江戸時代から明治時代の交易を担った北前船の寄港地が交流する「第35回北前船寄港地フォーラムin 加賀・福井」、“地域間交流拡大”を強力に推し進め、地域の活性化に向けた課題解決に取り組む「第6回地域連携研究所大会」の前夜祭が11月21日、石川県加賀市の山代温泉みやびの宿 加賀百万石で開かれた。自治体や企業で構成する北前船交流拡大機構と、兄弟法人である地域連携研究所が主催し、北前船寄港地フォーラムは石川県加賀市および福井県の2地域が会場となった。前夜祭には、全国から自治体や観光関係者、EU各国の大使館関係者ら約320人が出席。元日に発生した能登半島地震や9月に発生した能登半島豪雨の被災地への激励のほか、秋田県男鹿市の重要無形民俗文化財である男鹿のナマハゲと石川県輪島市や能登町に伝わるユネスコ無形文化遺産のアマメハギによる共演セレモニーや、山中温泉芸妓による「山中節」の披露などが行われた。参加者は、加賀市や能登のグルメなどを楽しみながら、北前船を通じて育まれた絆や、地域の歴史・伝統文化などを語り合いながら交流した。
北前船は、江戸時代から明治時代にかけて、大阪から下関を経て北海道に至る「西廻り」航路に従事した日本海側に船籍を持つ海運船。食文化や民謡、織物などの文化を運ぶなど、各地域の文化の形成に影響を与えた。会場となる加賀市には、北前船の船主や船頭、船乗りなどが多く居住するなど、かつては日本一の富豪村と呼ばれていた橋立がある。船主邸には、武家屋敷のような派手さはありませんが、いかにも海の男と思われるような美意識がそこそこに散りばめられている。フォーラムは、2007年から開かれている。
前夜祭の前には、釧路町産のサオマエコンブを使ったテープカット「コンブカット」が行われ、23人がハサミを入れた。昆布を用意した北海道釧路町の小松茂町長は「約20メートルの昆布を持ってきた。皆さんと長く喜び合いたい」と話した。
前夜祭の開会式の冒頭、北前船交流拡大機構の森健明理事長代行が「午後には、併催した日本遺産推進協議会記念大会in加賀が、文化庁の都倉俊一長官が出席のもと、滞りなく終えられた。多くの寄港地の仲間が集い、北陸・能登の復興にかける熱い思いが十分伝わってくる。江戸時代から交易、交流をしてきた北前船の相互の連携の絆が時空超えて今につながるなど、今年8月に亡くなられた石川好先生による『北前船コリドール構想』の一つの形が今日にあったと確信している。大会が北陸、能登地方の復興を力強く後押しし、さらに復興後の新たな北陸の形を皆で考える契機としたい」とあいさつ。
北前船日本遺産推進協議会会長で石川県加賀市の宮元陸市長は「9年前に寄港地フォーラムを加賀市で行ったが、その際に北前船の船主集落を見ていただいた有識者の方々の視察をきっかけに日本遺産登録に進んでいった。きっかけを作った加賀の地、橋立の地であるが、本日は石川県輪島市の坂口茂市長や石川県の馳浩知事にお越しいただいており、能登にエール、県に感謝を送る会でもある。前夜祭をを皆さまの力をいただき盛り上げてほしい」と会場に呼び掛けた。
福井県の中村保博副知事は「前回の釧路大会のエンディングで、能登の災害が大変であり復興支援の声が上がり、皆様のご提案で石川・加賀、福井で大会を一緒に行うこととなったが、皆様のお力で開催できた。3月16日には北陸新幹線が延伸し、福井県では芦原温泉、福井、越前たけふ、敦賀と4つの駅ができた。これから皆さまに来ていただくという陸の交流を中心に考えていたが、北前船交流拡大機構の交流は、もう桁外れだ。先人たちの知恵、考えた交流の素晴らしさを改めて認識させていただいている。福井県には5つの特徴ある寄港地があり、伝統産業が生きており、今後も多くの人に訪れていただきたい」と語った。
歓迎のあいさつでは、馳知事が「こんにちは、新日本プロレスの馳浩です。世界遺産という制度があるが、私どもの日本遺産は、かつてで言えば歌枕、名所、旧跡という言い方があるが、風土に根差した文化性、継続性、そして将来につながっている。観光は今や意味合い消費の時代であり、そのコンセプトがまさしく日本遺産である。日本遺産の果たした役割を現代にいかに位置付け、物語とすることが、欧米の観光客の魅力となる」と日本遺産の取り組みを評価した。元日に発生した能登半島地震の関連として、「本日の会場である百万石には、400人近い被災者が避難し、未だに5人が滞在している。ホテル、加賀市の宮元市長には改めて御礼を申し上げる」と地域に謝意を述べた。
