関東運輸局は7月7日、めぐる、あるく、つながるをテーマに江戸文化の再発見を促す「江戸街道プロジェクトデュース 街道観光シンポジウム」を東京都中央区のリクルートGINZA8ビルで開いた。ハイブリッドで開催され、会場には自治体や地域の観光関係者など約100人、オンラインで約150人が参加。基調講演や街道観光振興に向けたパネルティスカッションなどが行われた。勝山潔関東運輸局長は「インバウンドが急速に戻るなど、観光の回復は着実に進んでいる。観光立国の復活に向けて稼ぐ観光の起爆剤として江戸街道観光を推進していく」と話した。パネルディスカッションでは、コーディネーターを務めた日本観光協会総合研究所の丁野朗顧問は、「街道をつなぐ宿泊地や料理といった素材をどう用意していくか。事業化を図るためにも宿場町や街道をつなぐ物語を描いてほしい」と呼び掛けた。
1都10県を五街道で結び、街道観光で誘客を推進する「江戸街道プロジェクト」
江戸街道プロジェクトは、日本橋を起点とする五街道と、その枝道として整備された水戸街道や成田街道等の脇往還(以降、五街道と脇往還を合わせて「江戸街道」)について、広域関東エリアを網羅しながら、江戸街道沿いにある歴史的な観光資源や、食や文化など豊富なコンテンツを生かして実施するもの。
現在「Tokyo & Around Tokyo」として展開している広域関東を「江戸街道」という統一テーマにより、さらにブランディングし、効果的に国内及び海外へ発信ながら誘客の促進するほか、各地域の街道観光の啓発、機運の醸成を通じて、コロナ禍で疲弊した広域関東に元気を取り戻す。
現在は、広域関東として地域の特性を活かしながら、DMOなどが地域で江戸街道プロジェクトを活用した稼げる仕組み作りを行っている。
対象エリアは、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県の1都10県。
勝山局長「2024年までに効果的な施策に。江戸街道観光を起爆剤に推進」
街道観光シンポジウムでは冒頭、勝山潔関東運輸局長があいさつした。
「新型コロナウイルス感染症は、5月8日には、2類から5類に移行となった。これからは、インバウンドを始めとした観光需要が本格化に回復する時期が訪れた。直近である2023年5月の訪日外国人来訪者数は190万人となり、2019年比で7割となるなど、こちらは着実に回復している。
政府では、3月31日には観光立国推進基本計画が3月31日には推進計画が閣議計画され、2025年に向けて持続可能な可能な地域づくりやインバウンドの拡大、国内誘客に取り組む。関東運輸局も同計画を踏まえて、観光立国の復活に向けて持続可能な形に向けて稼ぐ観光の支援・拡大をしていく。
江戸街道プロジェクトは、コロナ禍で疲弊した地域に元気を与えるものとして、関東広域観光全体に街道観光を推進するとともに、機運の醸成につながるもの。
2024年度までに効果的な施策とするため、2023年4月21日には江戸街道プロジェクト推進ビジョン2023およびロゴマークを発表した。推進ビジョンでは、観光関係団体による積極的な取り組みを促す取り組みや目指す姿などを取りまとめている。ロゴは、一体感を表すシンボルとして、地域で使えるツールとなっている。
現代に受け継がれる江戸時代の再発見をプロジェクトを通じて促していきたい」
推進ビジョン設け、プロモーションツール集約、プラットフォーム構築など展開
街道観光プロジェクトでは、関東運輸局観光部の堤孝調査官が「江戸街道プロジェクト推進ビジョン2023」について説明した。
基本方針は、観光関連団体等による「街道を活かした積極的な取り組み」の促進を掲げ、広域関東観光のポテンシャルとして、①歴史・文化、地域資源等のコンテンツが豊富②鉄道・バス・高速道路ネットワーク③成田・羽田の国際空港-を挙げた。
プロジェクトの推進で目指すべき姿に向けて、観光コンテンツや街道プロモーションツールの集約、街道観光の情報発信を一元化するプラットフォームの構築などに取り組む。
このほか、2023年6月に「江戸プロジェクト アドバイザリー会議」(顧問は谷口博昭建設業技術者センター理事長、委員11人)を設置したことなどが紹介された。
