世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は7月7日、観光集中による地域への影響が深刻化するのを受け、持続可能な成長と地域の保護を両立するための新たな報告書「Managing Destination Overcrowding: A Call to Action(観光地の過密化管理:行動の呼びかけ)」を発表した。
観光のピークシーズンにあわせ、世界各国の政府や地域リーダー、観光業界に対し、よりスマートで協調的な観光管理を求めている。
WTTCは、観光の過密化は単に旅行者数の増加によるものではなく、「インフラ投資の不足」「計画の欠如」「意思決定の分断」といった構造的課題が根底にあると指摘。こうした問題に対処しなければ、観光がもたらす雇用、文化交流、環境保護といった利益が将来的に損なわれるおそれがあるとしている。
報告書では、観光管理の改善に向けて6つの実践的行動として、〇関係者を束ねる体制の構築〇長期的なビジョンと戦略の策定〇データに基づく状況把握〇継続的な監視と早期対応〇インフラへの透明な投資〇地域住民の意見を尊重する仕組みづくり-を提案している。これらを通じて、観光地が持続可能に成長する基盤を築くことが目的とされている。
現在、観光業は世界のGDPの約10%を占め、3億5700万人の雇用を支えており、今後10年で新たに創出される雇用の3分の1を担う見通しで、2024年には経済規模は11兆ドル近くに達すると見込まれている。
各国政府は観光関連事業から年間3.3兆ドル超の税収を得ており、WTTCはその一部を観光インフラや地域支援に再投資するよう呼びかけている。
報告書では、過密化対策として具体的に成果を上げている地域の事例も紹介している。
スペイン・バルセロナでは、「Turisme de Barcelona」コンソーシアムが持続可能な開発目標(SDGs)に沿って運営され、官民連携により観光政策を策定している。観光を市民生活と調和させる姿勢が注目されている。
ベルギー・フランデレン地域では、「Travel to Tomorrow(明日への旅)」戦略のもと、観光を地域社会の課題解決に活かす取り組みが進められている。住民の声を観光政策の中核に据え、「地域のための観光」という考え方を実践している。
クロアチア・ドブロブニクでは、国際クルーズ協会(CLIA)と連携し、クルーズ船の寄港調整と地域住民との対話によって混雑の緩和を図っている。観光客の受け入れと市民生活のバランスをとる先進事例とされている。
アイスランドでは、観光課徴金(税)を自然保護活動に直接還元する制度が整備され、観光による環境負荷を抑制しながら観光収益を持続可能性の確保に活用している。
WTTCのジュリア・シンプソン会長兼CEOは、「観光は雇用、投資、そして文化理解を促進する力を持っているが、その成長は慎重に管理されなければならない」と強調。「観光を止めるのではなく、すべての人にとって利益となるよう持続可能な形で発展させていく必要がある」としている。
WTTCは今回の報告書を、各国にとっての「転機」と位置づけ、短期的対策ではなく長期的な視点から、観光収入をインフラ整備、住民福祉、地域サービスの向上へと再投資することを提案している。