輪島市の坂口市長は、北前船のゆかりの地の一つ、能登半島地震・能登半島豪雨の被災地としてあいさつ。「皆さまからは、温かい言葉、震災以来のさまざまな支援をいただいている。地震と豪雨で住宅は65%を失うほか、たくさんの大切な人を亡くした。だが、全国からたくさんの支援をいただきながら、少しずつ復旧・復興が進められている。輪島では、輪島塗や朝市、千枚田、總持寺祖院など多くが被災したが、北前船が荒波を越えて全国に豊かさと文化を伝えたように、この大きな災害という荒波を乗り越えて、しっかりと創造的復興に向けて進んでいきたい」と力を込めた。
あいさつ後、北前船交流拡大機構の浅見茂専務理事が参加者を紹介。「釧路大会の際に、宮元市長と中村副知事に復興のためのフォーラムを開催しようと話をした。釧路大会は2年間の準備を経て開催したが、今回はわずか半年と短い期間で、皆さまに大変な苦労をおかけすることとなったが、たくさんの提案をいただくなど、多くの方に出席のもと、前夜祭を行う運びとなった。福井の大会まで参加登録をしていただいた人は600人を上回った」と謝意を表した。
大会記念オブジェは、SGCの土屋豊会長が発表。1945年に福井を襲った大空襲、その2年後に発生した大地震など、続く天変地異に負けじ魂で復興を誓った当時の福井の象徴であったフェニックスにならい、金の「復興のフェニックス」が披露された。土屋会長は「震災の経過は報道で見ていたが、大変な苦労をされている。人生には上り坂、下り坂、まさかの坂があるが立ち上がれるようにという思いを精魂を込めて作った。必ず日はまた昇る。不死鳥のようによみがえることを願ってやまない」と能登の復旧、復興に思いを寄せた。
来賓のあいさつでは、第2次石破内閣で財務副大臣を務める横山信一参議院議員が縮小傾向にある伝統的工芸品について指摘。「北前船寄港地フォーラムを通じてさまざまなことを行わさせていただいているが、中でも伝統的工芸品については大きな課題として捉えている。伝統的工芸品は全国で241品目あるが、平成10年には生産額は1000億円程度あり、従事者が11万人いたが、現在は生産額が800億程度、従事者が半分の5万人程度まで減っている。コロナが減少に追い打ちをかけたが、経済産業省の調査では、生産額が落ちたという事業者が全体の約8割で生産額が販売額を下回る、同程度と答えた事業者が約9割もあり、国内市場は縮小傾向にある」と危機感を表した。今後に向けては、「北前船での連携を契機に、岡山県備前市と秋田県の大館市が今年においてイタリアのミラノサローネで備前焼と曲げわっぱを出展するなど、海外販路の開拓に乗り出した。北前船が一つのプラットフォームになって動き始めている。伝統的工芸品だけでなく、地域間連携を促進するフォーラムを通じて生まれるさまざまな形が実を結ぶように支援する」と、政治の面でも後押ししていくことを伝えた。
浮島智子衆議院議員は「馳知事とは、知事が衆議院議員の時に共にさまざまな議員立法を作らせていただくほか、日本遺産の発案など多くの縁がある。日本遺産は教科書の中でも記され、どこが日本遺産に認定されているかが分かるようになっている。子どもたちが地域に誇りを持ち、地域、日本を世界に知らせていく。そんな日本遺産を広めていきたい」と日本遺産の在り方を語った。また、9月27日に「日本遺産オフィシャルパートナーシッププログラム締結式(第1回)」を開催し、32の企業・団体が日本遺産オフィシャルパートナーとなったことを紹介した。能登半島地震の発生時についても言及。「震災後に大学共通テストが受けられないという連絡があったが、大臣を含めてさまざまな連携、尽力により金沢大学で受けられることとなった。これからも瞬時にスピード感を持ち、連携をしながら皆さまと共に頑張って参りたい」と述べた。
観光庁の祓川直也長官は「北前船のフォーラムにはパワーと皆さまの活気を感じる。国土交通省は、観光はもちろんだが、大臣を先頭に能登を元気にしよう本部があり、とにかくスピーディーにできることは何でも行う」と能登半島への支援体制を構築していることを伝え、「現地からいろいろな情報をいただきながら柔軟にできることから行っていく」と強調した。フォーラムについては、「20年近く行われ、35回と年に1回以上の回数と重ねている。地域を越えた交流の場での出会い、話を次につなげていきたい」と話した。
