米国Destinations International年次総会@シカゴ
毎年、7月に米国の観光地経営組織(DMOなど)の統括団体であるDestinations International(DI) の年次総会が開催されるが、筆者も米国・シカゴへ飛んだ。現地は蒸し暑いが、日本よりいくらかはしのぎやすかった。シカゴは全米3位の大都市であり、英国旅行ガイド・タイムアウトが先日に発表したZ世代によるZ世代にとっての世界の都市ランキングベスト20において米国ではニューヨークに次ぐ17位にランキングされている(ちなみに1位はバンコック、東京は日本勢で唯一20以内にランクインし14位)。この調査ではナイトライフ、フード、カルチャー、緑化地域へのアクセス、歩行者の快適性や安全性といった指標でランキングされている。https://www.timeout.com/news/the-worlds-best-cities-for-gen-z-to-live-in-according-to-gen-z-081325 また、シカゴは物流や産業の拠点でもある。ANAは毎日2便の旅客便(ボーイング777型機)に加え、貨物専用機(ボーイング777F型機)も就航させている。

筆者の所属するANA総合研究所は、DIの上位会員として一般会員では参加が許されないコアな会議体へのアクセス権も有している。今年の年次総会には世界38カ国・地域から約2,300人が集まった。日頃、それぞれの地域で日々、地域との関係づくりに奔走し、誘客のためのプロダクト開発やブランド力の向上などに努めている関係者にとっては年に1度のお祭りである。

いたるところで再会を喜び合い、また新しく知己を得た仲間と情報交換やネットワーキングを行う場でもある。また、総会に先立ち様々な専門委員会や研修会も開催される。DIはワシントンDCに本部を置く非営利の団体であるが、世界規模の組織として26カ国700以上のメンバーと7,500人以上の専門家からなるコミュニティを形成している。
なお日本においては観光地域経営組織を広くDMOと称しているが、米国のそれは範囲が広くデスティネーション・オーガニゼーションと称し、そのなかの一形態がDMOである。デスティネーション・オーガニゼーションはデスティネーション・マーケティング・オーガニゼーション(DMO)、デスティネーション・マネジメント・オーガニゼーション(同じくDMO)、コンベンション&ビジターズ・ビューロー(CVB)、観光局、スポーツコミッション、映画やメディア作品をデスティネーションに誘致するオフィスなどを包含している。なお本文では、読者の理解を得やすいようにDMOとも記載する。
DIはデスティネーション組織のために様々な情報提供、組織運営のための手法の開発や調査などを行っている。米国におけるデスティネーション・オーガニゼーションの歴史は古く、色々な曲折を経て現在に至っており、米国で初めてデスティネーション・オーガニゼーションの組織が発足したのは、なんと120年前のデトロイトにさかのぼる。詳細は本紙掲載の拙文 https://tms-media.jp/posts/46504/ を参照されたい。当時は経済効果(インパクト)の追求が主目的であったが、120年の歴史を通してその内容は大きく深化している。DIが示す21世紀のデスティネーション・オーガニゼーションとは何か、以下をご覧いただき、そののちに本題に触れていこう。

DESTINATION NEXT 2025 FUTURES STUDY~次世代DMOのための戦略的ロードマップ~
そして今年の総会でもっとも注目を浴びたのがDESTINATION NEXT 2025 FUTURES STUDYの発表であった。これは、世界のデスティネーション組織が直面する変革の時代を詳細に分析した調査報告書である。英文ではあるがご一読をお勧めしたい。

https://destinationsinternational.org/reports/destinationnext-futures-study
DI財団の助成のもと、カナダのMMGY NextFactor社がまとめている。ちなみに同社とANA総合研究所は共同で事業も行っている。

