秋の紅葉の時期になると、境内にはその赤い彩りを目指して数多くの観光客が訪れる東福寺。そこから少し外れた場所に、皇室の菩提寺と言われる御寺・泉涌寺(みでら・せんにゅうじ)はある。真言宗泉涌寺派の総本山、江戸時代の後水尾天皇から孝明天皇までの陵墓があるため、御寺と呼ばれる。また、楊貴妃の風貌を似せた観音菩薩坐像も安置されている。
ここでは、東福寺の喧騒は鎮まり、銀杏の黄色やカエデの朱色が目の前に迫ってくる。また、周辺には、泉涌寺の塔頭寺院がアップダウンする土地に建てられている。そして、その中に寺号を「観音寺」と称する寺院がある。
熊野権現が現れる「今熊野」
空海は、この地で熊野権現に対面する。そのため、十一面観音菩薩像を祀ったことに始まる。平安時代、熊野三山は、当時の貴族たちの憧れの地であった。しかし、熊野までの旅は、果てしないものであった。それ故、山号を新那智山とし、なかなか赴くことができない熊野三山を都のそばに造営したのだ。周辺を「今熊野」と称する謂れでもある。また、この辺りは、貴族の葬地であった「鳥辺野」の南西に当たる。観音寺は、その任にあった。
紅葉の京都は、有名な神社仏閣を中心に、数多くの観光客が訪れる。しかし、時間や場所を少しずらすだけで、ゆっくりと素晴らしい景色を体感する。特に、早朝は観光客も少なく、究極の「ずらし旅」を体感できる。やはり、早起きは三文の徳だ。
(2020.12.12.撮影)
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取材・撮影 中村 修(なかむら・おさむ) ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長