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ボーダーツーリズム(国境観光) 第22章 離島医療(2)

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日本国内の国境・境界地域に位置する島々の皆さんがコロナウイルスパンデミック(コロナ禍)にどのように対応し乗り切ろうとしたか。前回は対馬市について書きましたが、今回は他の国境離島の話です。

境界地域ネットワークJAPAN(JIBSN)

最初に、境界地域ネットワークJAPAN(JIBSN)をご紹介します。JIBSNは、日本の各境界地域の抱えるさまざまな課題に対処し、境界地域活性化、発展に寄与するために実務者と研究者との意見交換の場として機能しています。2011年11月の設立以来、数多くのセミナーを境界地域で開催し、エクスカーションを実施しており、私も2017年から時間が許す限り参加しています。

その現地エクスカーションもコロナ禍で中止となった2021年1月23日、オンラインセミナーとして「境界地域と感染症」が開催されました。JIBSNに参加している市町村の首長さんたちからのコロナ対策の報告を聞く貴重な機会となりました。

境界地域ネットワークJAPAN(JIBSN) http://borderlands.or.jp/jibsn/

花の浮島・礼文町

フェリーから望む利尻富士
フェリーから望む利尻富士

第10章でもご紹介した礼文島。日本最北端は、稚内市宗谷岬から約1km北にある無人島弁天島なのですが、弁天島の約1.8㎞南に位置するのが礼文島最北端のスコトン岬です。晴れた日にはサハリンも見え、日本最北端ではありませんが、前礼文町長の小野さんの言葉をお借りすれば「自由に活動できる最北端の島」です。

産業の中心は漁業と観光。タラ・ホッケ・ウニ・昆布などを獲る漁業は人口減少・流出によって担い手は減り、咲き誇る高山植物が魅力的な観光です。しかし、来島する観光客はピーク時の年間30万名からコロナ禍前には約12万人に減っています。

礼文島には農業、畜産・酪農業がないのでお米・野菜・肉などは道内各地から、観光客もフェリーに乗って運ばれてきます。フェリーは人流・物流の要なのです。

花の浮島でのコロナ禍

前述のオンラインセミナーで、礼文町の小野(前)町長から同町のコロナ禍の報告を聞きました。2020年4月16日、日本政府が第1回目の緊急事態宣言を全国に拡大したことに合わせて礼文町は島への「渡島自粛」のお願い、島民にもは「外出自粛」のお願いを発信しました。

当時、礼文町での感染者は「0」でしたが、島内には第2種感染症の病床を持つ病院はありません。感染者が出た場合は、稚内市までヘリコプターで運ぶしか手段がなくクラスターの発生は絶対に防がなくてはならないという離島共通の課題がありました。稚内とを結ぶフェリーが長期運休することはありませんでしたが、人流は途絶え、観光最盛期の全てのイベントは中止となりました。また、ホッケ漁も観光客が来なければ単価は下がり、売上は上がりません。とは言え、島民を感染から守ることを最優先にしてコロナ禍を乗り切っていったのです。

JIBSNのセミナーはコロナ禍が始まって1年が経過した時点で開催されました。この時点でも礼文町でのコロナ感染者「0」でしたが、道内全域では約16,000人、礼文町や稚内市など10市町村から成る宗谷地方での感染者は107名になっていました。礼文町は2021年8月に最初の感染者が確認されたようですが、島内住民ではありませんでした。しっかりバブルで守ろうとしましたが、前回報告した対馬同様、バブルは破れたのです。

花の浮島・礼文町の観光の取組み

今年8月に礼文町町役場の職員とリモートで話し合う機会がありました。今夏の観光はコロナ禍前に戻ったようでした。しかし、良かった!ではすまないのです。

前述の通り、来島する観光客はピーク時の40%に減っています。花の浮島でアピールできる時期は5月~9月。その期間を前後に少しでも延ばすことが課題で町も取組んでいます。フェリーや航空便が1年中安定的に運航されるための前提条件でもあります。それは私がANAグループで旅行業に携わっていた時と変わらぬ難しい課題ですが、季節を問わないボーダーツーリズムが少しでもお役に立てるよう取組んでいきたいと思っています。