この調査は2014年にはじめて行われ、その後2017、2019、2021、2023年と2年おきに実施され発表されている。これまでの調査では、デスティネーション組織の役割を明確に捉えており、どのような変遷を経てきたかも興味深い。我が国におけるDMOの在り方の参考になると思われる。
初版となる2014年では伝統的なデスティネーション・マーケティングからデスティネーション・マネジメントを統合した広範なアプローチへの進化に焦点を当て、純粋なプロモーションから経済開発、ブランディング、テクノロジーを横断するコネクターとしての役割が見出された。
2017年版ではセールス・マーケティング、デスティネーション・マネジメント、パートナー主導のビジネスモデルとして再構築し、デスティネーション組織は単なるマーケッターではなく、プロダクト開発、 コミュニティーの主催者(召集者)であるべきとうたった。
2019年版では、デスティネーション・スチュワードシップ、コミュニティ、デジタル変革を中核に据え、コミュニティをより良い方向に導くスチュワード・シップ(支援しともに歩む・導くという意)が初めて語られ、デスティネーション組織は地域と住民の守護者として位置付けられた。最近、我が国の観光産業界でも語られはじめたスチュワード・シップであるが、米国では2019年にはお目見えしている。
2021年版においてはパンデミックで混乱した状況下において、デスティネーションの整合、持続可能な開発、価値ベースのマーケティングを推進し、公平性、多様性、包摂性および気候変動も視野に、誘客戦略を住民のQOLと環境に結び付けた。
2023年版においては訪問者エンゲージメント、パートナーサポート、コミュニティの整合、デスティネーション開発といった広範な役割を示し、デスティネーション組織は戦略的なコミュニティー・リーダーかつパートナーと位置づけた。同時に人口知能とデータ・ドリブン型の意思決定も強調した。
2025年版報告書 調査について
それでは2025年版を見ていこう。同年版は36カ国、537名が参加した調査にもとづいている。グローバル・アドバイザリー・コミッティー(グローバル諮問委員会)、5つの対象を絞ったパネル(コミュニティ、産業、業界外部、顧客、投資・開発事業者)、世界中のデスティネーションの専門家への調査を通じて得られた知見に基づいている。なお筆者もグローバル・アドバイザリー・コミッティーのメンバーとしてこの調査に参画し、また産業パネルのインタビューも受けている。また、後述するが、この報告で示されたデスティネーション組織の戦略、役割やKPIsは、わが国のDMOにとっても参考になるのではないだろうか。本文最後にDIの依頼にもとづき筆者にて翻訳したサーベイ(調査票・日本語版)の一部をつけておく。この設問をご覧いただくだけでも米国のデスティネーション組織の取り組みを垣間見ることができると思う。

デスティネーション開発の定義(戦略的必須事項の明確化)
報告書では、改めてデスティネーション開発の定義を示している。背景は普遍的に受け入れられている定義があいまいであったためである。この明確さの欠如が利害関係者の連携、イニシアチブの優先順位付け、および成果の検証に際し、課題が生じてきた。よってこの報告書では、デスティネーション開発を明確に定義し、ビジター経済のさまざまな成長段階での関連性を概説することにより、このあいまいさを解決することを目的としている。すなわち、デスティネーション開発とは、卓越した訪問者体験を提供し、地元のプライドを育み、コミュニティと経済の活力を促進するために、場所を形成し、強化する戦略的な芸術であるとしている。
活気に満ちた回復力のあるデスティネーションを構築するためには、創造的なプレイスメイキング、有意義なコミュニティ・コラボレーションおよび革新的な観光投資を優先することである。また、デスティネーションとしてビジター経済の供給側を強化し、進化させることが根本であるとしている。これには訪問者をより良く引き付け、受け入れるために、観光関連の資産、インフラ、体験およびサービスを戦略的に計画、開発および改善することを含んでいる。
既存のアトラクションのプロモーションに主に焦点を当てる伝統的なデスティネーション・マーケティングとは異なり、デスティネーション開発は、デスティネーションを望ましく、競争力のあるものにする条件をまず生み出していくことに焦点を当てた積極的なものであり、デスティネーション開発における鍵となる取り組みとして具体的に以下をあげている。
- 地方自治体、出資者、ディベロッパー、コミュニティグループなどの利害関係者とのパートナーシップ構築。
- 持続可能な成長を導くためのデスティネーション・マスタープラン策定を主導すること。
- 観光インフラへの投資を促進するための支援政策と資金調達の擁護。
- プロダクト開発とビジネスモデルの策定について、地元企業や業界の利害関係者を教育すること。
- 地域文化と資産を反映した、本物で高品質な体験の創造と強化の促進。
- 航空サービス(路線の誘致・増便など)開発の支援。
さらにデスティネーション開発戦略は、デスティネーションがその成長の道筋のどこにいるか(しばしば「デスティネーションライフサイクル」として説明される)によって大きく異なることを理解することが不可欠としている。ライフサイクルフレームワークは、デスティネーションの成長を段階的に説明している。
- 探検(Exploration)フェーズ: 観光インフラが最小限の初期段階のデスティネーション。このフェースでは、デスティネーション開発は通常、初期の計画、研究、および基礎的なインフラ開発に焦点を当てている
- 関与(Invovement)フェーズ: 訪問者の関心が高まっているデスティネーションは、将来の成長を支援するために、投資の誘致、基本的なインフラの強化、およびコミュニティの関与の強化を図りはじめる。
- 開発(Developent)フェーズ:デスティネーションは、より多くの訪問者を持続可能に受け入れるために、訪問者体験の深化と多様化、施設、イベント、およびアメニティへの積極的な投資を優先する。
- 統合と成熟(Conslidation and Maturity)フェーズ: より開発されたデスティネーションは、オーバートゥーリズムの課題への対処、訪問者体験の洗練、および長期的な持続可能性とスチュワードシップの強化に焦点をシフトする。
概念図 デスティネーション開発の推移

