早いものでもう7月。宿泊施設にとってはハイシーズン、忙しい夏がやってきます。そして、やはり、夏前にオープンしたいと工事を進めることが多いです。そのため、私も完成確認で忙しく飛び回っています。
まるで魔法をかけたかのように、ロビーやダイニング、大浴場、そして、客室が美しくなっていく様子は毎回感動いたします。
しかし、今からはコロナ禍による高付加価値補助金や事業再構築補助金などによる改装もようやく落ち着き出すのではないでしょうか。それは、補助率が下がり、自己負担が増えるためと言えます。その結果、採択されたものの、施工はしないという施設もあるようです。
変化していることが魅力
大きな投資はしなくても、少額で結果が見えやすい「軽微な改装」や「備品交換」でも宿の魅力は作れます。新しいアンテナを張って時代をとらえ、常に何かしら変化し、それをうまく発信できると集客につながります。<なんだか、おしゃれ><古いのに新しい>といった個々の感性による部分はもちろん、<香りが良い><こだわりのドリンク>など、備品でもお客様のニーズに当てはまれば、滞在後の評価につながります。
私達<AO STYLE>は建築デザイン、インテリアコーディネートが中心ではあります。しかし、トータルで空間を演出するという意味で施設のさまざまな分野の悩みを相談いただき、その提案を行っています。
では、今年のご依頼事例を簡単に紹介していきましょう。
例えば、スタッフウェア
以前からオリジナルのものを含め作ってきました。そして、今年はすでに5施設のスタッフウェアの選定をご依頼いただいています。改装に伴って、「イメージを一新したい」、館内がだんだんとモダンになってきて「着物では合わない気がする」、「ブランディングの一環」など理由はさまざまです。しかし、やはりスタッフは空間の一部でもあり、お客様に見られているという意識のあるクライアントは、このことに気付かれます。
もちろん、スタッフの働きやすさや愉しいウェアを着ることでモチベーションがあがるのは大切です。
例えば、ネーミング
施設の名称をご依頼されることも多くあります。こちらも改装後のタイミングが多いです。しかし、改装などしていない既存の客室などには効果的です。もし、番号のみで名称が無い場合はつけることをおすすめしています。
お客様が旅に求めるもの、宿にも求めるもの、日常にはない情緒や刺激は<101号室>よりは<101 ○○>です。物語が見えてくる客室名を決めたら、キーホルダーや客室サインも一新してはいかがでしょう?
通路のクロス張替えのような軽微な改装と一緒に行うと見違えるように良くなります。
ブランディングで違う宿に
今年は昨年から進めていたブランディングの一環として、宿の施設名を全く変える仕事もありました。近隣の競合施設と比較し、施設の強みを整理すると「今の名称やコンセプトは弱い印象ではないだろうか?」と思い、会食の際にお話しさせていただいたところ、ご依頼いただくことになった次第です。
お客様のクチコミの分析、そして、現場に立ちお客様と実際に接するスタッフの考えを聞いていきます。そして、まず、どんなところにお客様が満足していらっしゃるのかを分析しコンセプトをまとめていきます。
地域性も考慮し、名称の決定、ロゴの決定と6月より新名称で営業していらっしゃいます。看板などは、旧名称のまま。こちらは、徐々に変更していくの予定です。しかし、OTA含むネットでの集客の場合、大きく困ることはありません。
接客マニュアルにも関わらせていただき、新しい仕事の巾が広がりました。
施設ロゴの変更で新しい印象に
名称はそのままで、施設のロゴを変更するのもおすすめです。
すべてをガラリと変えてしまわなくても、例えば、筆文字で書かれている施設名はそのまま。そして、英語表記を追加したり、ロゴマークを一新してバランスをとるだけでも新しい印象になります。
こちらもコンセプトがはっきりしていれば、2週間ほどあれば完成します。施設のファサードに新しいロゴのサインをつけるだけでも見違えるように変わります。
備品の見直し
さて、宿にとってもお客様のクチコミはとても大切なものです。いつも高評価の施設から<客室が古いと書かれ「1」をつけられました>と連絡を頂きました。確認すると、悪くはないけれど、なんとなく時代を感じさせる備品がちらほら・・・。
これらを見直すことを提案して進めているところです。改装時に揃えた備品でも10年経つと品質も含め、見た目のデザインが気になることも少なくありません。そのためには、定期的な見直しが必要かもしれません。
同じく、数軒の宿を経営されている施設からのご依頼は客室家具の見直しです。広縁や和室、リビングと、新しい家具の部屋とそうでない部屋のリストを作ります。それを整理し、既存の部屋の広さや色をみながら選定していく作業です。バラバラに変えてきたためにまとまりがないことが大きな理由と言えます。
古いという印象を与える最大要因は・・・
お食事は、食事処でとる施設が増えています。しかし、大きな「座卓」とスタッキング重視の「座椅子」が鎮座する和室は「部屋食」時代のまま。その結果、どの部屋も写真で見る限り同じに見えてしまい、実際の使い勝手も良くはありません。
箱が良く家具に魅力が無い。逆に箱が普通でも家具で魅せる客室。どちらも正解とは言えませんが、後者の方がコストはかかりません。
毎日、館内にいると気付かなかったり、わかっていてもできないことが現実です。そして、気付いた時には、大きく時代に遅れてしまった。などということがないように、小さな変化を心がけていきたいものです。
(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=25
(すみやのHPは、こちらです) https://www.sumiya-villa.com/
寄稿者 住百合子(すみ・ゆりこ) AO STYLE インテリアデザイナー・コーディネーター