小笠原村

一番近い父島でさえ約1,000km。沖ノ鳥島までは約1,700kmと東京と石垣島と同じ距離にある小笠原は、東京から小笠原丸で約1日かかることは周知の通りです。

小笠原村もJIBSNの会員です。「小笠原が国境離島?」内閣府が指定する有人国境離島148島の内の1つです。父島、母島を中心とした小さな島々ですが、日本の国土の約12倍の広さがあり、世界第6位の広さがある日本の排他的経済水域(約447万k㎡)の1/4を小笠原諸島が占めていることは余り知られていません。

私は船が大の苦手なこともあり、小笠原に行ったことがないので、詳しい話は書けませんが、JIBSNのセミナーで聞くことができた渋谷村長のお話を紹介します。

小笠原のコロナ禍

小笠原村の人口は約2,500人。医師は3名、看護師は1名いますが、感染症への対応はできません。コロナ陽性者が入島したら真に非常事態です。唯一の入島手段である東京と結ぶ「おがさわら丸」の島外からの観光乗船客数は2019年約20,000名でしたが、コロナ禍により「おがさわら丸」の定員を減らし、島民には「上京自粛」を求めました。2020年4月の乗船客数は159名、5月は7名とほぼ交流が止まり、2000年合計では約9,400人と半減しました。

来島者には竹芝桟橋でのPCR検査を徹底しましたが、8月に帰島した住民が陽性と確認され、バブルは破れました。その後、小笠原村では陽性者用の滞在施設を借上げたり、苦労の連続だったようです。

「おがさわら丸」の乗船客数は2021年には約13,000名に増え、2023年に渋谷村長が設定した「小笠原村観光振興ビジョン」に基づき行動をしているようです。

「 Ogasawara SMILE Tourism(スマイルツーリズム)と名付けられたビジョンの中心は訪れる人、観光振興に携わる人、自然を守り育む人、そして住民です。小笠原での体験が忘れられずに移住して村役場での仕事を続けてきた渋谷村長ならではのビジョンです。

竹富町で開催されたJIBSNセミナー後の懇親会では舞台に一緒に上がり、音頭をとる渋谷村長と小笠原の“島おどり”を踊ったことは良き思い出です。いつかよく効く酔い止め薬を捜して小笠原へ行きたいと思います。

次のパンデミックに備えて

コロナ禍で第2種感染症の病床を持つ病院ができたという話は聞いていませんが、3年ぶりに対面で開催された2022年のJIBSN竹富セミナーでは、コロナ禍に対する国境離島の脆弱さを嘆くだけではなく工夫を重ねた各離島の対応策の報告もあり、感銘を受けました。

礼文町は既存診療所の敷地内に感染症対応住宅を建設し、長崎県五島市はこれからの離島医療体制のモデルとも期待される医療品・食品・日用品のドローンで配送する仕組みを作りました。

離島は通常医療も大変なのです。日本最南端波照間島の妊婦さんは定期検診も船で約70分の石垣島まで行き、臨月の前には石垣島へ行き出産に備えるのとのこと。費用はすべて島の負担とは言え、島での出産は大変なのです。

波照間島・診療所
波照間島・診療所

観光は楽しく、経済効果も期待されています。素晴らしい観光資源がある国境離島ですが、住民の暮らしを知ると観光についての視点も変わります。産業は、経済効果だけでなく社会的な意義があるからこそ存在し、期待されます。

パンデミックや大地震などの自然災害などのイベントリスクで大きな影響を受ける観光産業ですが、大きな代償を払った経験を活かして、次の備えを地方自治体ともに作り上げて行く中心になって欲しいと思います。

冒頭の写真は、礼文島の海の玄関口「香深港」の風景です。

(これまでの寄稿は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=17

寄稿者 伊豆芳人(いず・よしひと) ボーダーツーリズム推進協議会会長

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