「音」で伝わる地域の魅力
この編成が走らなくなってからもう10年になろうとしている。JR四国のアンパンマン特急は鉄道マニアにとっては極上の撮影素材であると言って良いくらいの人気を誇っていた。写真愛好家だけにとどまらずそれこそじいちゃんばあちゃんたちが、孫たちを連れて一度や二度は日帰り列車旅をするというくらいの日常があった。
午前7時20分頃、上りの特急は現在「宇和海」が走っている。しかし当時はアンパンマン車両の7編成で高松行きの「いしづち」と岡山行きの「しおかぜ」が連結して走っていた。それがゴールデンウィークやお盆、年末年始になると、何と8編成のアンパンマンフルバージョンで予讃線宇和島松山間を走っていたのだ。
写真(見出しのもの)は2015年5月6日に撮影したものだが、通常は1両や2両は点検などで「N2000系」の車両が混じっていても不思議ではないが、このときにはフルバージョンたった。当時撮影したときの感激は今も忘れられずしっかり脳裏に焼き付いている。
縮小傾向の列車編成
このビッグ編成は2016年3月のダイヤ改正で予讃線を走るアンパンマン車両は3両に減少、その数年後には2両編成にまで減少して今日に至っている。次の写真は現在の7時20分頃伊予大洲駅を発車する4両編成の宇和海号である。
私がこういうシーンを撮影する際によく使うフレーズが「気動車が音をたてて鉄橋を走る城下町の風景」だ。予讃線の松山宇和島間は電化されることもなく走っている車両も気動車でそれもかなり古い。言いたくはないが、高松近辺で走っていた車両の入れ替えの際にそのお古が回ってくるというのが現実。たまには新しい車両をデモンストレーションでも良いので予讃線海廻りと予土線維持の夢を乗せて走らせていただきたい。さすれば、域へのカンフル剤にもなるし、とにかく多くの鉄道ファンが集まるに違いない。
子ども時代、現在の自宅前をドデカいSLが走っていた。それが引退してディーゼル機関車が走るようになったときの寂しさは今も忘れられない。状況は違うが昨今の伊予灘線や予土線の存廃の議論が巻き起こっている状況には何だか似たような思いが脳裏をよぎる。
鉄路を存続させるのは、「音」を感じること!?
「音」で伝わる魅力とは。現場で耳にするのがもちろん一番だが、私の場合は「音を感じる写真」を撮りたいと思い、今日に至っている。人口減少に喘ぎ苦しむニッポン。とりわけ四国西南域の大洲圏域以南は厳しい現状がある。そこを走る鉄道は維持が厳しい状況でもある。しかし、一方でこの街から鉄道が消えたらそれは地域沈没を意味するくらいの危機的状況であると思える。
気動車が音をたてて鉄橋を走る城下町の風景。それは地域住民や多くの鉄道ファンがずっと聞き続けていたい魅力的な音なのだ。ふるさとに思いを寄せ異境の地でがんばっている多くの方々にとっても思い出すシーンに「音」は付いてくる。
私が撮影して地域をお伝えできる時間は後10年もない。1年1日1撮を大切にしながら「音」を写真でお届けし、皆さんで地域の魅力について考えることができれば、それだけでふるさとは元気になれる。
この写真は、松本零士先生のご両親が大洲のご出身だったというご縁で疎開していたときに印象に残った景色が基で誕生したと言われる銀河鉄道999の出発駅の夕景だ。レールが光りまもなく銀河行きの列車が入線してきそうな雰囲気を感じて撮影した。
(つづく)
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=14
寄稿者 河野達郎(こうの・たつろう) 街づくり写真家 日本風景写真家協会会員