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コミュニティホスピタル×ユニバーサルツーリズムの接続点〜白衣を脱いだお医者さんが、まちに出てきた!〜

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はじめまして。旅行介助士(トラベルヘルパー)兼、介護福祉士の逢坂忠士です。
12月6日、私は「トラベルwithじぇぷと」主催の愛知ユニバーサルツーリズム研修に参加するため、愛知県豊田市を訪れました。介護・観光・地域創生の交差点で、私たち専門職が何ができるのか。そのヒントを探るのが目的でした。
旅行介助士として、私はかねてより個人の健康状態と「旅をしたい」という夢との間に存在する、目に見えない壁を幾度となく目にしてきました。だからこそ、豊田市で学んだことに、私は深く心を打たれたのです。
そこで出会ったのは、私の想像をはるかに超える、力強い潮流でした。それは「病院や医師が、自ら“白衣を脱いで”地域と積極的に関わっていく」という、新しい医療の姿です。今回は、その研修会で学んだ驚きと感動、そして、これからの社会の可能性についてお伝えします。

基調講演で学んだ「総合診療」と「コミュニティホスピタル」

この日の基調講演に登壇されたのは、豊田地域医療センターの近藤敬太医師。彼が語ったのは、「総合診療」と「コミュニティホスピタル」という、これからの地域医療を支える2つの重要なコンセプトでした。

「総合診療医」とは?:臓器だけでなく、人と地域を診る専門家

「総合診療」は、日本では2018年に新しく専門科目として創設された、比較的新しい分野だそうです。
その特徴は、特定の臓器や病気だけを診るのではなく、子どもから大人まで、どんな病気でも、どんな年齢の人でも診ること。さらに、患者さん個人のみならず、その家族や生活背景までを考慮し、時にはコミュニティに出て地域全体を診る専門家です。
驚くべきことに、OECD加盟国では医師の2〜3割がこうした総合診療を専門とするのに対し、日本ではまだわずか3%程度。年間9000人生まれる医師のうち、本来なら2000〜3000人が担うべきこの分野に、現状では300〜400人ほどしか進んでいないというのです。

「コミュニティホスピタル」という新しい病院の形

「コミュニティホスピタル」とは、中小規模の病院が目指す、新しい姿です。
これまでの多くの中小病院は、専門性の高い大病院のミニチュア版を目指してきました。しかし、コミュニティホスピタルが目指すのは、「地域包括ケアの拠点」です。総合診療を軸に、外来、入院、在宅医療、そして「地域活動」までをシームレスにつなぎ、地域に必要な医療を包括的に提供するハブとしての役割を担います。
これは単なる医療モデルの変革ではありません。病院が「治療の場」から、人の「生きがいを支える拠点」へと進化する可能性を秘めているのです。
近藤医師は、自身の故郷でもある豊田市を「世界一健康で幸せなまちにしたい」と熱く語ります。
その壮大なビジョンの実現に向け、総合診療を水道や電気のような社会の「インフラ」にすることを目指しているのです。

なぜ医師は「白衣を脱ぐ」のか?

近藤医師は、なぜ医師や医療者が病院の外、つまり地域に出ていく必要があるのかを力説されていました。
その最大の理由は、「地域をみる」こと自体が総合診療の専門性の一つだからです。心臓外科医が心臓の血管というミクロな世界を深く見ていくのに対し、総合診療医は、患者さんを「個人」から「家族」「地域」「社会」というマクロな文脈の中で捉え、病気の根本原因を探ります。
そして、このアプローチには、多くの具体的なメリットがあるといいます。

