観光は、人と人とのつながりが成功に導くと言われる。

そのため、すそ野が広く正解がない産業だ。地域には、そのような観光振興、観光に従事されている方々が数多い。
そのひとり一人をご紹介するシリーズ『人と人がつなぐ観光』をスタートする。第1回目は、新潟県田上町「道の駅たがみ」駅長、馬場大輔さんだ。地元に戻り、さまざまな仕掛けで町を盛り上げる姿を紹介する。
県民にも知名度を上げるには・・・
新潟県の県央に位置する田上町は、新潟市に隣接する。そして、湯田上温泉を保有し、近隣住民の憩いの場所となっている。日帰りや宿泊のお客様でにぎわう。その田上町の「道の駅たがみ」を中心としたイベントが、「たがみバンブーブー」。9月13日から1か月間、開催されている。
当サイトでも既報の通り、新潟県の公式観光サイト「にいがた観光ナビ」にも掲載されている。
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(公式観光サイトの一押しは、竹を使って、もっと楽しく、驚きを!~たがみバンブーブー~)
田上町は、孟宗竹の竹林が約17haも存在する全国有数の竹の名産地である。

観賞用の竹と食用の竹が同居する産地は、全国でも稀有のものである。時季になると、町内の旅館などで、タケノコ料理が供される。しかし、最近は、人口減少によって、竹林が放置されたり、そのまま廃棄されることも多い。そのため、竹の有効活用が最大の課題となっている。
道の駅たがみ駅長・馬場さんは、「この竹を町の価値として、次世代につなぐ」ために立ち上がった。前職は、越後の豪農「伊藤家」の旧大邸宅を保存する「北方文化博物館」だ。ここで、郷土芸能の神楽舞をイベントとして活動。地域コミュニティをつなぐための文化継承を始めた。そして、生まれ育った田上町を誇りに思い、新しい価値を創造することを決意した。道の駅たがみの立ち上げを知り、故郷に戻った。
宝物に光を当てよう

この町の宝である「竹」にどのようにしたら光が当たるのであろうか。自身も所属する商工会のメンバーに声をかけて、プロジェクトチームを結成した。タケノコ栽培農園や田上町役場、地域おこし協力隊などの若手メンバーが動いた。自ら汗をかいて、準備期間3か月という短い期間で実施に至る。2022年10月、竹あかりのイベントは実現した。
観光イベントは、地域住民が置き去りにして実施されることが少なくない。しかし、地域の方々が竹の伐採に協力し、自分ごととして関わることに意義があった。住民と観光客が双方の思いを融合すれば、オーバーツーリズムは起こらない。
そして、地域の宝物である竹の知名度を高める結果となる。誰もが「俺たちの町には、タケノコがある」と言わしめる価値を生み出した。
2025年、たがみバンブーブーは、4回目を迎えた。初年度2.4万人だった入場者数は、昨年4万人を超えた。しかし、収益事業としてはトントン。単年度で黒字化させることが、継続させる原動力になると語っていた。今年は、どれだけのお客様がやってくるだろうか。
課題は満載、一つずつクリアしていこう
筆者は、前職時代の2008年から3年間、新潟に赴任していた。湯田上温泉の旅館さんとは、仕事上、大変お世話になっていた。そのため、田上のタケノコは既知の情報だった。また、昨今、全国各地で竹あかりを活用したイベントも花盛りである。特に大消費地近隣のイベントは、集客力も大きく、年を追うごとに集客が拡大している。

これまで、ホタルなどの自然相手の観光コンテンツは、旅行商品としても人気を博してきた。しかし、「一度見ればよい」と、リピートさせることが難しいものでもある。また、温泉に浸かり、夕食を取った後に外出するのは、ためらいもある。
そのため、夕暮れ以降のイベントは、宿泊客にとってマイナスイメージにつながる。
一方、メイン会場「たがみバンブーブー・竹林」は、大きな駐車場を造ることも難しい。自然環境の破壊は、地域住民には受け入れられない。そのため、道の駅から竹林への無料シャトルバスや温泉からのバス輸送なども展開している。しかし、近隣は住宅地であるため、地域住民との接点も多い。当初から立ち上げに住民参加が進んでいるので、一定の理解を得ていると考えられる。お客様に足を運んでもらい、県全体の宝となれば、二重三重の同心円ができあがることだろう。
手作り感満載のメイン会場「竹林」
さて、長々とイベントの在り方などをつづってきたが、メイン会場の「竹林」について、触れてみることにする。

向島の牛島神社と同じアーティストの作品だ
今年の竹林アートは、4名のアーティストが場所を仕切って、作品を創造しているという。ライトアップやイルミネーション、プロジェクションマッピングと多岐に渡る。自然環境そのままに中に入ると、竹で造られたドームの中にいるような感覚になる。
また、夜だけでなく、週末限定のロープアスレチックや朝ヨガ、音楽ライブも開催されるようだ。竹林内にサウナを作り、整っていただく企画もある。これらのアイテムは、年々広がりを見せている。
いずれにせよ、一か月間という長丁場イベントは、告知力によって集客が左右する。それ故、週末型の遠隔地観光客だけでなく、平日に来訪できる周辺住民の方々にも周知することが大切である。
あらゆる手法にチャレンジし、より多くのお客様が来訪し、体感してほしいイベントである。
新潟県は、域内に旅行する率が高い地域である。継続することも重要なことであるが、同心円を広げ、県内需要の獲得も「つなぐ」ことになると考える。
次年度もきちんと実施されることを望むと同時に、最終日10月13日まで無事に実施されることをお祈りしたい。
撮影:2025年9月15日

(これまでの特集記事は、こちらから) https://tms-media.jp/contributor/detail/?id=8
取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長