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共創のフードツーリズム 第1回ビールスタンド重富~飲食店のセオリーを超えた営業スタイルで広島随一の人気スポットに~

2コメント

 全国各地から、「食」の担い手が、旅行者や地域のアクターと共に創りあげるフードツーリズムの最新事例をご紹介します。「食」の消費にとどまらない、持続可能なフードツーリズムのあり方のヒントがあるかもしれません。

ビールスタンド重富

 広島の「食」といえば、お好み焼き、カキ、穴子、もみじまんじゅう。いやいや、生ビールもいまや広島名物!?

マスターである重富寛さん

 広島の繁華街・流川にある「ビールスタンド重富」をご存じでしょうか。立ち飲みスタイルでメニューは生ビールだけ、食事類はおつまみも含めて何も用意されていません。営業時間は、原則として午後5時から午後7時の2時間だけで、さらに一人が飲むことができる生ビールは2杯までに限定という飲食店のセオリーを超えた営業スタイルです。

 それにもかかわらず、日本中、ときには海外から、マスターである重富寛さんの注ぐ生ビールを求めて、連日多くのお客様が集まってきます。だいたい17時の開店前には列ができはじめ、入店までに1時間以上待つことも珍しくありません。

 ビールスタンド重富は、2012年に重富酒店の一角に角打ちとしてオープンしました。そのため近隣の飲食店は、酒の卸先というお得意先にもあたるため、バッティングを避けるために今の営業時間になったそうです。ビールスタンド重富で生ビールを楽しんだ後には、流川のほかの飲食店で広島の酒とさかなを楽しんでほしい、という重富さんの願いが込められた2時間をご堪能ください。

5種類の味わいの異なるビール

 店には同じ樽から注がれる生ビールしかないはずなのに、5種類ものメニューがあります。これこそがまさにビールスタンド重富の魅力。

ビールスタンド重富メニュー

 そのカギとなるのが、昭和初期に作られた木製のビールサーバー「スイングカラン」です。通常のレバー式のビールサーバーと比べて、4から5倍のスピードでビールが注がれるため、熟練の技術が必要です。新旧2つのビールサーバーを巧みに操ることで、味わいも喉越しも異なる5種類の生ビールが生まれるのです。

 初めての方におすすめなのは、「一度つぎ」。飲むというよりも、ビールが喉を駆け抜けていくような爽快感がたまりません。一度つぎの爽快感にうまみが加わる「二度つぎ」、麦芽の甘みを感じる「三度つぎ」はビールを寝かせるため2分ほどかかります。「シャープつぎ」は2つのサーバーを組み合わせて苦みを残すのが特徴、反対に「マイルドつぎ」はその苦みが抜かれているため、ビールが苦手な人も楽しめます。

 せっかく広島に来たから「5種類のビールの味比べを!」と思っても、1人が飲めるビールは2杯まででした。最低3回は来ないとすべてのビールは楽しめないという、リピート必至のスタイルがにくいです。

旅するスイングカラン 

 コロナ禍前まで、重富さんは「スイングカラン」と一緒に、全国各地を訪ねて、生ビールを注ぐ活動もしてきました。その名も「旅するスイングカラン」。これまで28都道府県、200か所以上で生ビールを注いでいます。重富さんによれば、生ビールを注ぎながら、広島の魅力を伝え、広島の集客につなげることが目的とのこと。2025年までに47都道府県の制覇を目指しています。

 しかし、コロナ禍で状況は一変します。営業自粛要請に応じ、生ビールを注げない期間が長く続きました。「旅するスイングカラン」もお休みです。重富さんは、コロナの期間を、日本中の生ビールをおいしくするきっかけにしようと考えます。そこで、クラウドファンディングで集めたお金で動画『ビールチャンネル』を制作、無料公開をしました(現在もYoutubeで閲覧可能)。ビールサーバーの取り扱いや洗浄方法から生ビール注ぎまで重富さんの極意とノウハウが詰まった動画です。

共創のポイント

 ビールスタンド重富において、マスターの重富さんは、生ビールの注ぎ手というだけでなく、全国から集まるお客様を楽しませてくれるエンターテイナーのような存在です。お店では、お客様の視点は重富さんに集まり、重富さんの語りをきっかけに、会話や笑いが生まれます。

 重富さんは、常にビールスタンド重富のことだけではなく、周囲の仲間のことを考えたお店の運営をしています。お店の営業時間は、流川地域の飲食店にお客様が流れることを意識した時間設定を、「旅するスイングカラン」では広島の魅力を伝え、広島に旅行者が来るきっかけを、そしてコロナ禍には、日本中の飲食店のことを考えたアクションを行ってきました。

 その根底には、常にお客様を楽しませたい、喜ばせたいという思いがあります。ビールスタンド重富を後にするお客様が「ありがとうございます」と言って、重富さんが「いってらっしゃい」と送り出す光景が、その魅力を物語っています。

ビールスタンド重富

   寄稿者 青木洋高(あおき・ようこう)㈱JTBパブリッシング 交流プロデュース部マネージャー(食マーケティング事業統括)

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  1. saku
    いいね!:1

    初めましてsakuです。広島出身なのでこんな素敵な記事に出会えて嬉しいです。地元に帰ったらぜひ立ち寄りたいです。

  2. ユーキ
    いいね!:0

    重富さんの人柄と注ぐビールは本当に最高です!素敵な記事をありがとうございます!

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