*Stagnation(停滞)、Rejuveneration(再活性化)、Prolonged stagnation(長期停滞)、Decline(衰退)
主要な調査結果(1)~鍵となる事象~
前述のとおりグローバル試問委員会、5つのパネル、世界の専門家を対象としたサーベイからの意見にもとづき将来を形作る、8つの重要な力(地政学的不安定性や労働力不足、成功(評価)の再定義、AIの加速度的影響など)や役割(現在と未来)、KPIの在り方や、トップ25のトレンドと戦略などを示している。以下は調査で明らかになった鍵となる事象である。
資金削減のリスク:回答者の42%が、今後3年以内に資金提供が削減されるリスクがあると回答しており、アドボカシー活動(関係者との合意形成)の重要性が高まっている。
デスティネーション開発が重要な役割へ: 84%の組織がデスティネーション開発に積極的に関与しており、これは従来のマーケティングを超えた中核的な役割として確立されつつある。報告書では、「デスティネーション開発」を、地域社会と経済を活性化するために場所を戦略的に形成する芸術と定義している。
AIと進化する旅行者の行動: 生成AIの台頭はマーケティングを変革し、組織がより本物でデータに基づいた、パーソナライズされた戦略を採用すべきである。
デスティネーション組織の再構築の必要性:デスティネーション組織はすでに大幅に拡大された役割を担っているが、新たな業務能力や、セクター間のより深い連携、役割に沿った構造改革を求められている。
成功の再定義: 成功の尺度は、単なる宿泊客数や経済的影響といった伝統的なKPIから、住民感情、コミュニティの利益、環境の持続可能性、来訪者数や消費額よりむしろ来訪者満足度などの社会的インパクトを示すKPIへシフトしている。
主要な調査結果(2)~将来を形成する8つの力~
1.アドボカシー(利害関係者との合意形成)とインパクト(観光が示す価値)を通じた投資の確保: 公的資金の脆弱性に対抗するため、政府の利害関係者との関係を強化し、観光を地域社会の共有価値(雇用・税収・中小企業の成長、および地域社会の幸福と利益をもたらす産業)として位置付け、政府や住民への積極的な擁護活動を行う。
2.経済的・地政学的な不確実性を乗り越える: 経済の変動や地政学的な緊張に対応するため、柔軟な戦略と適応性をコア能力とする。とくに状況に応じた短期的かつ柔軟なシナリオベースの戦略策定や、微弱な兆候を察知しデータや、地域のもつ知見などを駆使し変化が押し寄せる前に対応できる能力を有すること。また安全や健康、セキュリティはブランド価値における優先されるべき事項となっている。
3.変化する期待に応えるための組織と能力の規模拡大: 組織の役割は大きく拡大している。現在では24の本質的な役割が組織に求められている(2017年調査では11)。ガバナンスを強化し、部門横断的な協力やデータドリブン型の計画を可能にする組織能力を構築することが求められている。
4.人々と繁栄のための場所を形成する(プレイスメイキング): 今日の役割では、訪問者と住民の両方に提供できる活気がありインクルーシブかつ本物の場所を提供することも求められている。たとえばダウンタウンの活性化や文化的な体験の創出を通じて、住民と訪問者の両方にとって魅力的で包括的な場所を積極的に形成する。
5.AIと本物をもとめる時代におけるデスティネーション・マーケティングの再考: AIをマーケティングの協力者として活用しつつ、信頼性を高めるために透明性を確保し、本物の体験を強調する。
6.意図的なイベント戦略(地域ブランドに合致したイベント)によるインパクトの推進: イベントを単なる訪問者誘致の手段ではなく、地域のアイデンティティ、投資、および長期的な社会経済的利益を促進する戦略的ツールとして利用する。イベントを誘致できるか? ではなく誘致すべきか? が問われている。
7.再生の促進と地域社会における長期的なリジリエンスを構築する: 気候変動やオーバーツーリズムに対応するため、経済的、社会的、環境的価値を包含する再生型観光に焦点を当てる。伝統的な効果測定から住民感情調査や環境健全度、文化活性化、長期的な経済インパクトといった指標も重要となる。
8.将来に備えた業界の労働力と組織を構築する: 労働力不足、住宅危機、および世代間のシフトに対処するため、キャリアパスとしての観光を促進し、包括的な職場文化を育む。
主要な調査結果(3)~組織の役割~
マーケッターから多元的なリーダーへ。2025現在と将来(3年後)の予測
デスティネーション・マーケティングとプロモーションは、依然として岩盤である。デスティネーション組織が現在担っている役割のトップにランクされており、3年後もそうであると予測されている。しかし、その中核機能を取り巻くものは劇的に変化している。ブランド・マネジメント、ビジター・サービス、ミーティング・セールスといった伝統的な役割は依然として不可欠である。2028年までにデスティネーション組織が果たすべき「理想的な役割」のトップ10には、データやビジネス・インテリジェンス、政府との関係、商品開発、地域社会との連携、より広範な経済開発など、すべてがランクインしている。
特に注目すべきは、これらの役割の多様化と成熟である。例えば、公平性、多様性、インクルージョン(DEI)のリーダーシップ、環境スチュワードシップ、人材開発、危機管理は、もはや周辺的なものとは見なされなくなっている。それらは、デスティネーション組織がどのように運営し、リードをしていくかにとって、ますます不可欠なものとなってきている。航空サービス開発(路線の誘致や増便)、安全衛生コミュニケーション、さらには映画産業開発などの役割は、組織がより広い範囲にまたがる招集者として自らを位置付けるにつれて、より一般的になりつつある。

