下市町は奈良県のほぼ中央に位置し、元々は宿場町として栄えていました。創業800年を超える日本最古のお寿司屋さんがあったり、割り箸や絵馬、商業手形発祥の地であったりと歴史と文化を感じられる町です。一方で、奈良県民でも下市町を知らない人は多く、知る人ぞ知るディープな町という存在です。
そんな下市町では地域の内外に魅力を発信すべく、シティプロモーションに取り組んできました。2023年からはSNSマーケティングに知見のある複業人材を3人採用し、発信を強化してきました。情報発信におけるコンセプトも刷新し、Instagramのフォロワーも約10倍に増えるなど、人口約6,000人の小さな町が取り組むプロジェクト成功の裏側をご紹介します。
奈良県民の認知度も低い“通り過ぎる町”を脱却すべく、複業人材を採“
私が代表を務めるAnother worksでは、複業したい人と企業や自治体をマッチングする「複業クラウド」を運営しており、これまでに120以上の自治体と手を組み官民連携を推進してきました。奈良県下市町とは2023年7月に協定を締結し、複業クラウドを通してSNSマーケティングアドバイザーを募集しました。採用されたのは奈良県出身で、奈良に対する想いが強いかつSNSマーケティングの領域に知見のある3人です。
▼採用者の詳細はこちら
https://anotherworks.co.jp/wp_post_bxWBuYxS/20230926
▼就任時に撮影した写真
これまで、地域の魅力を内外に発信するためにSNSを運用していましたが、戦略設計や効果的な情報発信手法などが分からず、職員の知識や経験不足に課題を感じていました。そこで複業クラウドを通してSNSマーケティングの領域に知見のある複業人材を採用し、Instagramのフォロワー5,000人を目指した取り組みがスタートしました。
Instagramのフォロワー約10倍増!情報発信のコンセプトを刷新
2023年9月下旬からプロジェクトがスタートし、以降週1回オンラインでの打ち合わせを基本に下記3点について職員と複業人材が一緒に協議を重ねています。
・Instagramフォロワー5,000名を達成するための戦略設計から実行
・SNSの強みや特徴を活かした効果的な情報発信
・下市町の魅力を特に町外の人に知ってもらい、訪問してもらうための情報発信
そして情報発信のコンセプトも複業人材と一緒に刷新し、Instagramは「もう一度、これから」、現在制作中のホームページは「あそびにきぃや。奈良しもいち」に決定しました。
それぞれのメッセージには、「『昔は活気があったのに、今はなぁ』と言われて育った人が多く、下市には何もないと勘違いしている。大人になるにつれて下市の良さが分かるようになり、他県に住んでいる友達にも遊びに来てと気軽に誘いたい」そんな想いが込められています。
コンセプトを体現するため新たに「もしあれやったら下市案内するで係」が発足し、下市町に遊びに来やすくする仕掛け作りまで設計しました。
▼新しいコンセプト
Instagramも発信内容を大幅に見直しました。役所が運営しているお堅いInstagramのイメージを払拭するためにエンタメ要素を加え、下市町に住んでいる住民の人柄もどんどん出していきました。「人」と「風景」を交互に投稿していくスタイルを確立させ、フォロワーはプロジェクト開始時と比べて約10倍に増加しました(2024年2月現在)。
▼下市町のInstagram
https://www.instagram.com/go_shimoichi/
自治体複業の流れが加速、「地域活性化起業人」制度に副業型が新設
下市町のように、地域の課題を複業人材と一緒に解決していく流れは今後加速していくでしょう。私が注目しているのは、企業が自治体に人材を派遣する「地域活性化起業人」制度に副業型が新設されるという動きです。
現行の制度では自治体と企業が協定を結び、月の半分以上を受け入れ自治体で勤務する必要がありました。新設される副業型では、自治体と企業所属の個人が協定を結び、受け入れ自治体での滞在日数も最低月1日となり、働く側の参加ハードルがかなり下がります。今後も自治体と複業人材の共創にぜひ注目してください。
*日本都市センター「シティプロモーションによる地域づくり―「共感」を都市の力に―第14回都市政策研究交流会」はしがき
寄稿者 大林尚朝(おおばやし・なおとも) ㈱Another works代表取締役