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砂に埋もれた古代エジプトのファラオの夢を追う 世界最大の巨大遺跡観光、カイロ郊外のピラミッドからルクソールを経てアブシンベルへ

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 エジプト古代遺跡観光が脚光を浴びている。政情安定化とエジプト通貨の大幅切り下げによって、外国人旅行者が行きやすい観光地になったうえ、エジプト政府による外国人誘致策が功を奏している。エジプト巨大遺跡観光のチャンスがやって来た。

 カイロ近郊、砂漠に聳えたつ137㍍のピラミッド

 古代の王であるファラオの夢の大きさの象徴、エジプト巨大遺跡観光の起点は北アフリカ最大の都市である首都カイロ。カイロの郊外、ギザの砂漠に聳えたつのが巨大遺跡、ピラミッドだ。重さ2.5㌧の石を高さ137㍍まで積み上げて建設された、底辺230㍍の大円錐四角形。ファラオの大墳墓である。今から4500年前、王朝の永遠の繁栄を誓い、自己の永遠の権力を誇示するエジプト古王国第4王朝のファラオ、クフ王の強い意志の現れであった。「来た!見た!分かった!」 どの旅行者にもインプレッシブな体験は生涯忘れることがないだろう。

ギザの三大ピラミッド。中央がカフラー王、左後方がクフ王、右に離れてメンカフラー王のピラミッドが鎮座

 ひときわ巨大なクフ王のピラミッドのほか、ギザの砂漠には、同じく古王国第4王朝のファラオ、カフラー王、メンカウラー王を始め、ギザの近郊まで足を運ぶと、エジプト王国黎明期の初期のピラミッドや当時の大帆船などが見られる。

 遷都テーベに残るファラオの夢の跡

 古代エジプトでナイル川中流のテーベ(現ルクソール)に誕生した新王国(第18王朝から19王朝)時代は、強いファラオの力によってエジプトが最盛期を迎えた時だった。カルナック神殿の中央に延べ138本の巨大な列柱室を建造したのは、第18王朝第6代、アメンホテプ3世だった。                アメンホテプ3世より先に王位に就いた第5代ファラオ、ハトシェプスト女王は、ナイル川の西岸に巨大なハトシェプスト女王葬祭殿を築いた。ファラオの中でも第19王朝3代の王、ラムセス2世は海外遠征に勝利して凱旋すると、全土に向けて王権を誇示するとともに、巨大な神殿、葬祭殿をナイル河岸に次々に建設し、その勢力はスーダン国境アブシンベルまで及んだ。

 カルナック神殿の第一塔門。奥に大列柱室がある 

 ここへの旅程としては、カイロからアスワンまで航空機で移動し、航空機を乗り換えて、一気にスーダン国境のアブシンベルまで飛ぶ。ラムセム2世の渾身の建造物アブシンベル神殿、小神殿を観光し、再びアスワンに戻る。アスワンでアブシンベル神殿と同様に、アスワン・ハイ・ダム建設による水没を免れたイシス神殿や、完成すればエジプト最大のオベリスクだった「切りかけのオベリスク」などを観て、アスワンからルクソールまでは船旅に出る。ルクソール観光を経て旅の起点カイロまで航空機で飛ぶ。グランド・ツアーならではの弾丸観光となる。 

 巨大な坐像4体に圧倒されるアブシンベル神殿

 アスワンを飛び立ったエジプト航空機は20分もすると降下を始め、ナイル左岸の巨大石造群を眼下に捉える。アブシンベル大神殿と小神殿である。エジプト新王国の偉大なファラオ、ラムセス2世が渾身を込めて創造した大神殿は、ファラオ自身の巨大な坐像4体をファッサードに並べ、己を誇示する。小神殿はラムセス2世の愛妃ネタフェルタリに捧げた神殿。ネタフェルタリの立像が正面に立ち、見る者を圧倒する。

ラムセス二世の座像(高さ33㍍)。4体を前面に、高さ38㍍のアブシンベル神殿の岩窟正面

 アガサ・クリスティも描いたナイル川クルーズ

 アスワンからナイル中流域最大の都市ルクソールまでは、クルーズ船に乗ってナイル下りの旅が楽しめる。古代エジプト時代から近代に至るまでナイル川奥地への唯一の交通手段だった舟運は、現在も健在である。アガサ・クリスティの小説にも描かれた洋上ホテルにも喩えられる豪華客船が何十隻も就航。

クルーズ船の望むはるかなナイルの大河の流れと両岸には肥沃な大地が広がる

 乗船したのは、ソネスタ・セントジョージ1号という24平方㍍セミ・スイートの船室が20室の新鋭船。鬱蒼と茂る椰子の樹蔭に水牛が見え隠れするナイルの両岸は、時が止まったように静かだ。椰子の樹上に真っ赤な太陽がゆっくりと沈んでいく。森も川面も辺り一面が黄褐色に染まる。

 船上では、連夜のディナー・パーティーと現地の民族衣装を着て踊るガラベーヤ・パーティが催され、時の経つのを忘れる。ルクソールまでの船旅の途中、クルーズ船はコム・オンボとエドフに停泊し、神殿遺跡まで陸路を辿り、巨大遺跡観光を積み重ねる。

 2泊3日の船旅の終着地がルクソール。かつてテーベと呼ばれたエジプト新王国時代の王都に到着する。

国家行事の舞台となったルクソール神殿とカルナック神殿

 ルクソールの見どころは、市街があるナイル東岸の2つの大神殿、ルクソールとカルナック。歴代ファラオがルクソールの東岸に建設し続けたカルナック神殿は、国家最高神アメン神を奉り、歴代のファラオの戴冠式を始め国家行事が頻繁に行われた。

ナイル西岸の巨大なハトシェプスト女王の葬祭殿

 国家の繁栄と永遠の王権を信じた歴代ファラオは、黄金、赤、青、緑の極彩色で彩られた巨大神殿で国家的神祭事に明け暮れる日々に満ち足りたことだろう。来世にも王たることを祈ったファラオは、ルクソール対岸(西岸)の王家の谷に巨大な地下墳墓を建設した。1922年に完全な形で発見されたツタンカーメン王(第18王朝第12代の若きファラオ)の墳墓もナイル西岸の「王家の谷」にあり、玄室の色華やかな装飾壁画に魅了される。

 ツタンカーメン王の黄金のマスク。(カイロ美術館蔵)。
 

 ファラオが生きた時代と現代の間には、気の遠くなるほど長い時間が存在する。その時間の経過は、多くのものを破壊に導き、朽ち果てさせてしまった。しかし、ナイル河口からスーダン国境までエジプト全土に渡って、私たちの前に立ちはだかる墳墓、大神殿、葬祭殿は、その巨大さのために破壊と埋没を免れ、砂中の長い眠りから覚め、現代に蘇ったものだ。エジプト巨大遺跡観光が復活した。

(2010年の現地取材及び2024年も現地情報に基ずく)

寄稿者 旅行作家 山田恒一郎 (やまだ・こういちろう)

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