観光地域づくり法人として登録された、一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会が、天王洲アイルの観光を推進する地域DMOとしてどのように活動していくのか。そのプロセスやミッションについて、第3回の連載になります。前回は、天王洲キャナルフェスの誕生から非日常空間の演出により、来場者2万人以上となった過程とイベントによる一過性のにぎわい創出による成果について検証致しました。今回は、天王洲アイルが日常的な地域の魅力を創出するための具体的な施策とそのプロセスについて紹介します。
複合型都市「天王洲アイル」変貌
天王洲アイルは、「働く・住む・遊ぶ」を織り込んだ複合型都市となっています。1985年、日本最大規模(22ha)の都市再開発として、「人間の知性と創造性に働きかける環境づくり」をコンセプトに設計されました。まちづくりスローガンは、「アートになる島、ハートのある街」として、まちのなかに数々のアート作品が、設置されました。また、四方を運河で囲まれた島になっており、緑豊かな美しい運河沿いの景観は、まちの魅力になっています。
東京湾岸の複合型都市の先駆けである天王洲アイルは、オフィス、居住、レストラン、劇場、東京の夜景が一望できるホテルも備え、東京湾岸のトレンディスポットとして、多くの来街者が訪れていました。しかし、他の地域に新しい複合型都市が開発されるとともに、まちの魅力は陳腐化して来街者の数は減少しました。働くまちの機能は維持できたものの、楽しむまちのにぎわいは失われたのです。オフィス街の殺伐した環境は、運河沿い美しい水辺の空間にも人がいないさみしい場所に変貌しました。
日常的ににぎわうまちの仕掛け
2015年、かつての天王洲アイルのにぎわいを取り戻したいと有志が集まり、天王洲キャナルサイド活性化協会を設立しました。協会は、イベントによるまちのにぎわい創出を「天王洲キャナルフェス」で、日常的なまちの魅力づくりは、「アートによる活性化」で活動しました。イベントによるにぎわいは、開催中だけになりますが、アートによる活性化は、日常的に作品を鑑賞できます。イベントでの天王洲への来街をきっかけに、天王洲アイルに興味を持ってもらい、アート作品をゆっくり鑑賞するリピーターにより、日常的な来街者の増加を仕掛けました。
日常的な景色を鑑賞スポットへ
天王洲アイルには、開発当初からまちの中に多くのアート作品が点在していましたが、そのアート作品は、日常的な景色として存在を潜めていました。ほとんどのアート作品は認識できますが、言われなければ気が付かない程度になっていました。新たにインパクトのあるアート作品を作れば、埋もれたアート作品も復活できる「まち全体がミュージアムのような天王洲アイル」にするために大きな壁画を描きました。そして、まちのなかに点在するアート作品をフォーカスさせるために2019年、天王洲アートフェスティバルが開催されました。アートフェスティバルにより、天王洲アートマップが作成され、まちのなかのアート作品やアートスポットが掲載されました。巨大壁画で来街者の増加を目論み、アートマップで作品を紹介することで、まちのあちらこちらに回遊させる仕掛けを作りました。
屋外アートを巡るツアー造成
アートフェスティバルを機に、アートを巡るツアーを造成しました。ツアー内容を充実させるために、アプリによるガイドやアバターによる音声ガイドも開発しています。さらに、点在するアート作品を巡る手段を徒歩でなく、電動車いすや電動キックボードを利用することにより、楽しみながら作品を巡る要素も取り入れ、魅力的なツアーに仕上げました。モビリティーを活用することにより、ツアー料金は、1500円から3000円に改定しました。また、ツアーの所用時間を90分程度から60分程度に短縮できました。所用時間の短縮により、回転率を上げられることも大きなメリットになりました。
「水辺とアート」による観光まちづくりに挑戦
現在、天王洲アートマップには、39カ所(屋外アート作品やアート施設等)の掲載があります。天王洲アイルは、東京のなかでもアートが集積されている場所に位置付けられています。アートコンテンツは、柱となる観光資源です。当協会は、「水辺とアートの街」として都市型観光拠点を目指した観光まちづくりに挑戦しています。アートに親しみ、緑豊かな美しい運河沿いのボードウォークを散策するなど、アートと水辺の親和性を高めながら消費を促す仕掛けづくりが、DMOとしての使命と考えています。
アートで大型展示会を呼び込む
天王洲アイルは、アートの集積地として認知されるようになりました。巨大な壁画は、地域の合意形成や法的な許認可を得て描かれており、アートに興味のある方は、一度は、天王洲に訪れたことがあるかと思いますが、さらに、多くの方を天王洲に誘致するには、もっと大きな仕掛けが必要になります。
2021年、天王洲アイルでバンクシー展が開催され、多くの方が天王洲に訪れました。屋外アートが点在する天王洲アイルとバンクシー作品の融和性が評価され開催に至っています。また、2022年には、「鈴木敏夫とジブリ展」が開催されました。ジブリ展は、2023年も開催され、今年も開催されています。水辺景観とアートの香りを漂う天王洲アイルは、その他も多くの大型の展示会が開催されております。その効果により、駅の乗降者数の増加をはじめ、まち全体の消費額増加を促しています。
滞在時間の延長と地域の発展
天王洲アイルで開催されているこのような大型展示会には、多くの方が訪れますが、たいていの方は、展示会を鑑賞した後、飲食をして街を出てしまいます。天王洲の滞在時間は、3時間程度です。アート鑑賞や水辺の散策など、せっかく天王洲に来たのだから一日滞在してほしいと思います。DMOである当協会は、その仕掛けを模索していかなくてはなりません。
次回は、天王洲アイルの滞在時間を増やす具体的な施策とその実証実験について詳しく紹介します。回遊性を高めるその仕掛けと朝活にフォーカスした取り組みを通じて、天王洲アイルの潜在的な観光資源の磨き上げにより、魅力的な観光地として成長していくことを期待しています。
寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 理事長