UN Tourism(国連世界観光機関、スペイン・マドリード)はこのほど、2025年1~3月期の国際観光客数(宿泊を伴う渡航者)が前年同期比5%増となり、コロナ禍前の2019年比でも3%上回ったと発表した。
世界的な地政学リスクやインフレ圧力が続くなかでも、旅行需要の堅調な回復が示された形となった。
報告書によると、1~3月の国際観光客数は3億人を超え、前年同期から約1400万人増加した。
地域別では、アジア太平洋地域が最も高い回復率を示し、到着者数は前年同期比12%増となり、コロナ禍前の水準の92%まで回復した。なかでも北東アジアは23%増と世界の地域内区分で最も高い伸びを記録した。
ヨーロッパでは1~3月の到着者数が1億2500万人に達し、前年同期比2%増、2019年比では5%増となった。中東は1%増と小幅にとどまったが、コロナ前比では44%上回る水準を維持している。
アフリカは9%増で、2019年比では16%のプラスとなった。アメリカ大陸は2%の増加で、南米では13%増と南半球の夏季シーズンで好調だった。
観光収入(インバウンド収入)も多くの地域で力強い伸びを見せている。アジアでは日本が34%増、ネパールが18%増、韓国とモンゴルがいずれも14%増を記録。欧州ではスペインが9%、フランスが6%、ノルウェーが20%、デンマークが11%の増加となった。米国は3%の増加で、観光収入世界一の地位を維持している。
UN Tourismは2024年の国際観光による輸出収入(旅行者の現地支出および国際旅客輸送収入)を2兆ドルと改定。インフレ調整後でも前年比11%増、パンデミック前の水準を15%上回った。
これは世界全体の財・サービス輸出の約6%、サービス貿易の23%を占める。旅行者1人あたりの平均支出は1170ドルで、2019年の1000ドルを上回った。
今後の見通しについては、UN Tourismの専門家パネルの調査に基づき、2025年の国際観光客数は前年比3~5%増との見通しを維持している。ただし、経済成長の鈍化、旅行費用の上昇、関税の増加などが下押し要因として挙げられ、地政学的リスクや消費者の信頼感低下も懸念材料となっている。
専門家の45%は北半球の夏季(5~8月)について「前年より良好または非常に良好」と予測する一方、22%は「前年より悪化」との見通しを示した。観光需要は堅調さを維持する見込みだが、旅行者の行動は「費用対効果の高い旅行」や「近場旅行」「短期旅行」など、慎重さがより強く意識される傾向も見られている。