訪日外国人旅行者(インバウンド)の勢いが止まらない。2024年には旅行者数、旅行消費額とも過去最高となり、コロナ禍によって打撃を受けたインバウンドが回復期から再成長期に突入した。こうした流れの中で、日本旅行業協会(JATA)は、このほど「【提言】訪日旅行の持続的発展に向けて=以下提言」をまとめ、秡川直也観光庁長官に提出した。官民一体となり、観光先進国を目指す取り組みだ。提言の骨子を中心に展望や課題を2回に分けて掲載する。

提言は、会員社や観光関連事業者、自治体などを対象に23年8月から24年7月までに計3回実施した「インバウンド旅行客受入拡大に向けた意識調査」をもとに取りまとめた。特に第3回調査は過去最多の1161件の回答があった。旅行会社406件、輸送事業者285件、宿泊事業者176件などだった。
今回の課題は「観光先進国を目指すための更なる規制緩和の推進と公平な競争環境の確立」、「地方における高付加価値旅行商品の造成と観光定着に向けた各種支援」、「観光産業における人手不足・人材不足解消に向けた各種支援」、「持続可能な観光の実現並びにオーバーツーリズム解消に向けた受入環境整備の推進」の4項目。

観光立国推進基本計画のキーワードに即し旅行業界からの“決意”宣言
いずれも政府の第4次観光立国推進基本計画に掲げられている観光の質的向上を象徴する「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」の3つのキーワードに沿って、旅行業界としての“決意”宣言ともいえる。
ここで数字を振り返ってみよう。24年の訪日外国人旅行者数は3687人、訪日外国人旅行消費額は8兆1000億円と過去最高となり、観光立国推進基本計画の数値目標を超えた。東京や大阪、京都などで外国人旅行者を見ない日はない。また、地方都市でもスマホ片手に旅を続ける外国人が増えた。
このように、日本を旅行先として選ぶ外国人が増えるのは喜ばしいことだが、一部地域のオーバーツーリズムやここ数年、深刻さが増している観光産業の人手不足など、持続的な発展のための課題も多い。課題解決に向けて提言に盛り込まれたのは以下の4項目だ。連載・上では、1と2について記す。
- 観光先進国を目指すための規制緩和の更なる推進と公平な競争環境の確立
- 地方における高付加価値旅行商品の造成と観光定着に向けた各種支援
- 観光産業における人手不足・人材不足解消に向けた各種支援
- 持続可能な観光の実現並びにオーバーツーリズム解消に向けた受入環境整備の推進
地方での観光の足、二次交通の整備 日本版ライドシェアの普及を
まず、1の観光先進国を目指すための規制緩和の更なる推進と公平な競争環境の確立についてだ。
前述したように、訪日旅行者が東京などの大都市だけでなく、地方へ分散、周遊するのは地域経済に大きく貢献するは言うまでものない。ただ、大都市と地方都市とでは、人材確保など異なる。特に、地方の最大の課題としては観光の足である二次交通の整備が不可欠だと提言は指摘する。24年3月に創設された日本版ライドシェア(59地域、340自治体で実施)が普及しているが、さらなる観光の足を充実させるために自動運転のレベル5=完全自動化の早期導入を訴えている。一方、こうした規制緩和を進めるには、公正な競争環境を確立し、違法業者の取り締まりを要請している。
次は2の地方における高付加価値旅行商品の造成と観光定着に向けた各種支援についてまとめた。
石破首相も掲げる地方創生と親和性が高い高付加価値商品の造成が観光消費額の向上に貢献すると、提言は指摘する。そのうえで、現行の観光庁の補助事業に関し、「商品造成・認知度向上から地方部誘客事業の自走化支援への転換」を求めている。
また、近年、注目を集めているのが高付加価値旅行の一つであるアドベンチャーツーリズムだ。これの推進を目指し、旅行者のニーズにこたえられる専門性をもったガイドの質・量の充実を図るための支援を要請している。