杉戸町観光協会(埼玉県杉戸町)は、東京から電車で約30分に位置しながら豊かな自然・田園など原風景を有する強みを生かした持続可能なインバウンド向けコンテンツ造成事業に取り組んでいる。「川の国さいたま」を推進する埼玉県内で、町内を流れる一級河川「大落古利根川(古利根川)」を生かした「古利根川SUP&ガイドツアー」をキーワードに、町内を回遊する体験ツアーを開発。地域の高齢化率(65歳以上)が急上昇する中、急増するインバウンドに向けた新たな都心近郊でのアドベンチャー体験コンテンツの訴求、誘客を図りながら、若者など多くの人に街の魅力を感じてもらい、関係人口、移住人口の増加を目指す。
同事業は、2023年度に観光庁が実施する「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」の一環として実施。民間からは、杉戸町で「古利根SUPクラブ」を運営するRADIX杉戸や旅行における現地ツアー、アクティビティ予約サービスを提供するベルトラ、プランドゥ・ジャパン、観光産業メディア「ツーリズムメディアサービス」を運営するツーリンクスが参画している。
事業では、杉戸町ならではの独自性として古利根川でのSUP体験を中心に、柿のもぎとり体験、全国人気温泉ランキングで全国上位を獲得する温浴施設での入浴体験など、町内を回遊して楽しめる体験ツアーを商品化した。また、地域の観光関係者や住民に事業を説明する事前事業説明化やワークショップなどが行われている。
古利根川SUP&ガイドツアーを通じて魅力を訴求
2023年11月19日には、在日外国人など5人を招きガイド付きファムツアーを開催した。当日は、台湾人女性2人、中国人男性、ネパール人男性、日本人男性の計5人が参加。古利根川でのSUP体験のほか、柿もぎとり体験や卵直売所の見学、道の駅で杉戸産の食材を味わうグルメ体験、地元で人気の温浴施設での入浴体験、日光街道の面影が残る杉戸宿の見学を行った。
柿もぎとり体験では、杉戸町推奨土産品にも認定される「早生次郎柿」の試食や柿狩りを体験。早生次郎柿は、大ぶりで形が良く、甘みが特徴で、柿栽培に適した豊岡地区(杉戸町東部地区)で主に採れる。体験では、生産者から下記の特徴や選別から出荷までの流れを聞きながら柿を試食するほか、実際に脚立に乗りながら柿を実際にもぎとった。柿狩りを初めて行ったネパール人男性は、「ネパールでも柿は採れるが、日本の柿は硬くて味も良い」と評価した。参加した全員が10個以上の柿をもぎとった。
坂斉養鶏所では、卵直売所の見学のほか、プリンの試食を行った。台湾人女性2人は、プリンやマドレーヌといった菓子に興味を持ち、プリンの試食前には撮影をしていた。参加者からは、「直売所ならではのしっかりとした味があるプリンを味わえた」と濃厚な卵の味を評価する声が多かった。
道の駅アグリパークゆめすぎとでは、杉戸産の新鮮な米や野菜を使った天丼を味わうほか、特産品の見学を行った。道の駅は、東京ドーム2個分の広大な体験型の農業公園。季節野菜の収穫体験や、バーベキューなど、家族みんなで一日中楽しめるほか、農産物直売所、フラワーガーデン、食堂などが併設され、地元産の新鮮なお米やお野菜が味わえる場所として人気を博している。参加者は、天丼のボリューム感や野菜の旨味を評価するほか、施設内にさく冬桜にも注目しながら、「次回はバーベキューやいちご狩りで訪れたい」といった再訪意欲を見せた。
SUP体験は、初心者から楽しめる古利根川で実施。事前ブリーフィングでは、道具の取り扱いや乗り方を説明を英訳で記した解説書が配布されるほか、ガイドによる用具の使い方やパドルの操作方法の説明が行われた。ボードには、ガイドの補助を受けながら乗艇。川沿いには閑静な住宅街、東武日光線の電車が走る高架線、東武動物公園駅に続く古川橋などがあり、参加者は杉戸町の方々の暮らしと自然の両方を感じながら水上クルージングを体験した。外国人4人は全員が初めてのSUP体験だったが、慣れたころには全員がボードの上で立つことができた。参加者からは、非日常体験への評価が高く、「都内と訪れた外国人が知れば、皆が気に入ってくれる」「また体験したい」という声が上がった。
入浴体験は、日本全国からの評価が高い温浴施設である「雅楽の湯」で体験。雅楽の湯では、源泉をそのまま流した内湯生源泉湯、つぼ風呂、石風呂をはじめ、高濃度炭酸温泉、乳白色のシルク風呂など多彩な湯船に入浴が楽しめる。外国人の参加者は、裸になることへの抵抗を見せず、全員が入浴体験を楽しんだ。参加者は、さまざまな湯への入浴や、足湯、キャッシュレスで決済できることを評価した。
このほか、参加者の多くは江戸時代の面影が残る杉戸宿や、一面に広がる田園風景に興味を示した。
ファムツアー終了後でのアンケートでは、全員が「楽しかった」と答え、全ての体験において高評価を付けた。体験への値付けでは1万3000円から1万5000円と答える人が多かった。一方で、インバウンドに喜んでもらうには、さらなる通信環境の改善や英語表記の整備が必要といった声が上がった。
取材 ツーリズムメディアサービス編集部