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ユニバーサルツーリズムあ~だこ~だ vol.11「皆さんの地域はいかがでしょうか?」

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 6月8日(土)、静岡市で開催された「ユニバーサルツーリズム推進シンポジウムin静岡」に参加しました。

 シンポジウムは、「日本ユニバーサルツーリズム推進ネットワーク」(親川修代表)の年次総会に合わせて開催。会場には加盟する地域組織の代表をはじめ、静岡県庁、静岡市役所、県内の福祉事業者や旅行会社、福祉用具販売、個人など計96名の参加がありました。

日本ユニバーサルツーリズム推進ネットワーク〉

http://jutn.net/

 シンポジウムを主催されたのは総会の開催地となった静岡で活動するNPO法人静岡ユニバーサルツーリズムセンター(長橋正己代表)です。

〈静岡ユニバーサルツーリズムセンター〉

https://shizuokautc.org/index.html

 親川さんのあいさつで印象的だったのは「私は本籍は福祉、現住所が観光なんです」という言葉です。

 加盟する全国の地域組織の多くは何らかの福祉事業に携わっていて、その知見を観光に活かすことで高齢者、障がい者、乳幼児連れなど、誰もが楽しめる旅行の受け入れサポートにつながっているということでしょう。実際に親川さんは沖縄県のユニバーサルツーリズム推進事業に長年尽力されています。

 特に超高齢社会の日本においては、観光と福祉が連動していることは重要であり、他地域から高齢者や障がい者が観光で訪れ楽しめる地域は、当然地元の高齢者、障がい者も過ごしやすい地域となっているはずです。 10年ほど前、旅行会社に勤務していたころですが、某県庁を訪問し観光課の方にユニバーサルツーリズムの提案書をお渡しすると「ユニバーサル? これは福祉課じゃないの」、福祉課に行ってお話すると「ツーリズム? 観光課のことでしょ」というやり取りが実際にあったことを思い出しました。あれから10年、皆さんの地域、自治体はいかがでしょうか?

 その後、17の地域の代表がそれぞれの取り組みを数分ずつ紹介しました。長年取り組まれている地域による発表もありましたが、昨年4月に県として全国で初めてユニバーサルツーリズム推進条例を施行した兵庫県からは県内5地域のほか、開設準備に入った淡路島からも参加されました。そのお隣の岡山からは「TEAM COLOR」の若者3名が「岡山には旅行にバリアはないんじゃ県!」と力強く語り、千葉からは「ユニバーサル・アクセス・デザイニング千葉」がビーチを使ってライブやマルシェ、焚火などさまざまなシーンで誰もが参加できる観光イベントを開催していることを紹介するなど、全国での広がりや取り組みを再認識できました。

 皆さんの地域、観光地ではどうでしょうか?

〈TEAM COLOR〉

https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/897910_8561517_misc.pdf

〈ユニバーサル・アクセス・デザイニング千葉〉

http://universalaccess.web.fc2.com/

 後半のミニセミナーでは、櫛田美知子さん((一社)Smile Again代表理事)が30代のころに階段事故で車椅子生活となったが、車椅子でも行ける旅の楽しさを知り、その後車椅子で地球十周分の海外旅行をされたという驚きのエピソードを語られました。

〈(一社)Smile Again〉

https://www.smile-again.or.jp

 世界各地のバリアフリー事情や、現地の方々との触れ合いを写真で紹介されましたが、ハード面の話もですが、なにより写真に写る航空会社のスタッフ、通訳、ガイドの皆さんの笑顔が良かったです。高齢者、障がい者の旅行を受け入れると、一般の観光客と比べて会話をする機会が多くなり顧客接点が増えます。観光業に携わる人たちの中には、お客さんと話すことが好きでお世話好きな人が多いので一緒にいる時間が長く「楽しかった」「また来るね」を聞くと笑顔になるのでしょうね。「夢」「希望」「自信」が持てる車椅子生活を! という話から、旅は十分そのきっかけを作れると改めて感じました。

 2人目は、中村正善さん(㈱JINRIKI代表取締役社長)が、車椅子けん引装置JINRIKIの活用で観光地のバリアをパス(乗り越える)「バリアパス」という話をされました。

〈(株)JINRIKI〉

https://www.jinriki.asia/

 車椅子がなぜ悪路や段差を苦手とするのか? 景勝地などの観光地にはバリアは付き物でそのバリアが観光資源、そして車椅子の機能の解説からその不自由を解消すれば自然を破壊せず、低予算でもバリアフリー対応が可能という逆転の発想は観光地にとっては目からウロコの解説だと思います。1月の能登地震のことにも触れられ、観光だけではなく震災時の避難や、避難後の水などの運搬にも活用できる事例を紹介されました。

 3人目の私からは、全国からユニバーサルツーリズム推進に取組まれている方々が集っているということもあり、「ハツ」(発地型ツアー・送客)から「チャク」(着地型ツアー・誘客)へという話をしました。観光庁のサイトで公開されている「アフターコロナ時代における地域活性化と観光産業に関する検討会」の最終とりまとめを引用し送客型から誘客型へのシフトが必要で、人口減少・少子高齢化時代における新たな旅行市場の開拓の中でユニバーサルツーリズム(高齢者、障がい者、乳幼児連れ等)も重要という内容です。

 日本が誇る観光資源「温泉」の入浴介助サービスや既存の「祭り」、すでに観光協会等で販売している「現地参加ツアー」などをユニバーサルツーリズム視点で見つめ直して、少しの工夫やJINRIKIのような福祉用具の活用、人的サポートを加えると付加価値の高い「チャク」になるという事例を紹介しました。

 約4時間にわたるシンポジウムでしたが多くの取り組み事例の紹介があり、そこに集った方々にとっては新たな発見やご縁が広がったことでしょう。最後に来年の開催地が兵庫県姫路市ということが発表されました。姫路城でのユニバーサルツーリズム対応などを情報発信されている姫路ユニバーサルツーリズムセンターが担当されます。

 〈姫路ユニバーサルツーリズムセンター〉

https://himeji-ut.com/

 ユニバーサルツーリズムの推進に取り組むセンター機能がある自治体では、センターと自治体、センターと観光事業者(旅行、宿泊、交通、飲食)との連携が生まれ、高齢者も障がい者も誰もが楽しめる観光地づくりが加速しています。

 最後に、改めて皆さんの地域、自治体はいかがでしょうか?

寄稿者 渕山知弘(ふちやま・ともひろ)ユニバーサルツーリズム・アドバイザー / オフィス・フチ代表

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