地域団体商標制度は、特許庁が「地域ブランド」を適切に保護することで、信用力の維持による競争力の強化と地域経済の活性化を支援することを目的に2006年4月に創設。同制度を活用した地域活性化を呼び掛けている。まちづくりの起爆剤としても期待されている地域団体商標制度について、特許庁審査業務部の審査業務企画官である藤村浩二氏に同制度や活用のメリットなどを聞いた。

商標取得で組織力強化、模倣品対策を通じてブランド信用力向上へ
――地域団体商標制度について。
地域団体商標制度は、商標制度の一つの制度であるが、「地域ブランド」を適切に保護することで、信用力の維持による競争力の強化と地域経済の活性化を支援することを目的とした制度。商標は、地域の名称と商品・サービス名の組み合わせから成る文字商標を保護するものだ。商標権を得るための登録要件を緩和していることも特徴だと言える。制度は2006年4月から始まり、もう少しで19年となる。
――現状について。
登録件数は、2024年11月末現在で779件となっている。制度が始まった時の出願が一番多かったが、以後も安定して毎年15~20件程度の出願をいただいている。地域ブランドがどんどん生まれてきていることは実感しており、うまく保護していける制度運営を行っていく。
――どんな産品やサービスが登録されているのか。
一つの例として、愛知県で「一宮モーニング」(一宮商工会議所、商標登録第5825571号)がある。食に関するものは多いが、飲食料品そのものでなくともサービス分野も対象となる。工芸品、温泉も対象とするなど、あらゆる商品、サービスが対象だ。広く対象となることも地域団体商標の特徴だ。
――最近では登録に傾向はあるか。
一概にこれという傾向はない。ただ、最近はいろいろなプレイヤーが増えてきていることはすごく実感している。ちょうど10年前には登録主体を拡大し、農協や漁協だけでなく商工会議所やNPOも出願できるようになり、結構な割合で出てくるようになった。取得をするためにNPOを新たに立ち上げたという例もある。10年の間にコロナ禍も経たが、特に影響はなかった。
――地域団体商標取得のメリットは。
一番は、法的効果として他社への権利行使が大きい。権利行使として防御と攻撃があるが、防御の部分において、名前を安心して使い続けながらブランド展開できることは大きなメリットと言える。最近良く耳にするのは、次の世代にも残していきたいという思い。地域団体商標として商標を取り、自分たちの物として使い続けていくことを確保することは大事になる。地域名と商品・サービス名からなる名前は、通常の商標制度だと全国周知が登録の条件になるが、地域団体商標制度は地域で一定程度知られていれば登録が可能に。全国ブランドまで育たなくても、早いうちから保護をして育てていけるのが特徴だ。攻撃という意味では、模倣品が出てきた際に権利者であることを主張できるのが非常に有効になる。
このほか、差別化効果として取引信用度の向上、商品・サービス訴求力の増大、組織力強化やブランドに対する自負の形成などが挙げられる。地域団体商標を取得することは一つのゴールともなるが、取得に向けて地域の関係者が動くことで、地域がまとまる様子をよく目にする。地域が一枚岩になるために貢献できる制度であると言いたい。

――保護できた事例などについて。
地域団体商標ガイドブックの中で、さまざまな事例を紹介しているのでぜひ見てほしい。一つ活用事例として、愛媛県宇和市の「宇和島じゃこ天」がある。さかのぼると江戸時代から歴史がある宇和島じゃこ天だが、名前が知られた後に粗悪な模倣品が増加していたところ、品質を守るために地域団体商標を取得した。取得後は、模倣品対策の強化につながるとともに、ブランドの信用力が向上した。以前は模倣品の製造や販売を中止してほしいと伝えても無視される状況が続いていたが、商標取得後に権利侵害であることを伝えることで、すぐに対応してもらえた。このほか、兵庫県淡路島の「淡路島たまねぎ」での産地偽装対策、石川県金沢市の「加賀友禅」の模倣品対策などは顕著な例と言える。いずれにおいても、商標の取得により本物であることをしっかりと示せているなど、安心して模倣品対策ができている。
――取得してほしいジャンルなどがあるか。
どのジャンルもまだまだ活用できるものはあるはずだ。一つ挙げるならば、伝統的工芸品が挙げられる。昔から取り組みが進み、もうすでにブランドが立ち上がっている。しっかりと地域団体商標を取得して商品、ブランドの価値を確保していただきたい。
――地域ブランドは今後どう進化していくのか。
地域ブランドの第1形態は、物が売れること、買ってもらっていろいろな人に知ってもらうこと。第2形態となると、産品を目指して人が産地に集まってくる。人が集まってこそ初めて地域全体が潤い、完成形となる。消費地における周知や販路拡大と、それをきっかけに人を地域にいざなうきっかけ作り、この両輪をうまく回していく必要がある。旅行会社の方には、地域団体商標を巡る旅などもぜひ企画、販売してみてほしい(笑)。
――権利取得までの流れ、費用について。
基本的には1区分で済むものが多い。その場合は、出願料は12,000円で、10年間の登録料が32,900円となる。更新登録申請料は、10年で43,600円だ。ブランドを守る保険料と考えてもらうのもよいかと思う。出願から登録までにかかる期間はケースバイケースで、数カ月で登録になるものがあれば、いろいろと積み重ねて年単位となる場合もある。
――観光業に携わる人たちに向けて。
地域ブランドと観光はすごく親和性がある。われわれも観光に携わる人をターゲットにしたパンフレットを作らせていただいた。最近は、本物志向の消費者が多くなっているが、観光客が地域の特産品として本物を求めている。観光にこの地域団体商標という文脈を加えていただくと、より地域と観光客との信頼関係を築けるのではないか。本物を管理して守りながら次世代につなぐものが地域団体商標制度である。この制度を認識していただくとともに活用していただけるとすごくありがたい。
★地域団体商標制度や登録産品に関して詳しく知りたい方はこちら!
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/index.html
藤村浩二(ふじむら・こうじ)=特許庁審査業務部審査業務企画官/商標課地域ブランド推進室。2000年特許庁入庁。商標審査官・審判官としてキャリアを積みつつ、商標制度の普及を図る業務にも携わり、普及啓発動画「商標拳」の製作やメディア「わたしのStoryMark」の運営を担当。また、他省庁への出向も複数経験し、農林水産省では、地理的表示(GI)制度の審査等を担当。2024年4月より現職。
聞き手 ツーリズムメディアサービス編集部 長木利通