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ユーロヴェロの資料から読み解く日本のインバウンドサイクリストの動向5:

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インフレと宿泊施設不足を乗り越える!日本のサイクリングツーリズムが持続的成長を遂げるために

サイクリングツーリズムの市場が世界的に拡大する中、日本がインバウンドサイクリストを迎え入れる上で、避けては通れない現実的な課題があります。「State of the Cycling Tour Operators Industry (2024)」レポートは、サイクリングツアーオペレーターが直面する主要な課題として、「インフレ」と「宿泊施設の不足」を挙げています。これらの課題をいかに乗り越え、日本の豊かな地域と「風土(人々の営み)」を活かした持続可能なサイクリングツーリズムを確立していくか、具体的な戦略を考察します。

サイクリングツアーオペレーターが直面する「二つの壁」

出典:State of the Cycling Tour Operators Industry (2024)

レポートによると、回答者の62%が「インフレ」を事業の主要な課題としており、これは特にヨーロッパのオペレーター(46%)にとって顕著です。また、外部の事業課題としては、「適切な宿泊施設を見つけること(空室状況、品質、価格、柔軟性など)」がヨーロッパ(54%)と非ヨーロッパ(39%)の双方にとって最大の課題であると報告されています。

これらの課題は、日本においてもインバウンドサイクリングツアーを企画・実施する上で同様に深刻な問題となりえます。物価上昇はツアー料金に転嫁され、サイクリストの旅行意欲に影響を与える可能性があります。また、特に地方のサイクリングルート沿いでは、多様なニーズに応えられる宿泊施設が不足しているケースも少なくありません。

「二つの壁」を乗り越え、風土の再生を促す戦略

インフレと宿泊施設不足という課題は、一見するとサイクリングツーリズムの成長を阻害する要因に見えます。しかし、これらを逆手に取り、地域が持つ潜在的な資源や「風土」を最大限に活用することで、持続可能かつ魅力的なサイクリング体験を創出する機会と捉えることができます。

  1. 「ローカル経済循環型」ツアーでインフレを乗り越える:
    インフレの影響を軽減するためには、地域の生産者や小規模事業者との連携を強化し、中間コストを削減する「ローカル経済循環型」のツアーモデルを構築することが有効です。例えば、ツアー中の食事は地元の農家レストランや小さな食堂を利用し、宿泊は地域住民が運営する民宿や古民家を活用するなど、地域内での経済循環を促進します。これにより、ツアーの費用対効果を高めるだけでなく、サイクリストは「その土地の営みから生まれた本物の価値」に触れることができ、消費が地域の「風土」を直接的に支える形となります。生産者から直接食材を仕入れたり、地元の伝統的な手法で作られた工芸品を体験プログラムに組み込んだりすることで、インフレによるコスト増を吸収しつつ、ツアーの付加価値を高めることが可能です。
  2. 既存資源の再活用と多様な宿泊形態で宿泊施設不足に対応する:
    宿泊施設不足は、単に「ホテルを建てる」という発想だけでなく、地域の既存資源を再活用するクリエイティブな視点が求められます。
    • 古民家再生・農泊の推進:
      空き家となっている古民家をサイクリスト向けの宿泊施設として再生したり、農家が運営する農泊を推進したりすることで、地域の「風土」そのものを宿泊体験として提供できます。サイクリストは、一般的なホテルでは味わえない、日本の昔ながらの暮らしや、地域住民との交流を通じて、より深い旅の体験を得ることができます。これは、地域に眠る資源の「再生」であり、新たな収益源創出にも繋がります。
    • 地域分散型宿泊の推進:
      特定の場所に集中するのではなく、サイクリングルート沿いの複数の集落に点在する小規模な宿泊施設(民宿、ゲストハウスなど)を連携させることで、地域全体でサイクリストを受け入れる体制を構築します。これにより、サイクリストは旅の途中で様々な地域の「風土」に触れることができ、地域の分散型経済活性化にも貢献します。
    • キャンプサイトやグランピングの活用:
      自然豊かな地域では、キャンプサイトやグランピング施設を整備することで、新たな宿泊選択肢を提供できます。欧米のサイクリストにはアウトドア志向の強い層も多く、地域の自然を満喫できるこのような宿泊形態は魅力的です。

地域創生と風土再生への貢献

インフレと宿泊施設不足へのこれらの対応は、サイクリングツーリズムを通じて以下の形で地域創生と風土再生に貢献します。

  • 地域の自立と多様な産業の育成:
    地域内での経済循環を促し、宿泊や食に多様な選択肢を提供することで、特定の産業に依存しない自立した地域経済の形成を支援します。これにより、地域全体の活力が向上し、人々の「営み」が活発化します。
  • 「風土」の価値再認識と継承:
    古民家の再生や農泊の推進は、地域の歴史的建造物や伝統的な生活様式といった「風土」の価値を再認識する機会となります。サイクリストがこれらの体験を求めることで、地元住民がその価値を再評価し、次世代への継承を促す動機付けとなります。
  • 地域住民との共生と持続可能な観光:
    地域分散型の宿泊やローカル経済循環型ツアーは、オーバーツーリズムのリスクを軽減し、観光客と住民が共生する持続可能な観光モデルを構築します。サイクリストが地域に深く関わることで、お互いの文化を尊重し、地域全体の「風土」を守り育む意識が高まるでしょう。

インフレと宿泊施設不足は確かに大きな課題ですが、これらを乗り越えるための創造的なアプローチは、日本のサイクリングツーリズムをより魅力的で持続可能なものに変えるチャンスです。地域の「風土」を最大限に活かし、サイクリストに忘れられない体験を提供することで、地域創生と風土の再生に貢献するサイクリングツーリズムの未来を築きましょう。


寄稿者:東京山側DMC 地域創生マチヅクリ事業部

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