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観光地域づくり法人(DMO)と天王洲アイル#8 ~まちのにぎわいスポット創出の施策~

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 観光地域づくり法人として登録された一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会が、天王洲アイルの観光を推進する地域DMOとしてどのように活動していくのか。そのプロセスやミッションについて、第8回目の連載になります。前回は、アバターによるガイドシステムと電動モビリティを利用して、アート鑑賞と移動を組み合わせた新しいアートツアーを組成することにより、持続可能で高付加価値な観光商品が創出されたことを書きました。今回は、天王洲アイルのにぎわいスポットを創出するためにどのような施策が展開されたのか述べたいと思います。

京浜運河から眺める天王洲アイルの風景

天王洲アイルの活性化とにぎわい創出

 2012年、天王洲アイルを昔のようににぎやかなまちにしたいと思う有志が集まり、意見交換会が行われました。当時の商業スペースは、平日のオフィスワーカーのランチをまかなうミッションを担い、夜間や休日は、閉店する店舗もありました。そこで、いつでもにぎやかなまちにするために、にぎわいスポットを3つに分けて創出することを検討しました。

①水辺の環境を活用してにぎわいスポットを創る

②夜間も魅力あるにぎわいスポットを創る

③休日も魅力あるにぎわいスポットを創る

天王洲運河ボードウォーク(天王洲キャナルフェスの様子)
天王洲運河ボードウォーク(天王洲キャナルフェスの様子)

水辺の環境を活用してにぎわいスポットを創る

 2012年当時、天王洲運河や京浜運河の水辺は、ボードウォークが整備されているものの人が集う場所でなく、ビルの裏手となり静かな場所でした。特に夜間は、人通りの少ないさみしい場所でした。ボードウォークといえば、人のにぎわう素敵な場所を思い浮かべますが、実際は、冬は寒く、夏は暑い、春や秋でも雨や風が強い日は、とても厳しい環境です。心地よいと思える日は、年間で90日程度です。

 われわれは、暑い日、寒い日、雨の日、風の日、どのような天候でも水辺の環境を素晴らしいと思ってもらえることが必要だと思いました。天王洲キャナルフェスなどの屋外イベントを季節ごとに開催することで、来場者や運営者が、水辺の心地よい環境を尊ぶことを学び、また、悪天候のなかでもイベントに参加することで、環境の厳しさを体験できると考えました。イベントの開催を重ねることで、次回のイベントが素晴らしい天候になることを願います。そして、来場者が、水辺のさまざまな環境を認識することで、日常的な水辺のにぎわいが生まれることを望みました。

 天王洲キャナルフェスは、2016年から季節ごとに開催され、来春で30回目となります。開催日の晴天率は30%程度で、台風に見舞われフェス会期中に中止したこともありました。昨今では、天候に左右されず、ある程度の集客を見込めるようになりました。水辺の素晴らしさを知った来場者は、コンディションの悪い日も水辺の醍醐味と楽しめるようになったと思います。

天王洲運河のプロジェクションマッピング(キャナルアートモーメント品川 2021)
天王洲運河のプロジェクションマッピング(キャナルアートモーメント品川 2021)

夜間も魅力あるにぎわいスポットを創る

 夜の水辺は、真っ暗で物寂しい場所になりますが、ビルからの光が反射して水面がキラキラしていることに着目し、運河沿いのライトアップを促進するプロジェクトが立ち上がりました。実証実験として水辺の建物のライトアップをしてみると、ゆらぐ水面に光が反射し、とても美しい光景が生まれました。そして、本格的に運河沿いの建物や橋梁に、ライトアップを施し、水辺に幻想的な空間を創り出しました。水辺のボードウォークは夜間でも散歩やジョギングコース、デートスポットなど人が集う場所となりました。さらに、イベントで運河対岸の建物にプロジェクションマッピングを投影することにより、多く人でにぎわう特別な場所になりました。

アイルしながわ(しながわの賑わいを創造する品川区の施設)
アイルしながわ(しながわのにぎわいを創造する品川区の施設)

休日も魅力あるにぎわいスポットを創る

 10年ほど前まで、オフィスワーカーが少ない休日の天王洲アイルは、ゴーストタウンになっていました。しかし、天王洲アイルの周辺地域は、タワーマンションが建ち並ぶベッドタウンになっていきました。われわれは、近隣住民が集う場所や観光客などの来街者が訪れる場所をつくりたいと思い、まちのなかに、イベントスペースやカフェをつくり、ボードウォークには、ベンチやイス、テーブルを設置して日常的なにぎわいと憩いの場所をつくるように努めました。そして、天王洲アイルのコンセプトであるアートを促進する施策として、巨大な壁画の製作をはじめました。アートフェスティバルの開催など、働くまちに新たな魅力をつくることに力を注ぎ、商業イベントなどの誘致により来街者も大きく増加しました。

観光商品組成:天王洲アートツアー(左) 天王洲アートクルーズ(右)
観光商品組成:天王洲アートツアー(左) 、天王洲アートクルーズ

都市型観光都市へのコンバージョン

 平日はオフィスワーカーで賑わい、夜間はライトアップやプロジェクションマッピングを活用した景観形成による魅力創出、休日は住民の憩いの場やイベントを楽しむ来街者の増加により、天王洲アイルは大きな変化を遂げています。しかし、われわれが望むことは、国内外の観光客から選ばれる地になること。観光客は、限られた時間の中でどこへいくのか? 多くの選択肢から観光する場所を選びます。東京には魅力的な観光地が多く存在している中で訪れたい場所になるためには、単に見どころをつくるだけでなく、顧客動向を分析したうえで、複合的に価値を高めることが必要です。同時にPR活動も仕掛けていかなければなりません。

 まちの魅力を点でなく面でアピールすること、つまり、平日、夜間、休日の天王洲アイルの環境やまちの文化を統合し「オール天王洲」で魅力発信に取り組む必要があります。また近隣地域との連携を強くすることで持続可能な観光都市として成長することを目指します。

寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 理事長

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