旅行会社に勤務していた私はその先輩の意向を受けて東京サイドでお手伝いをする役目を仰せつかり、対馬名産の「どんこしいたけ」をANAホテルへ卸販売したり、万葉集・防人の歌をテーマとした旅行の企画実施などを行いました。その後もボーダーツーリズム関連で対馬に何度か訪問し、2017年秋にはツーリズムを含む「国境スタディ」の全国セミナーが対馬で開催され、その一環で対馬海峡を挟んで50km先にある韓国釜山までのツアーも企画しました。釜山との間を往復する高速船は最盛期(2018年)には40万人以上の韓国人旅行者を対馬へ送りましたが、コロナ禍により2000年3月より運休となりました。(本年2月25日再開)最近では2020年11月に訪問しました。コロナ禍の最中ではありましたが、対馬観光へのコロナ禍の影響を調査し、アフターコロナ時代への準備・展望を市役所の方方や観光関係者に伺うことが目的でした。その報告は日本観光学会誌第62号に発表しましたが、本稿はその要約・加筆したものです。

<報告1> コロナ禍でも変らぬ観光資源の魅力  

 コロナ禍により40万人以上だった韓国からの旅行者は消滅しました。元々対馬への日本人観光客は年間約3万人。特定有人国境離島地域社会維持推進交付金もあり福岡・長崎等とを結ぶ輸送力は維持されましたが、韓国人旅行者に依存していた島内宿泊・飲食施設への影響は甚大でした。韓国人観光客で賑わっていたホテルは閑散としていました。私は浅茅湾をクルーズ、韓国まで見渡せる展望台に上り、和多都美神社など対馬を代表する観光資源を訪れました。

 その感想は一言、

 対馬の観光資源の魅力は不変だという事です。コロナ禍でも対馬の観光資源は毀損しておらず、私には日本の観光の重要なテーマである「こと体験」の素材として磨かれることを待っているようにも思えました。

<報告2> 韓国旅行者中心から新たな展開へ  

 島内から韓国人旅行者が姿を消した対馬観光は未曽有の危機に直面していました。しかしそれは対馬の関係者にとっては観光の将来を考える機会にもなったようです。実は対馬への韓国人旅行者は日韓政治問題(ボイコットジャパン運動など)により2019年には年間約26万人と大きく減少し、対馬市役所が中心となって日本人観光客、台湾などのアジア地域からの観光客誘致等に乗り出した矢先のコロナ禍だったのです。対馬市が最初に手掛けたのは“おもてなしの改革”でした。韓国人観光客への“おもてなし対応経験”だけでは日本人旅行者や旅慣れた台湾人観光客等には通用しない、との危惧から「おもてなし協議会」を設立しました。(一社)対馬観光物産協会のスタッフの話では「対馬ガイドは韓国語ができるが、英語ができるガイドは少ない。これも今後の課題」と話していました。韓国旅行者の急増は島内にオーバーツーリズム現象を起こしたと同時に“油断”も生んでいたのです。

 対馬観光の“希望の光”は若い方々の活躍です。私たちを半日ガイドしてくれた同協会の若いスタッフは対馬出身でUターン組でした。「韓国人観光客40万人時代に慢心があったのと思う。ホスピタリティも低下していた。これからが勝負です。」と明るく話をされていたのが印象的でした。

 対馬はメディアでも注目されています。2020年11月にはTBS系のテレビ番組「世界ふしぎ発見!」で紹介され、金田城など国境の島ならではの観光素材とともにアメリカ発の大ヒットゲーム「Ghost of Tsushima」の舞台であることを紹介してくれました。アフターコロナの時代には世界中からゲーム“聖地”を目指す旅行者が増加することが期待されます。また2022年10月にはNHK「ブラタモリ」でも2週にわたって放送され、国境の島・対馬の魅力を余すところなく紹介してくれました。

 コロナウイルスパンデミックで大都市集中のデメリットも露呈し、オフィスへ出勤という今までの常識にも変化が見られ、リモートワークやワーケーションが新しい日常になろうとしています。対馬でワ―ケーション、週末には高速船で1時間の釜山へ観光・食事という新しいマイクロツーリズムの実現も夢ではありません。

寄稿者 伊豆芳人(いず・よしひと)ボーダーツーリズム推進協議会会長

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  1. オオイズミトシロウ
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  2. オオイズミトシロウ
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    地域の観光需要は一本足打法ではなく、地元の方が繰り返しリピートする仕組み、 少し遠い方が定期的に訪問する仕組みを地道に育成する以外にないですね。 定番と新ネタの組み合わせが相乗効果を生んでいくのだと思います。 今後も正しい観光施策を御指南ください!

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