主要な調査結果(4)~KPIs・より広範な任務における成功の再定義~
デスティネーション組織が進化するにつれ、その成功を判断する指標も進化しなければならない。経済効果、宿泊客数、宿泊数といった従来のKPIは、依然としてリストの上位に位置するが、それだけではもはや十分ではない。この調査では、よりバランスの取れた多角的な測定アプローチへの明確なシフトを示している。来場者の満足度、ステークホルダー・エンゲージメント、マーケティングROI、パートナーの満足度といった指標は、引き続き重視されている。しかし、将来を見据えた組織は、住民の感情、地域社会の利益、長期的なイベントの遺産、環境への影響、DEIの成果といった指標をより重視している。
これらは単なる「ソフト」な指標ではなく、デスティネーション組織が地域社会やパートナーのために創造することが期待されているもので、より広範な価値を反映している。重要なのは、こうしたKPIの重要性の高まりが、考え方の転換を示唆していることである。成功は、もはや量や知名度だけで測られるものではなく、共有の繁栄、社会的結束、長期的なレジリエンス(回復力)で測られるようになった。KPIは、単に説明責任を果たすだけでなく、組織が複雑なトレードオフを乗り越えて、コミュニティの優先事項や価値観を反映した活動を行えるようにする、アライメントのためのツールとなりつつある。

