【New!トップページ新着コメント欄追加】 学び・つながる観光産業メディア

Facebookはシティセールスの“一丁目一番地”

コメント

地方自治体の観光プロモーションの現場では、いまFacebook活用がほぼ止まっていると言っても過言ではありません。国内のSNSといえば、X(旧Twitter)、Instagram、YouTubeが主流という認識が根強くあります。

では、なぜFacebookは使われなくなってしまったのか。背景には、いくつかの構造的な事情があるように見えます。SNS黎明期にはフォロワー数を“水増し”するような運用が横行し、本来のファンや潜在顧客との関係性が希薄になっていきました。また実名・実写真で使うイメージから若年層の利用が伸びず、そもそも投稿がバズりにくいという特性もあります。さらに自治体では若手スタッフが運用を担うケースが多く、彼ら自身がFacebookユーザーではないため、手応えが得られず運用が止まってしまう──そんな悪循環が続いてきました。

しかし、実際の日本のFacebookユーザー層は、中高年層・ビジネス層が中心で、収入・時間・移動余力のある層が多いのが特徴です。地域観光において、本来もっともリーチすべき層にもかかわらず、なぜかFacebookだけが活用の議論から外れたままになってきました。

本連載では、「なぜFacebookなのか」「誰に届いているのか」「地域にどのような変化が生まれているのか」をテーマに、自治体の取り組みを紹介していきたいと思います。

13年に渡り、帰国の港であり続けた舞鶴

~コロナ禍に始めたFacebook~

第二次世界大戦後、海外から帰還する多くの人々を受け入れた舞鶴。とりわけ舞鶴は日本海側唯一の軍港であったことから、シベリア抑留からの引揚者を約13年にわたり迎え続けた土地として知られています。極寒の地から祖国へ帰る人々が最初に降り立ったこの土地には、戦後復興の歴史が刻まれており、今もその記憶を残す証言や資料が集まっています。

その歴史を後世に伝える拠点として運営されているのが舞鶴引揚記念館です。展示では“戦争の歴史”ではなく、そこで生きた人々の人生を丹念に伝える姿勢が貫かれています。そして今年は、所蔵するシベリア抑留関連資料がユネスコ「世界の記憶(Memory of the World)」に登録されてから10年を迎えた年でもあります。

2020年、コロナ禍で休館を余儀なくされたとき、「この場所の記憶を止めてはいけない」「将来の来訪者を蓄積していく場をつくらなければ」という思いで、その危機感と使命感から始められたのがFacebookでした。来館できない時期においても、史実の継承を続けるために、舞鶴引揚記念館は、新たな情報発信活動の一歩を踏み出しました。

▶舞鶴引揚記念館 Maizuru Repatriation Memorial Museum
https://www.facebook.com/maizuruhikiagekinenkan/

語り部文化が象徴する、“記憶の継承”

~初めて史実を知った大学生~

舞鶴引揚記念館には、長く語り部の文化が息づいています。かつては引揚経験者自身が語り手となり、現在ではその証言を受け継いだ次世代へと継承されてきました。特に、地域の中高生が中心になっている学生語り部の活動は、地域に根ざした継承のあり方として定着しています。

そんな中、コロナ禍にスタートしたFacebookには全国からフォロワーが増え続け、現在、7000人を超える数になっています。さまざまなタイプの記事を投稿していますが中でも非常に意義のある展開になってきているのが大学生の参画です。令和3年度から令和7年度までの間に、合計41名の大学生が記念館の情報発信に関わり、これまでに73本の記事が投稿されています。

大学生が書いた記事への反応は非常に大きく、73本の記事の総いいね!数7万6,553、総コメント数880、総シェア数1,663。総エンゲージメント数は7万9,096件に達します(※2025年11月30日現在)。少額の広告費を運用する記事とオーガニックのものが混在していますが、1投稿あたりの平均エンゲージメント数は1,000を超え、記事によっては2,000以上の反応が寄せられるものもあります。オーガニックの記事でも数百の「いいね!」がついています。さらに、シェア数も多いことから、記念館のFacebookのフォロワーが、Facebookを使ったシベリア抑留と引き揚げの史実の継承という活動そのものへのロイヤリティが高く、彼らに大学生の記事が好意的に受け入れられていることがわかります。

観光と情報発信の新しい形

初めて知った史実への驚き、抑留生活の過酷さへの共感、そして忘れられつつある歴史を大学生が語り直す姿。それらはFacebookのユーザー層──中高年層やビジネス層を中心としたコミュニティに強く響いています。単なる情報発信ではなく、「歴史を継承する」という行為そのものが共感を生んでいる点が象徴的です。同時に、大学生にとっても、社会人になる前に正確な史実を知ることができたこと、そして自身が書いた記事が公式Facebookに掲載されることで、 “地域の記憶・史実”と“大学生の学び”が接続していくという、現代的な価値を見出すことができます。

~来館という一度きりの体験を、関係へとつなげる~

舞鶴引揚記念館が果たしている価値は、単なる情報発信や歴史の継承にとどまりません。一般に、地方自治体が観光施策を進める際には、来訪そのものだけでなく「その地域を好きであり続けてほしい」「一度きりでは終わらない関係を築きたい」という視点が常に前提として存在します。

Facebookというメディアは、この課題の解決に最も適した特性──長い文章、深い共感、フォローによる継続接点──を備えています。投稿への反応やフォロワーとしての継続的な接点は、来訪前後を問わず、地域との心理的距離を縮めていく役割を果たします。舞鶴引揚記念館のFacebook運営のような取り組みは、観光という文脈で重視される「関係人口」「将来的な来訪者の創出」というテーマにも自然に接続していきます。

そのために活かされているのがFacebookです。投稿には詳細な文章が添えられ、コメント欄には来館者の思いや体験が寄せられています。また、招待機能を活用し、興味を持ったユーザーが自然にフォロワーとなる仕組みを整えています。こうして蓄積されるフォロワーは、単なる数ではなく、「舞鶴とつながりたい」と願うロイヤリティの高い層となっています。

舞鶴引揚記念館は、史実の継承の拠点であると同時に、舞鶴市の地域観光を支える資源でもあります。歴史と観光を橋渡しし、訪問前の関心喚起から、訪問後の関係性の形成までをつなぐ存在。Facebookは観光資源の価値を編集し、ストーリーとして届ける場にもなっています。地域観光がこれから進むべき方向性を示す象徴的な取り組みだと言えるでしょう。

寄稿者 菅原豊(すがはら・ゆたか)クロスボーダー㈱ 戦略PRプロデューサー

/
/

会員登録をして記事にコメントをしてみましょう

おすすめ記事

/
/
/
/
/