観光庁の村田茂樹長官は12月17日の定例会見で、2025年11月の訪日外国人旅行者数が約352万人となり、11月として過去最多を記録したと発表した。村田長官は、「1月から11月までの累計は約3,907万人となり、昨年1年間の実績をすでに上回った。暦年として過去最高となることが確定した」と述べた。会見ではこのほか、中国市場の動向や出国日本人数の回復状況、国際観光旅客税の呼称を巡る考え方、特定複合観光施設(IR)の新たな申請期間設定、温泉文化のユネスコ無形文化遺産提案候補選定、違法民泊対策などについても説明が行われた。
欧米豪・中東が牽引、市場多様化が進展
地域別では、訪日客全体の約8割を占めるアジア諸国が前年同月比6%増、欧米豪および中東諸国は同27%増と大きく伸びた。村田長官は「特に欧米豪や中東諸国からのインバウンドについては、力強い成長軌道が続いていると受け止めている」と述べた。
質疑では、年間累計で過去最多となった要因についても問われ、村田長官は「インバウンド市場の多様化を進めてきた中で、欧米豪や中東諸国からの伸びが非常に力強いことが大きな要因の一つ」と説明した。特定国依存を避ける政策の方向性が、数字にも表れている。
中国市場は伸び鈍化、「状況を注視」
一方、中国からの訪日客は前年同月比3%増にとどまり、伸びは鈍化した。村田長官は「11月14日に中国政府から日本への渡航を避けるよう注意喚起が行われて以降、一部でキャンセルの動きが出ていると承知している」と述べた。
航空便の減便や地方空港路線への影響については、「どの程度影響が及ぶかについては、今後の状況を注視していきたい」とし、現時点での定量的な評価は示さなかった。観光庁としては、影響を見極めつつ対応を検討する姿勢を示した形だ。
出国日本人数も増加、回復基調は継続
11月の出国日本人数は約133万人で、前年同月比13%増。1~11月累計では約1,343万人となり、前年通年実績を上回った。村田長官は「コロナ前の水準には達していないが、コロナ後、年々回復してきている」と述べ、国際線の便数増加などが回復を後押ししているとの認識を示した。インバウンドの急回復に比べ、アウトバウンドは緩やかな回復にとどまっており、今後の政策的な後押しが引き続き課題となる。
国際観光旅客税、「出国税」表現に注意喚起
会見冒頭では、国際観光旅客税の呼称についても説明があった。村田長官は「『出国税』という略称は、日本人だけに課される税であるとの誤解を招きやすい」と指摘し、「国際観光旅客税は、外国人を含む国際観光旅客全体を対象とした税だ」と説明した。
税収の約4分の3は外国人出国者によるものだとし、報道では「旅客税」との表現を用いるよう配慮を求めた。税制議論が続く中、用語の整理を求めた形だ。
IR整備、新たな申請期間へ意見公募
特定複合観光施設(IR)整備を巡っては、新たな区域整備計画の申請期間を定める政令改正案について、同日から1か月間のパブリックコメントを開始した。申請期間は2027年5月6日から11月5日までを想定している。村田長官は「これまで自治体の検討状況を把握するため、定期的な調査やヒアリングを行ってきた」とした上で、「自治体の検討状況を踏まえ、公平性の観点から申請期間を設定した」と述べた。現時点で認定されているIRは大阪・夢洲地区のみとなっている。
温泉文化と民泊対策、制度面の動きも
このほか、温泉文化がユネスコ無形文化遺産の新規提案候補に選定されたことについて、村田長官は「観光庁としても大変喜ばしく思っている」と述べた。温泉地を中心とした地方誘客への波及が期待される。また、2025年度補正予算では、違法民泊対策として4,000万円を計上。住宅宿泊事業に加え、特区民泊や簡易宿所も含めた実態調査を行い、その結果を踏まえて民泊制度運営システムの改修を進める方針が示された。
訪日客数はコロナ後の回復局面を超え、量的には新たな局面に入った。
