日本郵便の一般貨物自動車運送事業許可が、不適切点呼によって6月27日に取り消された。これにより、全国で約2500台といわれる郵便局の1トン以上のトラックが使用できなくなっている。
観光業界に関連するサービスや仕事でも、タクシーやバスにおいて乗務員の点呼が必要であることは、多くの方が当然ご存知かと思う。しかし、ホテルや旅館を運営している方の中には、「うちで送迎バスを出しているけど、点呼をやっていない…」「点呼をやらないと送迎バスが出せなくなるの?」と不安に思う方がいるかもしれない。
先に結論を述べると、点呼をしていないことでホテル・旅館の送迎バスが出せなくなることはない。しかし、この機会に、ホテル・旅館の送迎バスと、路線バスや観光バス、貨物トラックなどとのルールの違いや、ホテル・旅館が送迎バスを運営する際に気をつけるべきことなどをまとめたい。
ホテル・旅館の送迎とタクシー・バスの法律上の違いとは?
まず、タクシーやバス、貨物トラックなど、対価を得て他の人を運ぶ、あるいは他の人や会社の荷物を運ぶためには地方運輸局長の許可が必要だ。
タクシーであれば一般乗用旅客自動車運送事業の許可、路線バスであれば一般乗合旅客自動車運送事業の許可、観光バスであれば一般貸切旅客自動車運送事業の許可、1t以上の貨物トラックであれば一般貨物自動車運送事業の許可が必要となる。
対して、ホテル・旅館の送迎は、国土交通省の「道路運送法における許可又は登録を要しない運送に関するガイドラインについて」という通達の中で整理されている。まさにこの通達の件名のとおりで、ホテル・旅館が宿泊客の送迎を行うために、許可や登録は必要ない。
タクシーやバスなど許可を受けて行う運送事業では、「点呼」が義務付けられている。
運送事業の「点呼」は、単に人がいるかの確認ではなく、酒気帯びの確認を含めたドライバーの健康状態などのチェックである。近年はITツールを活用した「遠隔点呼」も認められているが、基本は、国家資格である運行管理者や補助者が対面で実施し、「業務前点呼」「業務後点呼」「業務途中点呼」などが義務付けられている。
日本郵便ではこうした点呼をまったく行わない、あるいは事実と異なる記録を残すといったことが多数行われていたために行政処分としてトラックを使用する運送事業の許可が5年間取り消された。
一方、ホテル・旅館による宿泊客の送迎は先に述べたように許可も登録も不要であり、点呼の義務もないため、当然、許可が取り消されて送迎できなくなることもない。
ちなみに、2024年3月に国交省が出した通達によって、ホテル・旅館の送迎は最寄り駅からホテル・旅館までの送迎だけでなく、宿泊客の観光地への送迎や、送迎を利用する客と利用しない客の宿泊料金に送迎の実費分の差をつけること、実費分には自動車保険料やレンタカー代などを含めることも問題ないとされている。
送迎ドライバーに法律のメスが入るのはどんな場合?
ホテル・旅館の送迎が許可も登録も不要だといっても、何でもかんでも好き勝手にできるわけではない。
例えば、道路交通法に違反すればドライバーの社員は普通に切符を切られる。軽微な違反だけであれば、社員個人が罰金や違反点数などの責任を負うが、酒気帯び運転・酒酔い運転などの重大な違反や、事故を起こした場合は、会社としての対応や責任を負うことが求められる場面も出てくる。
酒気帯び運転で社員が捕まり、それがニュースなどで話題になった場合、会社として説明責任を果たしたり、処分を行ったりすることが求められるだろう。また、社員が仕事で運転している時に事故を起こしてしまったなら、会社は使用者責任を問われる上、人身事故の場合は運行供用者責任を問われる可能性があり、その事故の損害賠償を支払うことにもなるだろう。
酒気帯び運転のような重大な違反でなくとも、例えば、普通自動車免許で運転できる乗車定員超えたクラスの車を運転する、乗車定員以上の人数を乗せて運転するといった違反は、送迎で発生しやすいので注意が必要だ。
また、ホテル・旅館の送迎が、「道路運送法における許可又は登録を要しない運送に関するガイドライン」を超えて、タクシーやバスのように運賃をもらって客を運ぶといったことをした場合も、道路運送法の罰則がある。
無許可でタクシーのような営業を行うことは「白タク」と呼ばれているが、バスも含めてまったく許可を得ずに許可が必要な営業をした場合、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、またはその両方が科せられる。
義務ではない送迎ドライバーにも健康チェックを
このように、もともと許可なくでき、点呼の義務もないホテル・旅館の送迎だが、だからといって酒気帯び運転やその他の違反、自己の発生につながる要因を見過ごしてしまうと、会社にも大きな責任が生じる。
そのため、義務がなくてもアルコールチェックや健康チェックなど、運送業の点呼のようなチェックを行い、その記録を残すことに損はないだろう。
許可が必要な運送事業と違って車検の期間が自家用車は長いのであるが、ドライバーのチェックや教育だけでなく使う車両についても頻繁にチェックとメンテナンスを行うことで事故や不具合の防止につながるはずだ。
寄稿者 中島康恵(なかじま・やすよし)㈱シニアジョブ代表取締役