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観光地域づくり法人(DMO)と天王洲アイル#16 ~2万人が集う「天王洲キャナルフェス」―都市観光×地方創生の新たな挑戦~

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一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会は、観光地域づくり法人(DMO)として、天王洲アイルの観光振興と地域活性化に取り組んでいます。前回は、天王洲アイルの観光デスティネーション化に向けた具体的な取り組みについて述べました。今回は、2016年から開催されている天王洲キャナルフェスの集客力を活用した新たな挑戦についてご紹介します。

水辺とアートの街に集う

かつて倉庫街だった天王洲アイルは、オフィス街として再開発がされてきました。そして近年、文化と観光の交差点として、新たな価値創出を目指しながらプロモーションを行っています。毎年4回開催されていた「天王洲キャナルフェス」は、ライブパフォーマンス、ワークショップ、マルシェ、フードイベントなどが融合する複合型フェスティバルとして知られ、2023年からは春と秋の年2回開催されています。このキャナルフェスは、2016年の初開催以来、回を重ねるごとに来場者数を増やし、現在では毎回約2万人以上が訪れる地域を代表するイベントへの一つとなっています。

天王洲キャナルフェス2025 SPRING&SUMMER(左)、同時開催 TENNOZ PLACE
天王洲キャナルフェス2025 SPRING&SUMMER(左)、同時開催 TENNOZ PLACE

天王洲キャナルフェスから始まる連携活動

天王洲キャナルフェスを主催する一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会は、2024年3月に観光地域づくり法人(DMO)に登録されました。これにより、都市型観光地として本格的な観光誘致活動がスタートしました。

この取り組みは、単なる地域のイベントにとどまらず、都市型観光と地域連携、さらに広域連携を組み合わせた「新しい観光の形」を天王洲から発信する挑戦です。今後は首都圏の枠を越えて、地方創生の視点も取り入れながら、天王洲キャナルフェスをさらに発展させていきます。

天王洲キャナルフェス2025 キャナルイースト会場(左)、アイルしながわ会場
天王洲キャナルフェス2025 キャナルイースト会場(左)、アイルしながわ会場

「イベントのハブ」から「地域間連携の触媒」

天王洲キャナルフェスの最大の特長は、単なる消費型イベントではなく、来場者がアートや音楽、グルメなどの文化的体験を目的に訪れる点にあります。これは、他地域との連携を進める上で大きな強みとなります。例えば、フェスを起点とした観光ルートの創出として、芝浦・お台場・豊洲など湾岸エリアを結ぶクルーズルートの開発が可能です。これにより、天王洲という「水辺の文化拠点」が中継点の役割を果たし、地域間の回遊性を高めることができます。

このような取り組みは、他の地方都市にとっても応用可能なモデルとなり、観光客の動線を「点」から「面」へと拡張し、観光消費を一つの地域に集中させることなく、他の地域との相乗効果や経済波及効果を促進することが期待されます。

天王洲のアートと東京港を巡るクルーズ(左)、天王洲-日の出―竹芝 シャトルクルーズ便
天王洲のアートと東京港を巡るクルーズ(左)、天王洲-日の出―竹芝 シャトルクルーズ便

地方イベントとの「クロスフェス化」の可能性

今後の展望として、天王洲キャナルフェスでは、全国のイベントとのコラボレーションによる「クロスフェス化」を模索しています。天王洲が有する「アート」「水辺」「食」といったテーマは、全国各地の観光資源と高い親和性を持ちます。たとえば、全国のアートイベントとの連携により、アーティストの相互派遣やコラボ展示が可能となり、都市の住民が地方イベントへ興味を持つきっかけとなります。また、クラフトビールフェスやご当地グルメイベントとの連携を通じた「食の地方創生」も有効な展開です。

すでに、天王洲キャナルフェスでは、地域色豊かな飲食ブースやクラフトビールの出店が好評を得ており、このモデルを全国に広げて展開することで、キャナルフェス自体の魅力と広がりをさらに高められます。

跡見学園女子大学特別企画ブース(左)、アートパラ深川おしゃべりな芸術祭プレイベント
跡見学園女子大学特別企画ブース(左)、アートパラ深川おしゃべりな芸術祭プレイベント

地元企業や住民とつくる「都市型共創モデル」

天王洲アイルのもう一つの強みは、地域内の企業や文化施設と密接に連携した「共創体制」にあります。たとえば、寺田倉庫は現代アートと建築の「WHAT MUSEUM」を構え、若手アーティスト支援を目的にした「TERRADA ART AWARD」の開催などを通じて、倉庫や運河などの地域資源を活かしたアートシティを目指しています。

天王洲アイルはオフィス街である一方で、イベント来場者、オフィスワーカー、地域住民が日常的に交差する希少な都市空間です。このような環境は、企業のプロモーションやCSR、そしてインキュベーションなどの新しい活動の場として機能しており、都市型観光の新たな可能性を提示しています。

また、天王洲アイルに隣接する東京海洋大学の学生や、観光・まちづくりを学ぶ跡見学園女子大学の学生たちの参画により、地域への愛着形成を促進するプログラムも築かれています。このようなモデルは、地方においても商店街、企業、教育機関を巻き込んだイベント企画に活用でき、「観光=外から来るもの」という考え方から、「地域が共につくる観光」への進化を示唆しています。

沖縄の伝統芸能「エイサーライブ」(左)、EZOHUB TOKYO 北海道観光PR
沖縄の伝統芸能「エイサーライブ」(左)、EZOHUB TOKYO 北海道観光PR

点から面へ・都市から地方へ-変わる観光PRのかたち

観光は、単に地域の消費拡大をもたらすだけではなく、雇用創出やコミュニティの活性化を担う、地域経済の重要なエンジンです。天王洲キャナルフェスが目指すのは、都市イベントを地方創生の触媒とする新たな観光モデルの確立です。都市と地方を分断せず、「アート」「食」「水辺」「文化」といったテーマで各地を結ぶことで、各地域が単体で集客を図るだけでなく、都市の集客動線と連携して広域的な観光誘致を行う視点への転換が促されます。都市で開催される天王洲キャナルフェスを、「人の流れを生み出す起点」と位置づけ、他地域や他産業と有機的に連携していくことが、地方創生における次の一手となります。

観光は、「来てもらう」だけでなく、「一緒につくる」ものへと進化しています。天王洲キャナルフェスは、地域の企業と住民の協働によって創出されたイベントです。このような都市発の取り組みが、全国各地の地域に新しい風を吹き込み、日本の観光の未来を共に築くきっかけになることこそ、天王洲DMOの使命であると考えています。

※アイキャッチは、「水辺とアートの街」 天王洲運河

寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 会長

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