駐日ブルガリア共和国のマリエタ・アラバジエヴァ大使は「北前船のフォーラムは2回目の参加となるが、前回の釧路では温かい歓迎をいただいた。今年3月に能登地震被災者支援のためのチャリティーコンサートを北前船交流拡大機構の全面的な協力のもとで開催したことに始まるが、1日も早く復興できることを心からお祈り申し上げる」といち早い復興を願った。今年10月に北前船の関係者がブルガリアを訪問したことにも触れ、「今年は両国の交流開始115年を迎えるが、この取り組みはブルガリアと日本の経済、文化、観光の分野で2国間の強化につながる」と継続した交流を呼び掛けた。
前ハンガリー大使でTDKグローバルコミュニケーションのパラノビチ・ノルバート代表は「北陸の海鮮料理は、日本一でなく世界一だ。石川ハンガリー友好協会の活動はアクティブで、陶芸のつながりで石川とハンガリーはつながっている。3年前にはブタペストの名工芸品展が金沢で行われた際には馳知事にテープカットに来ていただいた。TDKとしても、地域連携として貢献できるように、日本の全国の地域の元気につながるように貢献していく」と宣言した。
前夜祭では、北海道からの参加者が被災地の激励と、お菓子の詰め合わせをお見舞い品として贈呈。贈呈式では、提供者を代表して宮坂建設工業の阿部浩之副社長が「六花亭の菓子を用意したが、北海道を代表する製菓会社になろうと昔の先人たちが、いつかは皆さまに幸せを与えようということで生業をスタートした。北陸の皆さまは大変な思いをしているが、この試練に負けないで、元の生活に戻れることを北海道から祈っている」と復興を祈念した。お菓子は、18箱、500件分が用意された。
セレモニーでは、ジャーナリストの井上公造氏と秋田県男鹿市の菅原広二市長が登壇し、なまはげとあまめはぎを会場に呼び寄せた。舞台では、なまはげから能登半島のあまめはぎに激励メッセージ入りの巻物が授与された。
鏡開きでは、63人が登壇し、第20回北前船寄港地フォーラム実行委員長を務め、山陽新聞社の越宗孝昌相談役が「北前船寄港地フォーラムが、私にとって最大の行事となっている。この会は、被災地である能登にエールを送る会であると口火を切ったが、北前船で縁をいただいている人のパワーを結集すれば、いろいろなことが可能になる。能登の復興、皆さまの活躍を祈念している」と乾杯の発声をした。
会場では、歓迎アトラクションとして山中温泉芸妓による「山中節」が披露されるほか、大会の開催に尽力した25人に花束の贈呈、石川県、秋田県の日本酒などが振る舞いなどが行われた。
交流会では、19人のが登壇し、被災地に激励の言葉を寄せた。
①若松謙維参議院議員「半島振興法が10年に1度改正されるが、公明党での半島振興法の座長を務めている。今回は、能登半島地震に関することを盛り込もうと、半島防災をコンセプトとして法律に盛り込んだ。予算は今までは数億だったが2桁アップとし、半島防災に努めてまいりたい」
②文化庁 合田哲雄次長「新年以降、さまざまな取り組みをしている。石川県能登は文化の都だ。引き続き取り組んでいく」
③EU日本政府代表部 二宮悦郎参事官「ベルギーのブリュッセルから来た。今年のミラノサローネで輪島塗の作家と会ったが、外から見る輪島塗は国内で見えているものとは異なる。海外の富裕層に届くように支援していきたい」
④正木靖駐インドネシア特命全権大使(代読 正木琳氏)「前職のパリ大会で北前船の関係者と出会ったことがきっかけだが、さまざまな実績が現実化している。備前市や大館市の皆さまも含め、次回のミラノサローネなどでも大きな成果が出るはずだ。今後の日本の地域の魅力や伝統工芸の国際化に向けて一層活躍することを祈念している」
⑤北海道釧路町 小松茂町長「能登半島の震災を受けた皆さまにお見舞いを申し上げる。わが町は津波避難タワーを4基新築しているが、互いに災害に強いまちづくりを目指しながら頑張って参りたい」
⑥青森県野辺地町 野村秀雄町長「青森県は東にも西にも半島があり、半島の県と言って良い。昨日には全国の町村会で能登半島を応援することに大拍手を持って決定された。引き続き能登半島を応援していく」
⑦青森県鯵ヶ沢町 平田衛町長「災害が起こると、最前線で頑張るのは役場の職員だ。職員の方々に頑張れと心からエールを送りたい」
⑧秋田県にかほ市 市川雄次市長「被災された方々にお見舞い申し上げる。フェニックスは夢と希望とロマンを運び、復興に対する意思をさらに飛躍させてくれる。われわれも引き続き応援していく」
⑨秋田県由利本荘市 湊貴信市長「被災された皆さま方にはお見舞いを申し上げる。秋田県も7月に豪雨があり、由利本荘市が一番大きな被害を受けた。石川県では、復興のスローガンとして創造的復興を掲げられているが、私どもも胸に刻みながら共に頑張っていきたい」
