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公民連携の未来図:東京山側DMCと渋谷区観光協会の事例に学ぶ持続可能な地域創生

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東京観光財団が2025年7月25日、都内で開催した第1回「持続可能な観光」セミナーは、観光誘客から地域経営への転換を目指す業界関係者に、具体的かつ実践的な指針を示す場となった。民間主導で事業を切り開く「東京山側DMC」の実践知と、多様なステークホルダーを巻き込む「渋谷区観光協会」の連携術。対照的な2つの先進事例は、日本の各地域が目指すべき持続可能な地域づくりの新たなモデルを提示し、会場は終始、希望と覚悟に満ちた熱気に包まれた。

イベントの幕開け:当日の空気感と期待

会場となった東京観光財団の会議室は、開始前から満席状態であった。参加者はDMO・DMC関係者、自治体の観光担当者、宿泊・交通事業者に至るまで多岐にわたり、それぞれが抱える地域の課題解決のヒントを得ようとする真剣な眼差しが交錯する。

受付で手渡された資料に目を通しながら、登壇者の情報を確認する参加者たち。「民間主導のDMCはどうやって収益を上げているのか」「渋谷のような多様な街で、どうやって合意形成を?」といった声が周囲から聞こえ、セミナーへの高い期待感がひしひしと伝わってきた。

白熱のプログラム:具体的な内容とハイライト

セミナーは、2つの組織によるプレゼンテーションを軸に展開された。それぞれのアプローチは異なるが、「地域への深い愛情とコミットメント」という共通項が根底に流れていた。

東京山側DMC:「実践」で示す、民間主導の地域創生

最初に登壇した東京山側DMCは、行政に依存せず、民間企業の集合体として高尾・八王子・あきる野エリアの価値創造に取り組む組織だ。その報告は、まさに「実践」の積み重ねから得られた生きたノウハウの連続であった。

特に印象的だったのは、「風土経営」という考え方だ。地域の歴史や文化、自然といった「風土」こそが最大の資源(アセット)であると定義。それを磨き上げ、新たな体験価値として市場に提供し、得られた収益を地域に還元する。このサイクルを4年間、弛むことなく回し続けてきた軌跡は、まさに圧巻の一言に尽きる。

「成果を独占しない」という共創の精神も、東京山側DMCの強みである。現在、彼らが運営する無料のプロ養成講座「地域創生の窓口」では、培ってきたノウハウを惜しみなく公開している。「オールジャパンで連携し、日本のモデルを創る」という力強い言葉に、多くの参加者が頷いていた。

東京山側DMC 宮入氏

渋谷区観光協会:「連携」で紡ぐ、多様性都市のサステナビリティ

続いて登壇した渋谷区観光協会の発表は、多様なステークホルダーを巻き込む「連携の妙」に満ちていた。国際都市SHIBUYAを舞台に、大企業から地域の若者までを巻き込み、街全体のサステナビリティを推進する手腕は、多くの参加者にとって新たな発見となった。

映画『パーフェクトデイズ』と連動し、公共トイレを観光資源へと昇華させた「インクルーシブトイレツアー」。食の多様性に応える「渋谷ビーガンガイド」の発行。落書き問題をアートで解決する「グリーンアート」プロジェクト。いずれの取り組みも、地域の課題をクリエイティブな視点で捉え直し、新たな魅力へと転換している。

そこには、「主役はスポットではなく人」という一貫した哲学があった。多様な人々が交差する渋谷だからこそ、一人ひとりに寄り添い、誰も取り残さない観光の形を模索する。その姿勢が、多くの共感を呼んでいた。

参加者の声と広がる交流

プログラム終了後のネットワーキングタイムは、登壇者を囲む大きな輪がいくつもでき、熱心な質疑応答が続いた。

  • 参加者の声
    • 「『まず民間がトライ&エラーを繰り返す』という言葉が心に刺さった。行政として、そのスピード感をどう支援できるか考えさせられた」(40代・自治体職員)
    • 「渋谷の連携術は、まさに目から鱗だった。トイレというインフラを観光コンテンツにする発想は、我々の地域でも応用できるかもしれない」(50代・DMO職員)
    • 「覚悟を持って『続ける』ことの重要性を改めて学んだ。地道な実践の中にこそ、本物の知恵が生まれるのだと確信した」(30代・ホテル経営者)

会場の至る所で名刺交換が行われ、新たな連携が生まれようとする活気が満ちていた。この交流こそが、本セミナーがもたらした大きな成果の一つであろう。

イベントが示す未来:地域創生への貢献と今後の展望

今回のセミナーが示したのは、持続可能な地域づくりにおける公民の理想的な役割分担である。民間が持つスピード感と実行力で事業を牽引し、行政や観光協会が多様な声に耳を傾け、全体の調整役を担う。この両輪が噛み合うことで、地域は新たなダイナミズムを獲得できる。

東京山側DMCが示した「風土経営」と、渋谷区観光協会が実践する「課題解決型クリエイティビティ」。これらは、人口減少や高齢化といった日本の構造的な課題に直面する多くの地域にとって、進むべき道を照らす灯台となるに違いない。重要なのは、それぞれの地域が持つ本質的な価値を深く掘り下げ、覚悟を持って実践を「続ける」ことである。このセミナーは、その原点を再確認させてくれる貴重な機会であった。

今後の開催情報:「持続可能な観光」基礎講座シリーズ

今回のセミナーの反響を受け、東京都および東京観光財団は、サステナブル・ツーリズムに関する国際基準(GSTC基準)などをより深く学べる「持続可能な観光」基礎講座をシリーズで実施する。都内の観光関連事業者を対象に、基本的な知識から認証制度、人材育成までを網羅する内容だ。

「持続可能な観光」基礎講座 開催概要

  • 第1回
    • 日時: 2025年7月29日 10:00~12:00
    • テーマ: 観光誘客から地域経営へのシフトに必要な地域体制づくり
    • 講師: 東京山側DMC 代表取締役 宮入 正陽 氏
    • ゲスト: 渋谷区観光協会 事務局長 小池 ひろよ 氏
  • 第2回
    • 日時: 2025年9月10日 10:00~12:00
    • テーマ: サステナブル・ツーリズムの実践と旅行事業者の役割
    • 講師: Tricolage 取締役 COO 吉田 史子 氏
  • 第3回
    • 日時: 2025年10月22日 10:00~12:00
    • テーマ: 認証制度と宿泊施設のサステナビリティ
    • 講師: JARTA 代表理事 高山 傑 氏
  • 第4回
    • 日時: 2025年12月4日 10:00~12:00
    • テーマ: 持続可能な観光を支える人材育成
    • 講師: 羅針盤 地域プロデュース事業部 部長 平沢 真実子 氏

募集要項

  • 対象: 東京都内の観光事業者、観光産業に関わっている方
  • 定員: 各回100名(会場30名、オンライン70名)
  • 参加費: 無料
  • 参加方法: 会場またはオンラインでの参加が可能。
    • 第1回会場: WeWork Iceberg(東京都渋谷区神宮前6-12-18)
    • 第2回以降会場: 申込み受付開始時に東京観光財団のウェブサイトにて案内。
  • 申込方法: 下記の専用フォームより申込み。
    • URL: https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfZ5dFxh64FeN-sQA8k82WBjGvCJjrFYWoP6_CZXJ0WZn5Y3A/viewform
  • 申込期間
    • 第2回以降: 各実施日の約1カ月前から申込み受付を開始予定。
    • ※いずれも定員に達し次第、受付を終了する。詳細は東京観光財団のウェブサイトで案内される。

寄稿者:西川佳克(にしかわ・よしかつ)

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