主要な調査結果(5)~業界への影響~
この役割と成功尺度のシフトは、デスティネーション組織の将来にとって、次の3つの重要な意味を持つ。
1) 組織モデルは進化しなければならない。
新しい能力は新しい構造を必要とする。チームの再編成、スキルアップ、または機能横断的な統合のいずれを通じ ても、目的地組織は、俊敏性、複雑性、コラボレーションを実現するように設計されなければならない。
2) ガバナンスとステークホルダーの連携は、これまで以上に重要である。
役割が拡大するにつれて、明確さも必要になってくる。理事会、資金提供者、地域パートナーは、組織が何をするのか、そしてその理由を理解する必要がある。強力なガバナンス・モデルと透明性のある報告は、信用と信頼の構築に役立つ。
3) 成功の定義は共有されなければならない。
デスティネーション組織だけが、その基準を設定することはできない。地域社会、パートナー、政府は、成功がどのようなものかを共有し、それを達成するために必要な資源や政策を支援しなければならない。
デスティネーション・オーガニゼーションは、より多くのことを引き受け、より多くのものを提供することで、ビジター・エコノミーをリードすることの意味を再構築している。将来は、誰が最も多くの観光客を呼び込むかによってのみ定義されるのではなく、人々、場所、そして地球にとって最大の価値を生み出すかどうかで決まるのだ。
主要な調査結果(6)~TOP25のトレンド~
( )内の数字は、前回2023年調査時の順位、NEWは本調査で新規にランクイン
1 (NEW). 観光産業は、経済効果を拡大するために、政府からの支持と認識を高める必要がある。
2 (NEW). 業界のリーダーには、従来の経済指標を超えた多面的なKPIが必要であり、業界の経済的、社会的、環境的価値を効果的に測定し、伝える必要がある。
3(5). 産業界、地域社会、政府の連携強化がデスティネーションの競争力とブランドを高める。
4(NEW). 国内観光と地域観光が、デスティネーションの回復力と成長の重要な原動力となりつつある。
5(6). デスティネーションの整合性を維持するためには、住民感情と地域社会の関与が重要である。
6(NEW). ダウンタウンの将来的な魅力は、住民、労働者、観光客を魅了する活気ある多目的体験地区への進化にかかっている。
7(NEW). デスティネーション組織は、その役割と責任が進化し続ける中で、理事会と利害関係者の期待を積極的に管理しなければならない。
8(2). 似通った、または標準化された観光サービスがデスティネーションのブランド価値と訪問者の愛着を脅かすため、真正性と独自性を維持することが重要になってきている。
9(NEW). 地政学的緊張とナショナリズムが世界の旅行の流れを急速に変化させている。
10(4). デスティネーションは、単に量の増加を追求するのではなく、より大きな経済的、文化的、環境的価値をもたらす訪問者を優先している。
11(7). 業界は、熟練労働者の不足、労働パイプライン、世代間の職場シフトに対処しなければならない。
12(3). 地域社会は、地元住民と訪問者のために、デスティネーション、商品、体験の開発にもっと関与することを期待している。
13(NEW). デスティネーション組織は、リソースを活用するために、複数の経済セクターにまたがる戦略的提携をますます発展させている。
14(25). デスティネーション組織は、ビジター市場の短期的・長期的な多様化のために、スポーツツーリズムや大規模な文化イベントへの注力を強めている。
15(NEW). デスティネーションの資金調達に対する公的な監視の目が厳しくなり、政府からの割り当てや産業界が生み出す税金や賦課金が流用されるリスクが高まっている。
16(NEW). 生成AIの台頭が従来のデスティネーション・マーケティング・モデルを破壊する。
17(NEW). デスティネーション組織は、この世代の増大する消費力を取り込むために、市場アプローチを進化させ多様化することで、若い旅行者の嗜好(しこう)に適応しなければならない。
18(14). デスティネーションのストーリーテリングは、訪問者や地元のクリエイターによってますます形作られるようになり、従来のDMOがブランド・ナラティブに対して持っていた支配力が低下する。
19(21). デスティネーションは、あらゆる能力を持つ旅行者のためのアクセシビリティの向上に注力している。
20(NEW). 国際的な旅行パターンの変化により、デスティネーションは市場アプローチの多様化と適応を求められている。
21(37). デスティネーション間の競争により、ビジネスイベント、文化イベント、スポーツツーリズムに対するインセンティブや補助金が増加している。
22(34).住宅危機が観光産業における労働力の確保を圧迫している。
23(42). リモートワークによる、より頻繁に、より長く、より融合した旅行体験が可能になることから、「いつでもどこでも旅行者」が台頭し、ビジネスとレジャーの境界線があいまいになりつつある。