今後は、アプリを活用した街道観光への誘客・周遊促進に関する実証事業や、実践オンラインセミナー、専門家マッチング事業などが行われる。
これまでに育まれた歴史・文化を訪日客に向けて活用を
シンポジウムでは基調講演として、時代村事業戦略室の佐藤達雄室長が「錦絵(浮世絵)にみる江戸時代と江戸料理」、日本インバウンド連合会の中村好明理事長が「宿場町のアルベルゴ・ディフーゾ化戦略~地域連携とインバウンド集客の進め方を中心に~」をテーマに、江戸からつながる食や宿場町を活かした取り組みの必要性や本気のよそ者を受け入れる勇気、グーグルマップへの登録など訪日客に伝わる努力と工夫などインバウンド対策といった新たな誘客手法を説いた。
パネルディスカッション:宿場町間をつなぐ宿泊地や料理をどう用意するか
パネルディスカッションでは、「江戸料理と宿場町の活用による街道観光振興に向けて」をテーマに開催し、今後の観光振興に向けてのヒントを伝えた。
コーディネーターを務めた丁野氏は「食だけでなく、川など自然なども一つのセットとして考えなければならない。どう事業化していくかを考えることは急務だ。宿場は中心市街地であり、昔から住む人が多くいる。火をつけるのは非常に難しい。古い宿場町には何度も入ってきたが、どうクリアするかは考えていかなければならない」と語った。
パネリストの意見は次の通り。
跡見学園女子大学の山崎まゆみ兼任講師は「温泉は、ただの湯巡りが街道巡りではない。昔は不便から生まれる知恵、技術があったが、今は便利で知恵が生まれなくなっている。江戸時代は温泉文化が花開いたが、昭和時代には宴会をする遊興の時代となった。宴会会場に温泉があったと言える。温泉街道というのは江戸時代にどう温泉に入り、それをどう現代にオマージュするかだ。温泉街道はインバウンド、欧米の方は解説、背景に価値が有りお金を払う。日本人は説明下手だが、リサーチをしながら自分たちの温泉を理解し、良さをしっかり説明してもらいたい」
リクルート地域創造部の高橋佑司部長「つながる視点が必要。通ってきたルートを魅力的にするにはテーマが必要。自分の地域に何があるか。地域が連携して食や魅力をどう作っていくか。自分の地域にどんな歴史的な背景があるかを突き詰めて形にしてもらいたい。また皆で情報共有することが次の地域への移動、自身の地域への誘客につながる」
時代村の佐藤室長「地域でグルメを確立すること。栃木県なら餃子、富士宮市はやきそばなど。地域にこういうものがあれば食べに行こうとなる。観光地に行って食事を食べるということ、料理を確立すること。街道沿いでなくても良い。近くにいどうするにはどうするかを考えなければならない。インバウンドは電車で移動する。荷物をどう運び、宿場町間をどう歩かせるかを考えれば答えがでてくるはずだ。各街道では、間違いなく名産が有り残っている。江戸時代当時の料理として仕立てていくことも魅力になる」
日本インバウンド連合会の中村理事長「関東は日本の特殊な地域。江戸は全世界でトップクラスの都会であり、巨大な城下町、宿場町、門前町であった。一方、関東は東京の近郊という視点、これまでは東京の人を迎え入れる場所であったが、近距離であり宿泊場所も少ない地域だった。インバウンド旺盛の時代には、一つの町、宿場町に一つの宿を作ることがポイントになる。徳川家康公にならい宿泊贅を5年間免除するなどチャレンジャーを誘致、公募なども試してみてほしい。関東中に世界から訪れる人が各地域に泊まれる仕組みがあるとにぎわうはずだ。また、成功する町には、よそもの、わかもの(若者)ばかもの(イノベーティブな人)の3つだけでなく、きれもの(専門家)、ほんもの(江戸っ子など地域に根付いている地域固有の文化を持っている人)も必要になる」
関東運輸局の岡村清二観光部長「江戸街道プロジェクトは、地域の方々に協働して作ってもらうことが目的だ。特に江戸料理は、徳川家康が入ってから作られたものであり、この素材は最大限活用できる。江戸街道プロジェクトは地域が人口減少で元気がなくなり、空き家も増えている。アルベルゴ・ディフーゾなど手法を使いながら地域を元気にしていきたい。今後は事業でマッチング事業を行う。地域の取り組みなどの課題を有識者の力を借りながら支援していく。運輸局にもいろいろな意見を寄せてほしいし、それに精一杯応えたい」
取材 TMS編集部 長木 利通