12月9日、 横浜・みなとみらいの共創施設「chilink WORKSITE MINATOMIRAI」にて、小田急電鉄、京王電鉄、京浜急行電鉄の3社による合同プロジェクト「NATURE DAYS PROJECT」のキックオフ企画として、カンファレンス「となりの自然と、暮らしていこう。」が開催された。 箱根・高尾・三浦という首都圏有数の自然観光エリアを舞台に、住民にも来訪者にも魅力的な地域であり続けるため、自然を身近に感じられるライフスタイルの提案を通じて地域で活動するプレーヤーを支 援することが、本プロジェクトの狙いである。
これまで路線や商圏の競争関係のなかでそれぞれのエリア価値を磨いてきた鉄道事業者が、路線の 垣根を越え、自然資源と地域の暮らし・商い・体験を一体で捉え直すために連携した点は、首都圏の観 光・地域づくりにおける象徴的な転換として受け止められた。
業界の垣根を越えた熱気と期待
会場には自治体関係者や大手デベロッパーのみならず、各地でゲストハウスやカフェを営む個人事業主、アウトドアブランド関係者など、多様な参加者が集い、本プロジェクトが掲げる世界観への関心の広 がりが感じられた。
受付で手渡された資料からは、単なる観光キャンペーンではなく、地域に根差した「暮らし」「小商い」「体験」を支える担い手との共創を本気で志向する姿勢が伝わってきた。

白熱のセッション:地域の「体温」を高める実装論
カンファレンスの核となったのは、4つのトークセッションである。
テーマは「自然×暮らし」「自然×小商い」「自然×体験」「地域×企業」。箱根・高尾・三浦エリアで活躍する地域プレーヤーや、まちづくりに関する 有識者が登壇し、地域の魅力や価値を活かした新しい取り組みの実践知が共有された。

特に「地域×企業」のセッションでは、『〈迂回する経済〉の都市論: 都市の主役の逆転から生まれるパブ リックライフ』の著者である吉江 俊氏(東京大学 大学院工学系研究科 都市工学専攻 講師)と鉄道3社 の代表者が登壇。
鉄道会社が従来得意としてきた「都心と観光地を最短で結ぶ輸送モデル」だけに留まらず、移動のプロ セスや地域内での滞留を価値化する視点、そして地域とともに企業が成長してきた背景や、本プロジェ クトを通じて成し遂げたいビジョンが語られた。
また「自然×小商い」では、高尾ビール代表の池田周平氏、三浦ブルワリーの小松哲也氏らが登壇し、 地域資源を活用したビジネスがコミュニティのハブとなり、来訪者と住民の関係性を編み直していく手触 りが共有された。
「自然×体験」では、原っぱ大学の塚越暁氏らが、自然に身を置く体験の価値を提示し、今後の体験設計の重要な指針となる示唆が多く示された。
参加者の声と広がる交流
トークセッション後には懇親会が設けられ、登壇者と参加者のネットワーキングが活発に行われた。地域の課題やビジネスの試行錯誤が具体的に交換される場面も多く、カンファレンスが共創の起点として 機能し始めていることを実感した。

参加者からは以下のような趣旨の声が印象的だった。
- 「鉄道会社のまちづくりへの姿勢が想像以上に柔軟で、個人のプレイヤーとも同じ目線で対話しているように感じた」
- 「他エリアの実践者の話から、自分の地域でも応用できるヒントが得られた」
- 「競合する鉄道会社が手を組む姿勢に、本気度と危機感を感じた」
未来への実装へ : 競争から共創へ
今回のキックオフを通じて浮かび上がったのは、観光と地域創生の焦点が「単発の集客」から、「暮ら し・小商い・体験の担い手を増やし、地域の持続可能性を高める」方向へと確実に移行していることだ。
鉄道3社は、地域人口の維持や担い手不足、混雑の分散、繁忙・閑散期の差といった共通課題を認識し、地域内外のプレーヤーを巻き込みながら新たな魅力・楽しみ方の創出を目指している。
点在していた箱根・高尾・三浦の価値が、3社連携によってより立体的・広域的に再編集されていくなら ば、首都圏の自然観光の地図そのものが更新される可能性がある。
自然環境の維持・継承と経済的循環の両立という難題に、鉄道事業者が「輸送」だけでなく「地域の未来の共創者」として踏み込む。その試みの輪郭を、今回のカンファレンスは確かに示していた。
次回開催情報
本プロジェクトは今後も継続的な活動を予定している。次回のイベントや具体的なプロジェクトの進捗に ついては、各社公式サイトおよびプロジェクト関連チャネルで随時発表される見込みだ。
NATURE DAYS PROJECTに参画したい方、アイデアを形にしたい方を募集しています。
下記連絡先にご連絡ください。
info@naturedaysproject.com
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