スマホひとつで世界とつながることができる時代。それでも、土の匂いを感じたり、誰かと笑い合ったりする“リアルな体験”の価値は、決して色あせません。
本記事では、今あらためて注目したい「リアルな場」の価値と、地域の魅力をどのように子どもたちの体験価値につないでいけば良いのか——実際の取り組みも交えてご紹介します。
■ 失われつつある子どもの頃の「原体験」
私たちの暮らしは、便利さと引き換えに“自然”から少しずつ離れていっています。特に都市部では土や木に触れる機会が減り、虫の名前や植物の生態を知らない子どもたちも増えました。
さらに、日々の体験の多くがデジタル機器を通したバーチャルなものとなり、土の匂い、風の音、木の感触といった五感で感じる学びの機会はどんどん減少しています。
こうした環境の変化は、子どもたちの人間関係や思考力にも影響を与えていると考えています。SNSやオンラインゲームを介した“つながり”は増える一方で、顔を合わせて対話し、共に何かをつくり上げる経験は少なくなってるのではないでしょうか。
また、正解のある問題ばかりを解く受動的な学びが中心となり、いかに失敗しないようにするかの考え方になってしまい、失敗を恐れずに試行錯誤する力──いわゆる非認知能力を育む機会も乏しくなっているとも感じています。
■ 「教育」ではなく「共育」という考え方

私は、地域にスポットライトをあてながらも、人生の記憶に残る事業を展開する経営者として、「教育」ではなく「共育」という考えを大事にしています。
知識を詰め込むようなこれまでの画一的な学校教育ではなく、リアルな場での人と人との出会いを通じて、年齢や立場など関係なく、お互いに何かに気付き学び、人間力を高めていく――それこそが、AIや効率(タイパ)が注目されるなかで逆説的かもしれませんがこれからの時代に必要な学びだと私は考えています。
それは、「コト」や「モノ」以上に、“人と人”のリアルな場でこそ最大の価値が生まれると、私は確信しています。
■ 体験価値を生み出すプロジェクトたち
こうした想いを形にした代表事例が、自社事業の「Blue Family Project.」です。このプロジェクトは、「全国の中学生」と「家族や友達と行かない地域」をつなぎ、地域を舞台に“未来が楽しみになる原体験”を届ける、旅行のワクドキと共育視点での学びを兼ねた”エデュケーショナルツーリズム”です。
2024年のモニターツアーを経て、2025年より富山と北海道・芦別で開催しました。参加者は7日間地域に滞在しながら、木材加工業や養鶏、伝統工芸など、その土地に根ざして活躍する“かっこいい大人たち”に出会います。知らない地域で、7日間という時間を等身大の自分で過ごすことで、「こんな生き方があるんだ」「こんな未来があってもいいんだ」と、自ら感じ、気付き、考え、未来を前向きに捉えられるようになります。
また、先日、2025年9月には熊本県和水町での「古墳祭」にて、ライブ出演アーティスト「かりゆし58」のキャスティングと、地元の子どもたちと交流機会も兼ねた原体験イベントを企画・実施しました。
古墳祭は、祖先を敬い、霊を鎮める和水町の一大行事です。私たちは、単なる来訪促進の音楽イベントとしてではなく、地域の子どもたちが“心に残る体験”=もっと町を好きになるきっかけになるよう意識して企画しました。
特に、「高校卒業を機に町を離れる子が多い」という現状を踏まえ、「いつか帰りたくなる町であってほしい」という願いを込め、今年のライブ出演者である「かりゆし58」と地元の子どもたちによるダンスコラボを実施しました。
地域活性のための来訪促進はもちろんのこと、住民や子どもたちが“町を好きになるきっかけ”を生み出すことも大事です。それこそが私たちが提供したかった“体験価値”です。
教育の中心が、家庭や学校の中だけに留まらない時代。誰かに出会うこと、そして共に時間を重ねることが学びの場になり、地域は“生きた教材”になり得ます。
私がこれからも創り出してしていきたいのは、そんな「共育」=人と人が共に育つ新しい学びのかたちです。特に、子どもたちが地域の誰かに出会うことで、人生の記憶に残る体験をし、未来が楽しみになる選択肢や可能性が生まれること。そのための手段として日本各地の地域の人たちとの出会いをつないでいきます。それが、Grass Family.の目指す姿です。

私が経営しているGrass Family.社が大事にしているMVVです。創業から2年半を経て、アップデートしました。
寄稿者 荻野孝史(おぎの・たかし)㈱Grass Family. 代表取締役兼CEO
編集長のひと言 ご寄稿をありがとうございます。共感する記載が多々ありました。失われつつある子どもの頃の「原体験」。まさにその通りです。20年くらい前に、こんな話を聞きました。子供に鶏の絵をかかせたら、足を4本書いた。また、キャンプに行きアマガエルをみたら、虫よけスプレーをかけてしまった。子供たちが地域に根差した、体験をしてほしいと心から願っています。