患者満足度の向上: 自分の住む地域を理解してくれている医師に診てもらえることは、患者さんの安心感と満足度に直結します。

  • 病院の信頼性向上: 地域に出ていくことで病院の顔が見えるようになり、「何かあったら、あの病院にかかろう」と思ってもらえる信頼関係が生まれます。
  • 人材の確保: 理念を発信することで、共感する人材が集まります。実際に、病院の地域活動を紹介するInstagramを見た愛媛県の看護師が「この病院で働きたい」と、愛知県まで引っ越してきたという感動的なエピソードも紹介されました。
  • 医療者の教育: 医療は、より良い生活のための“手段”であり、目的ではありません。例えば、同じ大腿骨骨折でも、街中に住む人と山間部に住む人では「歩けなくなる」ことの意味が全く異なります。地域を知ることで、医療者はこの本質を深く学ぶことができるのです。
  • 地域のニーズ把握: カフェで健康相談会を開くと、「検診の事務員の態度が気に入らない」といった直接的な不満など、公式アンケートでは決して出てこない生の声が聞こえてくるといいます。こうした率直なフィードバックこそが、病院を改善するための貴重な情報源となります。

医療と介護の連携が生んだ感動的な瞬間:伊勢神宮での実話

この日の講演で、私の心を最も揺さぶったのは、近藤医師が語った一つの実話でした。それは、高齢の男性の「伊勢神宮にお参りしたい」という願いを、医療と介護のチームで叶えた旅の話です。

近藤医師や介護の専門家である坂本さんたちが同行したその旅は、決して平坦な道のりではありませんでした。道中の長嶋サービスエリアで男性の血圧が急に下がるというアクシデントに見舞われ、なんとか伊勢神宮にたどり着いたものの、最後の難関が待ち受けていました。参道は砂利道で、借りていた電動車椅子も進めません。そして参拝所の目の前には、バリアフリーではない石段が立ちはだかったのです。

「ここまでか」と思われたその時、チームは諦めませんでした。近藤医師ともう一人の同行者が、なんとその男性をおんぶして、一歩一歩、石段を登りきったのです。この話には後日談があり、この男性は、お笑いコンビ「ガンバレルーヤ」のよし子さんのおじいさんだったそうです。

旅行介助士として、私たちは常に物理的な障壁(バリア)と向き合います。しかしこの話は、最後の最後、制度や設備では越えられない壁を、専門職の『人の力』そのもので乗り越える究極の姿でした。これは単なる介助ではなく、人の尊厳と夢を文字通り背負うという、私たちの仕事の原点を突きつけられた瞬間でした。

「やりたい」を支える社会へ

今回の研修で、私は「病院」と「地域」を隔てていた壁が、確実に崩れ始めていることを実感しました。
病気を治すだけでなく、患者さんの人生や生活、そして「旅行に行きたい」といった願いまでをも理解し、支えようとする医師たちがいる。これは、私たち介護や観光の専門家にとって、これ以上ないほど心強いパートナーの登場を意味します。近藤医師が目指すように「総合診療がインフラになる」社会が実現すれば、誰もがもっと自由に、自分らしく生きられるようになるはずです。
私も旅行介助士として、ご本人・ご家族・事業所の「やりたい」を支えるため、こうした新しい潮流を生み出す地域の皆さんと手を取り合っていきたいと決意を新たにしました。医療、介護、観光、そして地域が一体となって、そこに住む人々を「健康で幸せ」にするまちづくりに貢献していきます。

私の取り組み:観光×介護×健康をつなぐ高尾山ユニバーサルツーリズム
今回の研修で学んだ潮流は、私自身の活動とも深くつながっています。私もまた、観光×介護×健康を接続し、新しいビジネスモデルを創出する取り組みに携わっています。
具体的には、東京山側DMCのユニバーサルツーリズムアテンダント事業に参加し、「高尾山ユニバーサルツーリズム」の企画・サービス提供しています。
これは、シニアの方や障害のある方のために、私のような旅行介助士・介護福祉士が同行する完全プライベートツアーです。「諦めていたあの景色へ」をコンセプトに、ご本人、そしてご家族の願いを叶え、「3世代の最高の思い出づくり」をお手伝いする。そんなプレミアムな旅行の実現をサポートしています。

      寄稿者:逢坂忠士(株式会社東京山側DMC)

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