24(4). 観光地は、経済的、社会的、環境的影響を含む、より広範な持続可能性/再生に注目している。
25(32). 高まる社会的課題と目に見える都市問題は、旅行者の認識を損ない、デスティネーション・ブランドの完全性と経済成長の両方を弱めている。
主要な調査結果(7)~TOP25の戦略~
( )内の数字は、前回2023年調査時の順位、NEWは本調査で新規にランクイン
1(4).地域の目標、価値観、創造的エネルギーに根ざしたデスティネーション・ブランドを開発し、顧客に本物の体験を提供する。
2(17). 政府との関係を強化することにより、デスティネーションの合意形成を主導し、支援政策を形成する。
3(18). 地域コミュニティとの関わりを強化し、ビジター経済への持続可能な支援を構築する。
4(1). 既存の収入源を守るとともに、多様な財源を模索し、財政の安定性を維持・拡大する。
5(3). 観光と経済発展の整合性を高める。
6(6). 商品開発イニシアチブを統合しながら、長期的な戦略を定義する包括的なデスティネーション・マスタープランを策定し、主導する。
7(16). 持続可能な観光経済がもたらす経済的・社会的影響を測定・強化するため、多角的なデータに基づくKPIを設定する。
8(43). ビジネス・インテリジェンスや、マーケッティング、コミュニティ参画を強化するために、データ管理能力と生成AIを含む革新的技術を活用する。
9(NEW). さまざまな潜在的な未来や混乱に適応できる柔軟なイニシアチブを持つ戦略を開発することにより、適応性を受け入れる。
10(14). デスティネーション・ブランドを高め、観光客を引きつけ、地域経済を支える新たなイベントを開発・支援する。
11(10). 訪問者の体験を住民の生活の質や地域社会との関連性と一致させるために、組織の権限を拡大する。
12(12). 熟練した、やる気のある、忠実な労働力の構築と維持への投資を拡大し、組織の人材を強化する。
13(26). 理事会の役割、育成、ガバナンスの明確化
14(25). デスティネーション全域において、あらゆる能力を持つ人々のアクセシビリティを向上させるイニシアチブを主導する。
15(21). 地域のスポーツ観光市場を発展させる取り組みを強化する。
16(20). 業界の労働力不足に対処するため、観光をキャリアパスとして推進するイニシアティブを主導する。
17(19). 地域の重点経済セクターを活用し、ビジネスイベントを創出する。
18(29). 自然環境の保護・維持に役立つ持続可能な観光アクティビティの開発・実施。
19(28). 地域の芸術・文化団体への支援拡大。
20(37). ビジネスイベント、文化イベント、スポーツ観光を誘致するためのインセンティブの利用拡大。
21(NEW). 主要イベントをホストする体制の評価と強化。
22(42). (バケーションレンタルやAirbnbなど)短期レンタルを含む規制遵守の改善を支援する。
23(24). 地元の中小企業やコミュニティ・グループに対する支援と促進を強化することにより、近隣地域の発展を促進する。
24(34). 戦略的配慮事項として、安全、健康、セキュリティに細心の注意を払う。
25(40). より包括的な危機管理戦略の策定。
最後に
世界のデスティネーション組織は課題と目覚ましい機会の両方に直面しているが、この調査報告は、世界のビジター経済が変革とともに新しい時代に入っていくことを示唆している。また、生成AIの急速な技術進歩はわれわれが生活し、働き、旅行する方法をも変えている。こうしたダイナミクスが、デスティネーション組織をさらに不可欠なものにしている。そして地域経済を支え、人々を結びつけ、イノベーションを育み地域社会の生活の質を高めている。この調査報告は、こうしたデスティネーション組織のリーダーたちが、将来を形成する情報に基づいた意思決定を行う戦略的ツールとして重要であり、あわせて我が国の観光協会やDMOで観光地域経営を担う人々の参考になればと思う。この調査に参画できたことは筆者にとっても得難い体験となった。
関連行事を含む総会の4日間は過密スケジュールで朝から夕刻まで会議場に缶詰であったが、早朝のミシガン湖畔の心地よい空気と青い空は長旅と会議の疲労を吹き飛ばしてくれた。総会終了後、シカゴに駐在しているANAの同僚に案内してもらったウイスキー蒸留所で買い求めたアメリカン・バーボンウイスキーを舐めるとシカゴの景色がよみがえる。来年の総会はオレゴン州のポートランドで開催される。

補足 Futures Study 設問 日本語 (抜粋)



以上。
※メインビジュアルは、Starbuks Reserve Roastery Chicagoスターバックス・シカゴ焙煎所。同社の世界で6か所のみの焙煎設備をもつ旗艦店にて(筆者撮影)
寄稿者 中村慎一(なかむら・しんいち)㈱ANA総合研究所主席研究員