一般社団法人天王洲・キャナルサイド活性化協会は、観光地域づくり法人(DMO)として、天王洲アイルの観光振興と地域活性化を推進しています。設立以来、行政・企業・大学・地域住民を結びつける「コーディネーター」として、まちの活性化を目指して活動しています。前回は、産学連携を軸とした持続可能な観光モデルの構築についてご紹介しました。今回は、「水辺とアートの街」というブランドのもとに進められてきた、アートを核としたまちづくりを振り返ります。
水辺とアートが織りなす都市景観
天王洲アイルの最大の特長は、「水辺とアートが融合した都市空間」にあります。周囲を運河に囲まれた立地は、開放感あふれる景観とリゾート感を兼ね備え、訪れる人々に非日常の雰囲気を提供します。その空間に点在するパブリックアートや壁画は、街を歩く人々に自然なアート体験をもたらし、まちを一つのミュージアムへと変えています。
特に、建物の壁面を巨大なキャンバスに見立てたウォールアートは、天王洲アイルを象徴する風景のひとつとなりました。従来の美術館やギャラリーの枠を超え、日常の中で芸術を体感できるこの景観は、他の都市にはない独自の魅力を放っています。運河沿いのボードウォークを歩けば、四季折々の景色とともにアートを楽しむことができ、まち全体が「アートを鑑賞できる空間」として存在しているのです。

日常と非日常をつなぐアート体験
天王洲のアートは、観光資源という枠を超え、地域の日常に溶け込んでいます。オフィスワーカーは通勤や昼休みの合間に壁画を眺め、住民は散歩やジョギングの途中でアートを楽しめます。こうした「非日常」が生活の一部となった風景は、地域の人々に誇りや愛着を育み、訪れる人には新たな発見を届ける存在です。壁画やパブリックアートは、まちの魅力を常に発信し続け、通年でにぎわいを感じられる空間をつくり出しています。
さらに、季節ごとの華やぎを演出する「天王洲キャナルフェス」では、イベントならではの高揚感が味わえます。通年楽しめるアートの魅力と、季節ごとに表情を変えるイベント。この二つが合わさることで、天王洲アイルは、訪れるたびに新鮮な魅力を感じられるまちとなっています。

産学連携とテクノロジーの融合
さらに、天王洲アイルの大きな強みは「アートとテクノロジーの融合」にあります。パナソニックグループの協力で導入された観光DXの取り組みにより、アバターガイドやARフォトといったデジタル技術を活用したコンテンツは、アート鑑賞をよりインタラクティブな体験へと進化させました。訪れる人々は、作品を「見る」だけでなく、その場で体験し、参加できる楽しさを味わえます。
また、跡見学園女子大学と連携した「天王洲アートクルーズ」では、学生によるリアルガイドと、観光DXを駆使した多言語対応のデジタルアバター解説を組み合わせた「ハイブリッドガイダンス」を実現しました。この取り組みは、観光客にとって分かりやすく多様なニーズに応えられるガイド手法であると同時に、学生にとっても実践的な学びの場となっています。天王洲アイルは、都市観光のフィールドとして、教育や研究の舞台にもなりつつあります。

アートを核とした都市観光モデルの形成
天王洲アイルのまちづくりは、アートを単なる「装飾」ではなく「基盤」として位置づけている点に特長があります。ミュージアムやギャラリー、劇場といった文化施設に加え、壁画やパブリックアートがまち全体に散りばめられ、さらにデジタル技術を組み合わせることで、国内外から訪れる観光客に多彩な体験を提供しています。
この理念は、「働いて良し、住んで良し、訪れて良し」という言葉に集約されます。天王洲アイルは、働く人にとっては創造性を刺激する職場環境であり、住む人にとっては誇りと安心感のある生活の場であり、観光客にとっては新しい発見にあふれた目的地となっています。さらに、天王洲DMOは、行政・企業・大学・地域住民をつなぐコーディネーターとして、データ活用やマーケティングを駆使し、「持続可能な都市観光モデル」の実現を目指しています。

都市型観光モデルとしての意義
天王洲アイルは、水辺の立地、アートの力、テクノロジーの活用、そして産学官民の協働を組み合わせることで、これまでにない都市型観光モデルを築きつつあります。これは単なる一地域の取り組みにとどまらず、人口減少社会や観光需要の多様化に直面する日本の都市にとって、再開発や観光振興の新たな指針となり得るものです。
アートを通じて地域の誇りを育み、働く人・住む人・訪れる人の誰もが満足できる都市を実現するこの取り組みは、他の都市や地域にも応用可能な知見を積み重ねています。天王洲アイルはまさに「持続可能な都市観光地」の先駆けであり、未来の都市観光モデルを形づくる先進的なフィールドと言えるでしょう。そして天王洲DMOは、こうした持続可能な都市観光地の実現を使命に掲げ、その歩みを進めています。
※アイキャッチは、「水辺とアートの街」 天王洲運河
寄稿者 三宅康之(みやけ・やすゆき) (一社)天王洲・キャナルサイド活性化協会 / 会長