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小さな旅行会社のコロナ禍奮闘記! -前編-

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 2023年も6月に入り、約3年間続いた新型コロナウイルスによる観光業への大打撃も一段落した状況と言えるのではないでしょうか。私が代表を務める東京トラベルパートナーズは、従業員14名で売上高数億円の小さな旅行会社であり、介護施設向けの旅行サービスを主力事業としています。このような規模の旅行会社がコロナ禍でどのように事業を継続し、現在までたどり着くことができたのか、この記事を通じて私の実体験を共有したいと思います。

八方ふさがり~高齢者向け旅行サービス~

「旅介ちゃんねる」の撮影風景

 まず結論からお話しすると、私たちの主要顧客である介護施設は高齢者を中心としたものであり、この感染症の影響を最も受けた顧客層でした。旅行や外出はもちろん、面会制限により人との接触さえまともに行えない状況となりました。当然ながら売り上げはゼロになり、借金が増え、ストレスから酒に逃げ、自律神経も乱れ、感染症拡大の最初の年は地獄のような日々でした。

 そこから3年後の現在、コロナ禍で生まれた「旅介ちゃんねる」(https://ttptabisuke.jp/)という参加型旅番組のサービスを基に、接点のある介護施設の数は30倍(110施設→3,500施設)に増え、大手企業との提携も結びAndroidTVアプリの開発も決定、さらに、日経BP社の『未来の市場をつくる100社 旅行部門』にも選出されました。営業利益はまだ年間を通じて黒字になっていませんが、この3年間をどのように乗り越えてきたのか、顧客層を変えずに旅行会社として成果を上げたポイントについて、文字では伝えきれない部分もありますが、私の「コロナ禍での戦いメモ」を基に数回にわたってお話ししたいと思います。

急転直下、パンデミックで地獄のはじまり

 「すべての人が旅行を楽しめる社会づくり」をミッションに掲げ、介護施設向けの旅行に特化したサービス「旅介(タビスケ)」を2018年2月にリリースしました。当社は自社で介護車両を保有し、5人程度の少人数制旅行をリーズナブルに提供するというビジネスモデルを採用しており、東京と神奈川を中心に介護施設向けの営業活動を展開していました。

 2019年末までには100以上の介護施設から繰り返し利用されるようになり、従業員も私を含めて8名まで増員しました。この時期は社員の士気も高まり、車両の台数を増やし、全国展開も視野に入れていました。

 2020年1月28日、さらなる事業拡大への想いで出展をしていた東京ビッグサイトの展示会で、感染症が広がっているという最初の危機感を覚えました。

 2月3日にはクルーズ船、ダイヤモンドプリンセス号の横浜寄港の混乱が大きく報じられました。これはどうやら高齢者には相当相性の悪いウイルスかもしれないという情報も入ってくるようになりました。

 2月6日には「旅介」ツアーにおける感染症対策を発表し、2月17日にはお花見シーズンを含む繁忙期のツアーを中止することを決意しました。高齢者が主要な顧客であるため、私たちは他のどの会社よりも早く、全ツアーの中止を無料で受け付ける措置を取りました。

 今思い返してみると地獄の始まりはこの頃でしょうか、「過去の歴史からもパンデミックは3年続く」という専門家の言葉に全く現実味はなく、ただその時は顧客の信頼を無くさないためにも、目先の対策をしっかりやるという事で旅行を中止にしましたが、まさか本当に予約とキャンセルを繰り返し3年間ほぼ「旅介」がゼロに近い事業になるとは想像していなかったのが正直なところです。

オンラインツアーへのチャレンジと失敗

 ツアーの中止後は、旅行会社として何をやっていいものか全くわからず、打開策ないまま1か月が過ぎました。

 そんな時、介護施設で働いている友人からの薦めで、外に出られない介護施設の方向けに、当時はやり始めだった会議システムzoomを使って初めてのオンラインツアーを企画しました。

 3月20日に企画をして、1週間後の満開に合わせて実施。時間がない中、メールマガジン1本で20施設以上の方に申し込んでいただきました。上野公園、代々木公園から社員みんなでスマホ配信するという起死回生を狙う企画でした。(この時期にオンラインツアーを実施したのは旅行会社の中でも大分早かったのではないかと思います)

 しかし、世の中そんなに甘くなく、結果的にこの企画は大きな失敗で終わりました。

 会議システムで満開の桜の白い花びらを映すと情報量が多く映像が固まってしまったり、カクカクした映像となり、満足していただけるようなサービスでは全くなく、企画としても中途半端。これを続けても意味はないなという事で1回で企画は終了となりました。

 この時点でオンラインツアー以外にアイデアはなく、他に打つ手もなくなり、4月1日、会社として存続していくために従業員は2名を残してグループ会社に出向してもらうこととなりました。

 そこからしばらくはあまり記憶がありません。4月7日に緊急事態宣言が発令され、テレワークが普及し、飲食店は時短営業を行いだしたそんな状況の中、家を出ることに。神奈川県に住んでいる田舎気質の家族から自主隔離のため、新宿で一人暮らしをはじめたのです。夜は不安で寝むれなくなり、酒に頼り日々を過ごしていた気がします。

 ゴールデンウィーク中、補助金、助成金関係の提出は一通り終わってしまいました。

 仕事は何もなく、次へのアイディアもなく、全くやることがないため、過去の契約書や書類の整理整頓をしながら、ぼ~っとオフィスで1人、テプラ(シールを作る機械)を使ってファイルに貼るシールをひたすら作っていた記憶があります。

 この頃はただひたすら辛く苦しい状況で、売上げはゼロ、社員は出向のまま、打開策も出せない自分への失望で落ち込んでいました。コロナ騒動が終わったら、借金返して経営も辞めようと考えるほど追い詰められていました。

追い込まれてからの快進撃!!?

 振り返ればここが落ち込みのピークでもありました。

 コロナ禍以前に申請していた、「ものづくり補助金」が採択され、介護施設向けレクリエーションプラットフォーム開発事業として1,500万円の補助金をもらえる事となったのです。

 それを使って何をやろうか、多くの方の意見も聞きながら、本気で考えて抜いて導き出した答えが、もう一回オンラインツアーに挑戦することでした。

 介護施設向けの旅行会社として、行きたくても行けない皆さまに向けて、誰も経験したことのないクオリティの高いオンラインツアーを配信する。生中継で高画質、インタラクティブ性がありテレビの旅番組に参加しているようなサービスが作れたらお金を払ってでも見てくれるのではないか。

 これで行こう。そう決めたらそこからは怒涛のように突き進んでいく毎日がまた始まるのでした。

後編はこちら:https://tms-media.jp/posts/8410/

寄稿者 栗原茂行(くりはら・しげゆき)東京トラベルパートナーズ㈱代表取締役社長

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