⑩秋田県大仙市 老松博行市長「被災地の皆さまに心からお見舞いを申し上げる。トイレやトイレトレーラーを直ちに派遣させていただいたが、大曲の花火を主催していることから、今後は花火で被災地の皆さまをげんきづけていきたい」
⑪秋田県仙北市 田口知明市長「2万3000人の小さな市だが、秋田県内ではふるさと納税の寄付額がナンバー1ということで、能登震災に関するふるさと納税として石川県庁を受付先としたところ、ただ今5000万円をいたあいている。引き続き、ふるさと納税で支援していく」
⑫秋田県大館市 石田健佑市長「被災地支援として、ふるさと納税の代理受付をさせていただいている。秋田県も雨の降り方が以上となり厳しい時代となっている。こういう厳しい時代だからこそ、各地域でしっかりと連携をしていくことが、人口減少社会の中で必要だ。また、日本の宝は地域に眠っていると確信している。力を合わせて頑張って参りましょう」
⑬新潟県佐渡市 渡辺竜五市長「世界農業遺産、トキの放鳥を含めて、能登半島とは一緒に力を合わせて取り組んできた。本当に厳しい状況下だが、トキの放鳥も予定をしており、われわれとしてできることを一生懸命応援し、能登の復興に取り組んでまりたい」
⑭新潟県村上市 高橋邦芳市長「輪島、能登半島全体を支えていく。北陸は一つであり、皆と力を合わせて頑張っていく」
⑮長野県茅野市 今井敦市長「長野県の各市町村みんなで能登半島の復興を応援している。皆で頑張って参りましょう」
⑯福井県美浜町 戸嶋秀樹町長「本当に厳しい困難に立ち向かっている能登半島で被災している皆さまにお見舞い申し上げる。本日に公開された黄金の不死鳥のよう早期に復興できるように応援していく」
⑰岡山県岡山市 大森雅夫市長「復興が完全に完了するまで岡山市は応援していく」
⑱岡山県備前市 𠮷村武司市長「1月4日から1カ月の間、市の職員を派遣した。残念ながら、道路の整備がなかなか進まず珠洲市まで到達しなかった。珠洲焼と備前焼の若手は交流がある。珠洲焼を含めて能登を応援してく」
⑲広島県尾道市 平谷祐宏市長「北前船は男たちのロマンと希望だ。寄港地が皆さまと一緒に希望となるよう連携していくのがフォーラム。共に頑張ろう」
北前船寄港地フォーラムに初期から協力している企業・団体があいさつ
日本観光振興協会の最明仁理事長は「35回を数えるフォーラムだが、第1回の山形県酒田市のフォーラムでは1兵卒として作業を手伝った。当時はこの3分の1ぐらいの規模だったが、熱意を持った方々が回を重ねるごとに参加者が増えてうれしく思っている。世界では例のない日本遺産を活用しての人の交流、経済波及効果を高めていく活動は日本特有のものであり、皆さまとは観光で全国を元気にしていきたい」と今後のサポートを約束した。
西日本旅客鉄道(JR西日本)の岡田学理事・鉄道マーケティング部長は「寄港地の関係者から北陸復興に向けての勇気のあるありがたい言葉をたくさんいただいた。今年3月には北陸新幹線の金沢~敦賀間が延伸開業した。開業を契機に北陸復興に弾みをつける。10月から12月までは北陸デスティネーションキャンペーン(DC)を開催、1月からはJR東日本、JR東海、地元と連携した『Japanese Beauty Hokuriku キャンペーン』を展開するなど、半年にわたり切れ目なく復興に向けて取り組んでいく。地域と地域を結び、地域の課題解決、交流人口の拡大を目的に取り組んでいきたい」と復興へ意気込んだ。
日本航空中部支社の岩見麻里支社長は「移動を通じた関係、つながりを創出するように日々努力している。世界、日本全国から北陸にお越しくださったことは大変うれしい」
ANAあきんどの原雄三社長は「ANAは羽田-能登線だが、12月25日から増便する。能登は復興の手前であり、復旧が完全ではない。ボランティア、関係者の方に有効に利用いただきたい。石川、能登地域も含めた北陸全体の支援を頑張っていく」
閉会のあいさつでは、加賀市都市交流協議会の宮本峰幸会長が「一向一揆が100年続いた加賀、百姓の持ちたるたる国が加賀、橋立、瀬越、塩屋では多くの北前船船主や船頭を輩出して巨万の富を得た加賀にようこそお越しいただいた。たくさんの参加者により、第35回北前船寄港地フォーラムin加賀・福井の前夜祭が盛り上がった。フォーラムが活発で意味あるものとなるよう、今後も交流をさらに深めていきたい」と締めた。