訪日観光客の話題しかり、外国人労働者の話題しかり、最近は外国人の話題に事欠かない。そのような中、2024年4月1日から「デジタルノマド」ビザという、新しい外国人の在留資格制度がスタートしたことをご存知だろうか。
ノマドとは遊牧民を指す言葉で、デジタルノマドとは、ノートパソコンやスマートフォンなどを使って、オフィスなどの特定の勤務地に縛られず、様々な場所で仕事をするさながら現代の遊牧民だ。ノマドワーカーとも呼ばれる。
つまり、外国人のデジタルノマド向けの新しいビザができたということだが、それは一体どういった資格で、どんな外国人が日本に働きにくるのだろうか。また、それによって日本にはどんな影響があるのだろうか。これまでの在留資格との違いを含めて、最新の在留資格・デジタルノマドビザを解説する。
デジタルノマドビザとは何か?
デジタルノマドビザは、入管法の改正に合わせて4月1日にスタートした。在留資格の中の「特定活動」の一つとして、デジタルノマドに当たる、海外の仕事のリモートワークを日本で行う外国人にビザが発行される。
具体的には、査証免除国かつ租税条約締結国・地域(49の国・地域)の国籍で、年収1000万円以上の外国人が、6カ月滞在でき、配偶者や子どもも帯同できる。補償額が1000万円以上の民間医療保険への加入が必要となる。
来日する観光客が取得している短期滞在ビザでも、外国人が旅行がてらリモートワークで自国の仕事をすることを実質的に規制しておらず、これまでは短期滞在ビザでリモートワークをしていたと思われるが、短期滞在ビザの上限は90日だ。デジタルノマドビザではこれが4倍に伸びる。
年収1000万円以上という要件があることからも分かるように、政府の目的は高所得者の誘致だ。高所得者が日本に長期滞在することによる消費を見込む。
来日して仕事をするといっても、日本の企業が雇用することはできない。あくまでも外国の企業の社員やフリーランスが日本でリモートワークを行う場合のビザだ。この点が、観光と仕事がセットになる可能性があるものでもワーキングホリデー制度と異なる点だ。
ワーキングホリデー制度は、青少年に対して滞在期間中における旅行・滞在資金を補うための付随的な就労を認める制度なので、外国人が来日した場合、風俗営業等は除くが日本企業が雇用することができる。ただし、制度利用に年齢制限があり、また、1度しか制度を利用できない。
一方、デジタルノマドビザで来日した外国人を日本企業が雇用することはできず、それだけでなく、外国企業の仕事をリモートワークで行う場合も、その内容が日本でしかできない仕事の場合は該当しない。ワーキングホリデー制度と違って年齢制限はなく、期間の延長はできないが何度でも申請できる。
デジタルノマドビザの影響やチャンスは?
前述のとおり、デジタルノマドビザで来日した外国人を日本企業が雇用することはできないので、人手不足の業界や高度な知識を求める業界に恩恵がある制度ではない。恩恵があるとすれば、滞在時の生活や消費に関わる、観光、旅客、宿泊、飲食、小売などのサービスだ。
こうしたサービスへの恩恵は、単なる訪日観光客向けサービスの延長のように感じるかもしれないが、新たなニーズが生まれる可能性もある。それは観光の時間だけでなく仕事の時間が増えることで生まれる。こうした海外のデジタルノマドは滞在するホテルでのみ仕事をするわけではないだろうし、インバウン丼の店では仕事をしないだろう。
日本人のノマドワーカーが仕事をする場所としては、カフェやコワーキングスペースが挙げられるが、こうした場所で海外の顧客の積極的な受け入れが可能な場所はどれだけあるだろうか。訪日観光客による実際の調べ方とは異なるかもしれないが、都内で外国語対応が可能なカフェなどを調べると、国際交流が目的の英会話カフェなどが検索結果に多く表示される。
もちろん、英語など外国語対応を可能と表記し、サイト自体も外国語に対応した店舗も見つかるが、今後、デジタルノマドが増加した場合、こうした外国語対応が求められる、あるいはチャンスにつながる場面も多いかもしれない。
仕事の空間だけでなく、日用品の購入なども単なる観光客とは異なるかもしれない。長い滞在期間には宿泊場所もホテルだけは飽きてしまうかもしれないし、子供を帯同したならば、保育や育児支援、学習や、その他子ども向けのサービスのニーズもあるかもしれない。
日本企業は海外のデジタルノマドを雇用できず、デジタルノマドも日本でなければできない仕事は認められないので直接的なビジネス機会を生み出すことは難しいが、交流会のようなイベントにはチャンスがあるかもしれない。
ビジネストラベルの一形態であるMICE(マイス)のようなイベントも、母国から団体で誘致するようなものはデジタルノマドと馴染まないだろうが、既に来日しているデジタルノマドが立ち寄るイベントには可能性がありそうだ。
いずれにせよ、これまでの訪日観光客とは異なるニーズを持った可能性のある外国人が増えることは間違いない。他人事と思わず、生活インフラはもちろん、さまざまな産業・サービスの場面で、変化を見据える必要があるだろう。
寄稿者 中島康恵(なかじま・やすよし)㈱シニアジョブ代表取締役